真相
好きだ、大好きだ。貴女が好きだ。
泣き叫んだら帰ってきてくれる?
「桜先輩…」
空の青と彼女の白。
裏切られた気持ちのやり場。
何も、分からない。
言い訳くらいしてくれれば良いのに。
最後の幸せでしたは本心だったの?
…貴女のことを僕はどのくらい知れた?
「こーはいくん、だよね。」
「!?」
「そんなびっくりした顔しないで、早野です。早野優です。」
「はじめ、まして、村瀬です…」
優しげな微笑みを浮かべる「さくちゃん」の旦那さんを見ながら空恐ろしいものを感じた。
「うちの妻、に何用ですかね?」
「お借りしてすみません…」
「どうしたんですか?」
「それは…」
「はい。」
こんな時でも微笑みを絶やさない旦那さんを見ながら、「さくちゃん」がこの人を選んだ理由がわかった気がした。
「僕がその、桜さんを好きだっただけな…」
最後まで言い切れずに泣き出した自分を嫌いになりそうだった。
最後くらい格好がつけたいのに。
どうしてだろう。
「そうですか、うちの妻が何かしたわけではなく?」
しましたよ。長い間ね。なんて皮肉は口から出てこない。最後の幸せだったという彼女の言葉がまだ体から消えていないから。
「いやいや。」
「それならいいんです。諦めていただけましたか?」
「…はい。」
「ごめんなさいね。」
黒いタキシード。「さくちゃん」が好きそうなスレンダーな背の高さ。何もかもが羨ましい。
言い訳をしなかった先輩の姿が浮かぶ。
嘘がつけない先輩のことが好きだった。
「早野さんは心配じゃないんですか?」
「ん?」
「桜先輩のこと。ほら、先輩引く手数多じゃないですか。」
「妻がモテるっていうのも自慢に出来たら良いんですけどね。やっぱり不安ですよ」
「そんな先輩と結婚するんですか?」
「しますよ。」
「先輩が好きだからですか?」
「勿論そうです。」
「それなら良いんです。」
最後は俺だって自分が可愛い。
先輩が選んだ早野さんはきっと良い人なんだろう。
きっと今日も明日も泣いて先輩のことが忘れられない日々が続くんだろう。
やり場のない気持ちが消えない間にはもう慣れたから大丈夫だ、きっと…
「村瀬さん。」
「はい。」
「うちの妻と過ごした日々は楽しかったですか?」
「……え?」
「今日からは返して下さいね。」
黒いタキシードの上に浮かぶ彼の顔は相も変わらず微笑んでは居たけれど、ぞっとした気持ちは戻らない。
「そろそろ時間ですので。」
「はい。」
出て行ったドアをそっと閉じ、失礼いたします、と言うその瞬間まで微笑みを絶やさず消えていった。
「もしかして…」
真相
知らなかったのは、俺だけ。