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「早野様、新婦様にお会いしたいという方がいらっしゃるのですが。お通ししてもよろしいでしょうか?」
「何さんですか?」
「村瀬さまです」
「さくちゃん知ってる人?」
「…ごめん優、席外してもらえない?」
「なんのようなの?」
「分かるわけないじゃない、なんだろう?」
「手短にね!!どうぞ?」
「ありがとうございます。桜先輩、結婚おめでとうございます。」
「ありがとう?」
目があった気がしたその刹那からの物語。
「いつから?」
先輩に聞きたかった言葉をぶつける。
目の前の花嫁姿。
『結婚します』と突然きたLINE。
「つきあってたよね?」
黙り込まれたら何も分からない。
浮気だったのなら浮気だったと言ってくれればまだいい。
目の前のこの人は彼女だったはずだ。
誰と結婚するって?
何が起きたのかせめて、先輩の声で説明して欲しくてこんな時間に訪ねてしまった。
そうしないと多分この人は逃げるから。
「多分ね。」
「多分って何?要するに浮気ってこと?」
「貴方が浮気ってこと。」
「だろうね、早野さんとは結婚するんだもんね。」
「あはは…」
「笑い事じゃないよ。」
「そう…だよね…」
目の前にいる知らない人をずたずたに傷付けたら、いつもの桜先輩が出てくるだろうか?
「何も知らなかったのは俺だけ?」
「…知ってたのは私だけ。」
「知りたくもなかったよ。なんだこれ。」
「なんなんだろうね。」
「せめて目くらい合わせてよ」
「合わせたって何も変わらないもの」
床に目を合わせる「桜先輩だったもの」に問いかけるけれど返事はない。
2回目なんだよ?なんなんだよこれ。
そんな白いドレス脱いで冗談だったって言ってよ。
「あなたのこと好きだったのは俺だけってこと?」
「そういうことになってしまうね。」
「なんで他人事なの?先輩のことなんだよ」
「知ってる。」
「こんなに辛いのは俺だけ?」
「…。」
「何か言ってよ。」
何時しか流れ出した涙もこの人にとっては他人事なんだなんて思ったら、もう耐えられなかった。
この人はどうせ俺のことなんて好きじゃなかった。もうそれでいいよ。
純白のレースを引っ張っては伸ばす貴女は他の人のもの、それだけなんとかなれば。
「旦那さんに全てバラす。先輩だけ幸せになんてさせない。」
「別にいいよ。それが罰になるなら。」
「せめて泣いたり騒いだりしてよ、あなたは何がしたかったのさ。」
先輩のいつもより赤い唇が動く。
いっそキスして塞いでやろうか、なんて浮かぶ。それは違うなんて声もする。
どうしたらこの人に自分が何をしたのか分かってもらえる?
「新婦さま、そろそろお時間の方が…」
「今行きます。」
「ねぇ先輩」
「…なに?」
「せめてこれだけは聞かせて、少しでも俺のこと好きだった?」
「…」
「答えて…」
息が止まるほどの空白。
先輩の息遣いが聞こえた、気がした。
「さくちゃん!ごめん、時間やばい!」
「ごめん、優。今行くね。」
パタパタと去っていく音がした。
音に気を取られたその時だった。
先輩の息遣いが耳元に響く。
「……先輩?」
「しあわせ、だったよ」
扉がしまる。
もう俺の桜先輩じゃなくなってしまう。
あなたの名前は、さくちゃんになってしまうんだろう。
「そういう答えが欲しかったんじゃないのにな」
窓の外の青色にあなたのドレスの色が残ったそんな気がした。
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