ヘンゼルとグレーテルと僕

ヘンゼルとグレーテルと僕

ヘンゼルとグレーテルと僕


「 グレーテルどうしよう、もう家に帰れないよ」金色の髪の毛を揺らして泣きそうな声で少年は言った。
「昨日は白い小石で上手く家に帰れたけど、今回はパンのかけらを落として来たわ…小鳥に食べられてなければ良いけど」赤いスカーフを頭に巻いた金色の髪の毛を頬に垂らした少女が少年に言う。
「おい!あのパンのかけら!何かシケてて不味かったぞ!つーか、食べ物を粗末にしてんじゃねーよ!今年、大飢饉っていう事を忘れてるのか?お前たちは?」
その言葉に二人の少年と少女が振り向いた。髪の毛が黒い見た事がない男が、片手にパンのかけらを持ち口から茶色いカスをポトポト落として顎を動かしている。
グレーテルは口をポカーンと開けて停止していたが状況に気づいたらしくその男に怒鳴った。
「貴方、何を食べてるのよ!そのパンのかけらが無かったら私たち家に帰れないじゃない!」
少女はその男の食べているパンを取ろうとして腕を伸ばした。しかし男はサッと腕を避けて持っているパンを口に放り込んだ。
「パンがなければケーキを食べれば良いじゃない!さぁ!ケーキを探して森を進もうか!」
男の言葉にグレーテルは反論する。
「森を進んでどうするのよ!私たちは森から出たいのよ!」
「待て待て、お前たちは昨日の夜から何も食べていないだろ?どうだ良い匂いがしてきたんじゃないか?」
「それはそうだけど…って本当に良い匂いがしてきたわ」
森の奥の方から確かに甘い香りが漂ってくる。その事にヘンゼルはお腹をグゥーと音を鳴らした。
「グレーテル、ボクお腹がすいてきたよ。あの甘い香りがする場所に言ってみようよ」
ヘンゼルはお腹を押さえて言った。その事を言われてグレーテルも空腹を感じ始めてきた。
「そうね、まずはお腹を満たしてから森を出る方法について考えましょう」
「そうこなくっちゃ!」男は笑顔で言った。
3人はその甘い香りがする場所へと目指して林を掻き分けて進む。そうするとカラフルな色彩の色鮮やかな一軒の家が出てきた。しかもその家からは甘い香りがする。ヘンゼルとグレーテルは目を大きくしてその目の前にある家を見詰めた。何故なら壁はレープクーヘンで屋根はケーキ、窓は透き通った砂糖で出来ている。お菓子の家だった。
「すっげー、お菓子の家なんて実際に見たのは始めてだぜ!さっそく窓の砂糖から食べてみるとするか!」
そう言って男は拳で砂糖で出来た窓を叩き割り口に入れようとする。
「ちょっと待って!幾ら何でもお菓子の家何て薄気味悪いわ!此処は立ち去った方が良いじゃないかしら!」
グレーテルはヘンゼルの手を握って恐れた表情で言った。
「別にどうって事はない!と言うよりこのまま森に帰ったら腹が減って死んじまうぞ?ここは食べるのが正解だ」
男の言葉にヘンゼルも同調して話す。
「その通りだよグレーテル。このまま森に行ったって森を出る前に餓死してしまうよ、お菓子の家を食べてすぐに立ち去れば良いさ」
ヘンゼルはそう言うと男のそばに立って同じように窓を叩き割り口に透明の砂糖を右手で掬って食べ始めた。その行動に呆れた視線をヘンゼルと男に少女は送った。
「絶対、大変な事になるわよ…」
グレーテルがそう小さく呟いた時であった。
「お前ら!何故、アタシの家を食べているんだい!」
塩を喉の奥にまぶしたガラガラで低くハスキーなボイスが三人に向けて言い放った。
振り返るとその声の主は鷲鼻で歯が一本だけ生えており、顔もシミだらけの背の曲がった老婆が杖をついて立っていた。その老婆を見てヘンゼルとグレーテルは青白い顔に…
途端、『パチンッ!』と指を弾く音が聞こえた。そうするとヘンゼルとグレーテルと老婆は時間が止まったかのようにして停止した。いやそれに加えて森のざわめきや林の動く姿、旋回する鳥も雲も停止した。
しかしその中で男だけが何時も通りに動いた。
「一時停止だ!セバスチャン!幾ら何でもこの老婆はないだろ!」
男は老婆に近づいてまじまじと老婆の顔を見て言った。すると今まで停止していた、ヘンゼルはスッと動いて腕を腰の後ろに組み口を上下に動かし始めた。
「と言うのは?東堂様、この老婆の格好に不満があると?」
ヘンゼルはスタスタと歩いて男に寄って言った。
「ありだ!大ありだ!僕はこの老婆の姿がまったく好きになれないね」
「と言いますと?」
「老婆はないだろ!僕の好みとしては、可愛くて愛くるしい少女の形をした敵役の方がいいな」
その男の言葉にヘンゼルは反論した。
「お言葉ですが東堂様、今回の童話で敵役は悪人の容姿をした老婆でございます。その敵役を東堂様がおっしゃる外見に変更するというのは、この童話に対して敬意がこもっていないと私は思いますが」
「いかがでしょうか?」
ヘンゼルは老婆の頭を撫でて言った。ヘンゼルの言葉に男は腕を組んで考える表情をして「確かにそうだな物語に忠実なのは作者に対して敬意を示している事になるな」
男は笑って言った。
「よし!セバスチャン!一時停止は終了だ!物語を続けるぞ!」
男は再び指を鳴らした。
『パチンッ!』
「了解でございます」ヘンゼルはそう言うと元の場所に戻る。すると停止していた空間は再生され始めた。森は動き始め、林は風によって揺れ、鳥と雲は空を旋回し、ヘンゼルとグレーテル、そして老婆も生き返る様にして動き始めた。そして老婆は叫んだ。
「貴様ら全員!アタシの家を勝手に食べたんだ!もう二度と外の景色を見れない様にしてやる!」
老婆の言葉に男とヘンゼルは言った。
「逃げるぞ!ヘンゼルとグレーテル」
しかし身体中からヘナヘナと力が抜け落ちて地面へと尻を男とヘンゼルはつけた。
「このお菓子の家には痺れクスリが混ぜられてるんだよ!諦めるんだな」
その後グレーテルの方を老婆は見て言った。
「お前は逃げるのかい?そうなるとこの二人は一体どうなるかねぇ?ヒッヒッヒ」
グレーテルは答える。
「その男はどうなっても構いません!でもヘンゼルだけは!どうか見逃して下さい!」
「それを決めるのはお前の行動しだいだねぇ…とっとと!アタシの家に入りな!」
老婆はそうした後、ヘンゼルとグレーテル及び男をお菓子の家に打ち込んだ。
老婆はヘンゼルを檻の中に入れて鍵をかけた。
「グレーテル!グレーテル!助けておくれよ!」
ヘンゼルは檻の中から手を出して助けを求めた。
「ヘンゼル!」そうグレーテルが叫んだ瞬間『ピシィイン!!』
「ッキャアア!」
老婆の振りかざした鞭がグレーテルの細い身体に弾かれた。
「小娘!お前はこれからアタシの小間使いさ!」
そう言うと老婆はグレーテルに夕飯の支度をさせ始めた。
最後に老婆は男の方を振り向いて…
「お前には何をさせるか…」老婆は少し困って考える様にして言った。
男はその老婆に胸を張って答えた。
「実は僕、美食マイスターの資格を取得しているんですよ!そうだ!貴方、ヘンゼルを肥えらせて最終的に食べたいんでしょ?良かったですね〜、僕がヘンゼルを美味しく肥えらせる様に色々と準備を整えて差し上げましょうか?」
老婆は嬉しそうにして「よし!ではまかせたぞ!」と言うもんだから、ヘンゼルは「あんまりだ!」と嘆き、グレーテルは「この人なでし!最低!」と文句を並べるので男はグレーテルに力強く言う。
「うるさい!この小間使いが!喋ってる暇があるのなら筑前煮を作って持って来い!良いか時間はないぞ!」男はグレーテルをキッチンに連れて行った。
数分後
「どうして私、筑前煮の作り方知ってるのかしら…」と言いながら圧力鍋を持って檻に向かう。そして白い皿の上に美味しそうな匂いを醸し出す筑前煮をよそった。そしてヘンゼルの前にその優しい湯気を立てる皿を置いた。ヘンゼルは腕を伸ばして皿を受け取りその筑前煮を食べ始めた。
「美味しいよ!グレーテル!この筑前煮!このでき前なら嫁いだ後も大丈夫だよ!」
「このレンコンがたまりませんなぁ〜、味をここまで再現できるとは、うん、これは合格だな」
男は圧力鍋からおたまからダイレクトにすすって飲み、人参を口に入れて食べている。
「何!あんたまで食ってんのよ!」
グレーテルの勇ましい声に老婆の声が続いた。
「よしよし、ヘンゼルや腕を見せてごらん」そう言うと老婆はヘンゼルが肥えたかどうかを見ようとした。
「いや流石にこの短時間で太る事はできないよ!」ヘンゼルは言った。
「お黙り!こっちには美食マイスターがいるんだすぐに効果はでると決まってるんだよ!」
「悪徳商法に詐欺られた被害者みたいな事、言わないで下さい!」
ヘンゼルは仕方がないので檻の中に落ちてある干からびた骨を差し出した。
老婆は目が悪いらしくその骨をさすった後に苛立った声で言う。
「あんたどんなに食べても太らない体質かい?良く、若い女が『わたしーどんなに食べても太らない体質なのーキャピ』とほざいてる奴らと同じかい?グレーテル!すぐに窯の用意をしろ!どんなに痩せてても良い!腹がたったし、腹も減ってきた!こいつを美食マイスターと一緒に調理しろ!」
老婆はそう叫んでヘンゼルを檻の中から出した。グレーテルは泣きそうな顔で大釜を用意し始める。大窯の中の水がグツグツと音を鳴らす。
「もっともっと、火を熱く燃やせ!」老婆はマキを放り込むグレーテルに向かって怒鳴る。
そして老婆はマキを入れるグレーテルにブツブツと文句を言い始めた。
「マキの入れ方がなってないね…これだから最近の若い子は、アタシが若い頃はもっと上手くできたよ!」
その言葉にグレーテルは老婆の身体を叩いて言った。
「あんたは団塊世代の老害か!」
途端に老婆はバランスを崩して大窯の中に落ちていく。
「ぎゃあああ」
その光景を見てグレーテルはヘンゼルの腕を取り玄関へと進む。
「逃げるわよ!ヘンゼル!」
「うん!」
ヘンゼルとグレーテルは扉を開けて外へと飛び出した。二人とも息を荒くして吐いている。
「上手く逃げられたのは良いけどこれからどうしようかグレーテル?」
ヘンゼルは困ったような表情で言った。
「命があるだけで今は良いじゃない!ヘンゼル」
「その通りだよお二人さん!」
その声に二人は振り向いた。男だった。しかし男の両腕には何か重そうな箱を持っている。そして男は二人に近づいて言う。
「さぁ、この箱の中には老婆の宝物が入っている。これを持ってお菓子の家の裏にある獣道をまっすぐ進んで家に帰るんだな」
男はそう述べた後、ヘンゼルとグレーテルの前に宝箱を置いた。
グレーテルは目を輝かせて言った。
「本当に貰って良いの?」
「いいとも!」男は叫ぶ。
「グレーテル!僕たち家に帰れるよ!」
ヘンゼルは嬉しそうに言った。
グレーテルは泣きそうになりながらヘンゼルに言う。
「そうねヘンゼル、お父さんもこれで病気を治せるかもしれないわ」
そして最後にグレーテルは男に言った。
「意味がわからない人だったけどありがとう」

『ヘンゼルとグレーテルの物語はこれで終了でございます』
その音声と共に機械音と空気の流れる音が僕の耳元でなり目の前が暗くなった後、すぐに視界が明るくなる。
斜めに倒れたベットの機械からスーツを身に付けて髭を生やし白髪の威厳がありそうな風格のある年配の男性が繋がれているベルトを外して絨毯が貼られた床に降りた。
そして僕は愉快そうに言う。
「セバスチャン!素晴らしい!とても楽しかったよ!まさか適当に言った筑前煮までを反映できるとは驚いたよ」
その髭を生やした白髪の男はセバスチャンと呼んだ背の高い紳士に近づいた。
「その通りでございます。この物語はどの様な方でも話を進める事が出来る様にプログラムを組んでおります。例えば東堂様が最初にパンを拾って食べましてもね」
セバスチャンはニコニコと微笑み話す。
髭を生やした白髪の男は落ち着いた顔つきになり言う。
「セバスチャン聞いてくれ」
「はい東堂様」
「僕は若い頃、童話を書く夢があったんだ」
「ご存知であります」
「しかし僕には童話を書く才能がなかった。それに変わってプログラムを組む才能が卓越していた。自分ではその様な才能はまったく欲しくはなかったけどね」
髭を生やした白髪の男は少し唾を飲んで言う。
「あの頃は悩んだものさ、自分のやりたい事とのジレンマが激しくぶつかり合って、仕方がなかった」
セバスチャンは静かに言う。
「では東堂様…この『物語装置』を創り上げた理由と言うのは…」
「僕のエゴさ、会社の社長が自分のエゴの為に製品を開発するとは社員に対して失礼な事とは思っている」
「とんでも御座いません!東堂様!この装置は子供から大人まで夢と希望を与えられる装置でございます!きっとそれは、大切な物を思いを蘇らせる良いきっかけを与えられると私は思います」
そのセバスチャンの言葉に髭を生やした白髪の男は頷いて話す。
「そう言ってくれると嬉しいよセバスチャン、では次の物語は何にするかな?」
セバスチャンは答える。
「そうですね…白雪姫はどうでしょうか?王子様よりも先に唇を奪うと言うのは誰でも一度は憧れるものではないでしょうか?」
そに言葉に髭を生やした白髪の男は笑って言う。
「白雪姫の唇を王子より先に奪うか!何とも面白そうだ!そしてこの僕のキスで目が醒めるかも気になる!セバスチャン!次は白雪姫の物語を楽しもうではないか!」
セバスチャンはゆっくりとお辞儀して言う。
「了解でございます。東堂様」
髭を生やした白髪の男は斜めに倒れたベットに身体を寝かせた。機械音と空気が耳の中で弾かれる。男が目を開くと白い肌をした少女が赤い林檎にかじりつこうとしていた…

ヘンゼルとグレーテルと僕

ヘンゼルとグレーテルと僕

ヘンゼルとグレーテルが白い小石のかわりに落としたパンを拾って食べると僕はグレーテルに怒られた。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-06-19

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