ひとりごとの神様 ~更新中~

天体観測同好会

大して不満もないのに、どこかに”穴”を探している
満足のいく日常より、綻びのある明日を待ち望んでいた。
◇           ◆           ◇
職員室の扉を開けると、聞いていた通り顧問の木元先生しかいなかった
僕が近づくと、先生は振り返る。
「あ、今日だったけ?」
「そうです」僕の返事を聞くと、先生は立ち上がり、それぞれの教室のカギが並ぶ棚に向かう。
「屋上」と書かれたカギを僕の手の上に乗せる。
「何時に終わる予定だ?」
「大体2時間くらいです」
「今日は月がよく見える日なんだってな」先生は窓の方に目をやったが、カーテンが閉まっていた。
「まあ、せっかく天体望遠鏡もあるわけだし、いいもん見てこい」と先生は笑った。
カギは必ず職員室に返すことということだけをやたら念押しすると先生に愛想笑いを浮かべつつ
僕に一式機材を持って、職員室を出た。

教室の電気は消え、廊下の電気だけが延々と続いていた。
数時間前の騒がしさは一切なく、僕の足音だけが響く。
なんだか知らない所に来たような新鮮さを覚えた。
さっきまでクラスメイトに茶化されていた教室も
幽霊部員で成り立つ天体観測同好会の部室も通り過ぎていく。
でも今だけはそんな事実もまるでなかったかのように扱っていいとも思った。
重い道具箱を持ちながら、階段を上っていく。少し骨の折れる作業だ。
木元先生が手伝おうかと言った気がしたが、先生の世間話に付き合う方が面倒くさかった
別に先生が嫌いなわけじゃない。
◇           ◆           ◇
屋上までくると、カギを開けて外に出る。
夏が終わり、秋が来る少し前の少し冷たい風が汗の流れた首をなでる。
機材を下すと、地面にゆっくりと座った。
町から少し外れたところに建つこの学校は観測地としてはまあまあなところだった。
本格的に行うなら、山まで上って見るのが一番なのだが、
先生と両親の両方から許可が下りず、こうやって学校で見ることで我慢した。
部員が何人もいて、活動的であれば、例えば文化祭で難しい発表会やらプラネタリウムでも
やるんであれば、少しは大人たちも寛容な心を持ってくれるかもしれないが、
あのやる気のない先輩たちを見れば、僕が大人たちの要求を呑むほうが早かった。
先輩たちは受験シーズン中で誰よりも大学生活をいかに楽しむか焦点の置いていて
その前に受験という壁があることをまるでないかのように話した。
既に彼らの中では高校生活は終わっていて、そもそも同好会事態、それよか一人残される僕のことも眼中になかった。
木元先生もこの観測会を最初は部員全員で見るんだろうと思っていたけれども、先輩の建前上の言い訳である
受験の準備がうんぬんかんぬんという言葉を信じた。
そして僕一人で、望遠鏡の立て方を学び、観測後はいくつかのレポートを出すということで話はまとまった。
風が少し吹いているが、街灯に邪魔されない夜空では星は主役だった。天体観測する分に申し分のない天気。

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  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-06-19

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