【 Associazione del pianoforte e l'uovo】

ピアノラボ

 唐突ですが、たまごとピアノの関連性や類似性について、考えてみようと思います。

 まず始めに、ピアノの演奏家や指導者の中には、たまごと聞くと、演奏時の手の形を思い浮かべる方がいるかもしれません。「手でたまごを優しく包み込む形で、演奏しましょう」という指導を、一度は見聞きしたことがあると思います。
 実は、かつての名ピアニスト、ルービンシュタインは、演奏時の手の形がまさに「たまごをそっと包み込むような」感じだったと言われています。しかし、この形には欠点も多く、今では時代遅れの奏法とも言われています。
 勿論、私は演奏の専門家ではありませんので、深く話すことも批判も推進も出来ませんが、「たまごとピアノ」から連想するモノの一つ目として、取り上げてみました。

 では、技術者として、たまごから連想するモノは何があるでしょうか?真っ先に思い浮かぶモノは、やはりハンマーでしょう。
 沢山あるピアノの構成部品の中で、五指に入る重要なパーツがハンマーです。ハンマーは、木に圧縮したフェルトを巻き付けた部品で、鍵盤の動きと連動して弦を叩く部品です。

 ピアノの音は弦振動です。ハンマーは、実際に音を出す部品ではないのですが、弦をどのように振動させるのかという点で、大きな影響を及ぼす部品なのです。
 そのハンマーの特性は、フェルトや木部の質や重量、含水率、硬さ、弾力性、フェルトの巻き方や巻く時のテンションと共に、最終的な形状によっても左右されます。
 良いハンマーの形として、一昔前まではよく「卵型」と表現されていました。現在は、本体の特性やアクションのレスポンスなどを総合的に考慮して、大きさや形、重量などを決定しますので、ピアノによっては必ずしも卵型が良いとは限りませんが、「たまごとピアノ」と聞くと、やはりハンマーの形を連想してしまいます。

 もう一つ、技術者視線からの「たまごとピアノ」。
 少し下品な話になりますが、ピアノの内部を掃除していると、しばしばGの卵を見掛けます。中身は入ってないことが多いですが、時々ギッシリと中身の詰まったゴキタマにもお目に掛かることもあります。
 あまり綺麗な話ではありませんが、たまごと聞いて、ゴ○ブリを思い付く技術者も少なくないと思います。

 また、フェルトの部品が虫に喰われていることもありますが、その説明にも卵は登場します。
 あの虫喰いは、通称「スムシ」と呼ばれるある蛾の幼虫の仕業なのですが、全長数mmのヤツらにそれ程の移動能力はありません。
 では、どこから湧いてくるのでしょう?
 勿論、成虫の蛾が飛んでくるのです。飛来した蛾がピアノの中に入り込み、我が子の好きそうなフェルトの多い場所を見付けると、そこで産卵するのです。なんて子ども思いの母親なんでしょう!そのおかげで、見渡す限り食糧に溢れた環境で孵化した幼虫は、空腹に悩まされることなく、大切なフェルトのパーツを食べて育ちます。そして、ヤツらはピアノの中で成育し、ピアノの中でマユになり、ピアノの中で蛾になるのです。
 いよいよ大人になった蛾は、新たな環境を目指して飛来していく前に、自分の親がそうしたように、我が子の為に、またピアノの中に卵を産み付けていくのです。
 一年間に数世代、このルーティンを繰り返しますので、一度虫喰いにやられたピアノは、早急に対応しないと被害は瞬く間に拡大します。
 それだけでなく、活動期が終わっても、フェルトに卵が残っている可能性を孕んだまま冬を越す為、次の春からまたまた被害のルーティンが始まるのです。
 あまり有難くない「たまごとピアノ」でした。

 先日、養鶏の仕事をしている友人に会いました。
 良い玉子、美味しい玉子を作るには?という話を沢山聞かせて頂きました。

 勿論、飼料は重要です。水も大切です。それ等を与える量やタイミングにも専門的なノウハウがあるでしょうし、そもそも飼育環境やスタイルも重要です。
 そういった様々な飼育技術をコントロールすると、「黄身がつまめる玉子」や「黄身がこんもりと盛り上がった玉子」、「鮮やかな濃い色の黄身」など、一時期もてはやされた玉子は容易に生産出来るそうです。それらは、プレゼン的なインパクトには長けていますが、必ずしも良い玉子というわけではないそうです。

 良い玉子とは、結局のところは栄養価が高く、バランスも良く、新鮮で、美味しい玉子ということに尽きます。その玉子を作る為に様々な試行錯誤を繰り返しているようですが、しかし、意外なことに、鶏そのものの質はそれ程重要ではないそうです。
 勿論、高齢や病気などの極論は除外した上で、そこそこの鶏であれば、飼育の仕方次第で美味しい玉子を産ませることが出来るそうです。

 そして、養鶏にあたって何よりも大切なことは、鶏に愛情を注ぐことだそうです。
 これは、綺麗事でも何でもなく、愛情を注いで育ててこそ、気付くことがたくさんあるのだそうです。やはり、相手は生き物ですから、何事もマニュアル通り、機械仕掛けの処理では解決出来ないのでしょう。真剣に鶏と向き合い、鶏を理解し、個性を知り、鶏を大切に扱ってこそ、鶏が求めることも理解出来るようになり、ちょっとした異変にも気付くのだそうです。そのためには、やはり愛情を込めて育てるしかないでしょう。

 その話を聞いていて、ピアノも同じだなぁと思いました。
 お客様のピアノであれ、公共のピアノであれ、自分が継続してメンテナンスをしているピアノは、「維持」や「保守」に留まらず、「育てる」意識を持って接しています。

 ピアノは、良いコンディションをずっと保つことは出来ない楽器です。殆どの部品は消耗品ですし、環境の変化にも敏感に反応します。なので、「現在」と「未来」を見据え、「過去」を参考に、コンディションを整える作業こそ、最良のメンテナンスだと思っています。
 それは、つまり「ピアノをどのように育てていくか?」「どのように育てるべきか?」と換言出来るかもしれません。

 基本的に、ピアノは生き物だと思って接しています。生き物を育てる為には、やはり愛情を注がないといけません。鶏と一緒で、ピアノも愛情を持って接していると、今何が必要で何をすべきか、ピアノが何を訴え掛けているのか、痛いほど伝わってきます。
 良い玉子を産ませるために鶏に愛情を注ぐように、良い音を生み出す為には、やはり愛情を込めてピアノに接しないといけないのです。
 鶏をピアノ、玉子を音に例えると、こんなところにも類似性があったのです。

 その友人との会話の中で、音楽の話にもなりました。
 あまり縁のないジャズやクラシックにも興味はあるそうで、お勧めのピアニストは誰か?といった質問もされました。私の知る限りの中で、これぞというモノを幾つかお勧めしました。でも、勿論CDやDVDで鑑賞するのも良いですが、可能なら、是非生でピアノを聴いて欲しいと思います。

 なぜなら、ピアノもたまごと同じで、良いモノは生で味わうのが一番なのです。

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タマゴとピアノの関連性についての考察

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