ORFIREUS永久定理運動機造

1997年、9月25日。あたりは漆黒の闇に包まれ、AK47の3つのサーチライトがほのかに灯っている。足元は流れの強い海水に膝まで浸かっている。                                                「ライト点灯。」                                                      「了解。」                                                         闇に閃光が放たれる。黒い世界から現れたのは、白き巨大な、そしてとても古びた宮廷であった。長い洞窟の中に現れたその宮城は、スポットライトを当てたとたん、まるで地に落ちた月の欠片の様な異様な光を放っていた。光の塊はその中心へと入っていった。                                 長く歩いた後、突如、三人の足が止まる。そこには、枷が何重にもかけられている扉があった。一人がそこに糸ノコのようなものを被せた。  しばらくして、ガシャリという聞きなれない音とともに隙間が開く、と同時に足元の海水の流れが急に変わり、一気に隙間に向かって流れ出した。三人は、流れに任せるかのように、中に入る。暗闇の奥からから大きな機械音がし、三人がそこに向かってライトをかざした。                          「これだ。」                                                         「オルフィレウス・・・・」                                                  三人がその歯車のような機械に近寄る・・・                                    「ズゴゴーンッ!」                                                     背中に激しい痛みを感じた2人が、いきなり海水にうつ伏せになって倒れこむ。              「くそっ、誰だ!」 もう一人がポケットにあるp99に手をかけ、振り向こうとしたとたん、いきなり音が聞こえなくなり、腹部に痛みを感じた。そして、とても長い走馬灯のあと、辺りは暗くなり何も感じなくなってしまった・・・。    

 2031年 5月15日 朝日が差し込む。それと同時に目が覚める。               「夢かあぁ。」                                        彼はレザムという18歳の高校留学生である。親とは生まれたときに生き別れたらしいが、正直よくわかっていない。少年保護区で育ったかれにっとて、社会やら経済やらはどうでもよく、勉学もほとんどしなかった、が、親が昔、英語を使っていたせいか、しゃべることができた、が書くことは苦手というひねくれた才能の持ち主でもあった。日本人なのにレザムという名前なのも親が外国通だったかららしい。       いつものようにバスに乗るレザム。しかし、バスの向かう方向はいつもと逆であった。ここらは郊外であるくせに辺りは高層ビルが立ち並び、一年中明るかった。それはまるで、20年ほど前の東京都心のようであった。 今の都心は政府レベルの人が行きかう超高層都市となっており、大学を卒業しなければ、そこに住むどころか出入りすることも規制されていた。                                           バスのモニターには、レアメタルの資源維持率がせいぜい残り十数年であるとキャスターが忙しくなくはなしている。この時代では、鉄 石油 水が重要資源とされたおり、最近減少率が高速化しており、そのニュースがひっくるなしに流れている。信じがたいことに、アメリカ合衆国が国際連合を脱し、自立化して、新エネルギーを開発しだしていた。それは全世界に広がり、世界は、平和主義から領地拡大主義へと再転換したのである。そんな中、日本は、東アジア最高指令国と改名、頭脳の低い人間から、徴兵指令を出した。  と長い話はさておき、ついにレザムにも、その赤札が配られたのである。                         出発地の八王子から浅草へ、バスは進んでいく。浅草には堀があり、直接海へつながるようになっており、海軍基地となっていた。                                                海軍基地にバスが着き、降りていくと、いかにも海軍らしき、短髪の男が出迎えてくれた。          「やあ、新しく国弾海軍に入ってもらうのは君たちか。」                              レザムはどうでも良く思っていた。成り行きで海軍に入ったようなものだった。彼が悲劇にみわられ、運命的な道を歩むことになるなんて到底頭にはなかったのである。海軍の訓練は厳しかった。グレネードの投げ方、銃の構え方、被弾したときの応急処置など、教官から教わった。                                         20日くらいたった頃だっただろうか、教官が急ぎ足でレザム達のいるミーティング室に走ってきた。                                            「敵陣だ!急いで着替えろ!」                                                                             「敵の数は!?」                                         「およそ5千人、水陸両用戦車で接近中だ。おそらくフランパレスのやつらに違いない!」                                                 「了解です!」                                          フランパレルとは、フランスで革命軍を立ち上げ、ヨーロッパを脱出し、パレスチナに本拠を置いた領地拡大主義国のひとつであった。                                「いけいけいけっ。」                                       腰にデトニスク45をかけ、武器倉庫に向かう。しかし、配られたのは実習で使っていたAK74ではなく、p90であった。戸惑いを感じながらも配置に付く。                   遠くで地響きがするのを聞きながら、堀沿いにしゃがみ、武器を構えようとする。しかしうまく構えられない。それはそのはずで、20日という短い訓練の中で、始めてみた銃を構えようとしているのだから無理はないだろう。周りの海軍兵達も戸惑っていたようだ。 自分だけではないんだという安心感を感じ、顔を前に向けたそのときだった。                            目の前を赤い光線が走った。                                  「ドグォオオン!!」                                       遅れて鼓膜を破壊するような炸裂音が響く。                           「ひ、被害状きょっ」                                          「ビギュギュギュギュギュン!」                               「グゥアア。」                                          「撃て撃てう、ウォオ・・・」                                         ひたすら射撃音と死に声が聞こえた。その光景は数多くの命が高速に消える、いわば死と生の境目であった。必死に引き金を引こうとしたが、動かない。                        「くそっ、こんな時にっ!」                                          セーフティーを探すが見つからない。                                                      「ひけ、ひくんだー。」                                                「こんなところで引いてたまるか。」                                        「ウッ」                                                 いきなり周りの音が聞こえなくなった。                                   {こっこれは}                                                腹痛が走る。                                               {夢と同じ}                                                                   そして長い走馬灯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・           ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 意識が飛ぶ・・・・・・ あたりが白くなっていく・・・・・この まま  死ぬ のか・・・・・                                               何もない        なにも             ・・・・                                                                                                                                                        ここは  死の世界  ?                                       光が差し込む カーテンがたなびく 7時43分・・・・・・                  {ゆ、夢だったのか・・・?}                                         いつもの部屋、いつもの光、いつもの音・・・・                               「朝だぞ。今日は海軍の実習練習の日だろ。」                         「そ、そうだった。」                                           急いではね起き、洗面所で顔を洗い、鏡を見る。おかしい、自分が映ってない・・・そういえばうちには自分以外誰もいないはず・・・                               「おい急げ」                                               聞きなれた声・・・        これは・・・・                             「レザム。」                                  父さん!?                                                 「レザム」                                                             !?                                               「レザム!」                                        ・・・・・・・・・・・                                  「レザム!!」                                                                                                                                   目が開く。                         「父さん!」                                        辺りは薄暗い。ここは?・・・・                                    「目が覚めましたか。」                                       いきなり声が聞こえた。急いで振り向く。どうやらベッドで寝ていたようだ。           「安心してください、敵ではありません、ですが、まだ味方でもありません。」          そこには、長髪のシルクの帽子をかぶった青年が立っていた。                 「ここはどこだ、そして、」                                       「一つあなたに言わなければなりません。」                          「・・・・」                                                                                      「あなたは、あなたの知っているあなたではありません。」                   「・・・は、」                                             「あなたは今、新たな人間として生まれました。」                             「あなたの知っているあなたは、もうこの世から息を引き取りました。」             「私の名前はハイバート コイル リムセム。ハイセムと呼んでください。」           「わかった、ハイセム。」                                      「これからあなたは私、いや私達と一緒に戦って下さい。」                   「くわしいことは、後で話しましょう。」                                  向こうで扉が開いた。                                          「さあ、こちらへ。」                                          「まて、なぜオレの名を、」                                       「それも後ほど。」                                            レザムは戸惑いながらも、その明るい扉の向こうに進んでいった。               扉の向こうは息を飲むような光景が広がっていた。広い部屋の向こう側には長い回廊があり、窓が奥まで続いていた。部屋には十数人の研究者がパソコンに向かっているのだが、なぜかみんな筋肉質の人間ばかりであった。どうやらここは何かの乗り物の中らしく、時々揺れるのがわかった。       「みんな、新入隊員だ、レザムっていう名前だそうだ。」                     一番手前の大柄の男が立ち上がって言った。                           「オレの名はヨシフ ヴィッサリオノヴィチ スターリンだ。ヨシフと呼んでくれ。」        「宜しく、ヨシフ。」                                     レザムはそういって握手をした。レザムは頭脳が低く、第二次世界大戦の有名な人物であることを知らなかったようで平気で笑みを交わしている。ヨシフは、ソビエト連邦の第2代最高指導者である。
次に立ち上がったのは一番奥の男であった。                           「私はアレクサンダー フォン ファルケンハウゼン、みなからハウゼンと呼ばれている。宜しく。」 「宜しくハウゼン。」                                     「彼はサブマシンガンの名手だ、みなから信頼されている。」                   ハイセムが付け足すように言った。                               そのほか、武器研究員のジュンレス、アサルトライフルの名手のドム、ディクソン、スナイプの名手ザイカー、シェフのリムさんなどと顔合わせをした。しかし、彼の心の中にたくさんの疑問が残った。なぜ生き返ったのか、才能のない自分がなぜ生き返らせられたのか、ここはどこなのか、そして、彼の【あなたは、あなたの知っているあなたではありません。】ということの意味・・・・            レザムは思い切って聞いてみた。                                「あの、先ほど後ほどと言った話を聞かせてくれないか?」                    「そうですか。ではこちらについてきてください。」                       そういって彼は、レザムを回廊の奥の部屋に連れて行った。扉に入ったレザムは息を呑んだ。そこは暗い部屋で、はじのほうにチュウブに囲まれたカプセルがあった。そこには人のようなものが入っていた。しかし、右腕と下半身がなく、胸には被弾した後があった。                     「君もこうして運ばれてきたんだ。」                              「死んだってことか?」                                    「そうだともいえるしそうでないとも言える」                          「どういうことだ?」                                     「つまり、体は死んでいるが、脳は死んでいないということだ。そこから、脳と脊髄だけを取り出し、DNAにより作り出した胴体に移植する。」                            「なるほど、頭脳移植か。」                                  頭脳移植は2026年に実用化されだしたので、そんなに疑問はなかった。             「もう一つ、改造されているところがあります。」                        「それはなんだ?」                                      「ATP高速化だ。」                                     そう言うと、彼はもう一つの部屋につれていった。 部屋から出ると、階段を上がって行った。2階には1っ階と同じように、長い回廊に沿って窓が続いている。そこのひとつの窓が向こう側が透けるようになっていた。通りがかりに覗いてみると、外では雪が降っており、下は銀箔のような大地が地平線まで続いている。                        「ここは・・・どこなんですか?」                             あまりの衝動に丁寧語がでてしまった。                                                    「ロシアのアンジュ諸島北部の氷上です。」                          突然後ろから声が聞こえた。ふりむくと、そこには金髪の背の高い女がいた。ハイセムが驚いたような顔で言う。                  「中佐!?なぜここまで来られたのですか?」                                               「それは新しい隊員が入ってきたからだ。それも特別な隊員だ。挨拶くらいはしないとな。」   その女はそういうとレザムの顔を見るなり、1階に足早に行ってしまった。                                 「彼女はリムズ キャンデリウス中佐。戦闘のエキスパートで、戦闘部隊を指揮しています。」                                                               「そうなんですか。では、まだ知らないひ・・・」                                          「グダダーン!」                                      そのとたん、地響きがなった。周りの人々があわてて扉から出てきて、同じ方向に向かって行く。                                                              「そ、その、これは」                                                        「敵陣のようですね。あなたは今すぐ4階のミーティング室に移動してください。私も後で向かいます。」                                                           「待ってくれ、そこにはどう行けば、」                           レザムがそういうとハイセムはボード上の黒い機械をふところから取り出すと、電源をいれ、すばやく画面をスライドし、レザムに渡した。                                                              「この道順に沿って進んでください。後はそこで指示が出されると思います。」                                           「わかった。」                                                          「それと・・・。」                                    ハイセムは少し言葉が詰まったように思えたが、すぐに話し出した。                                   「絶対に死なないで下さい。あなたはこの組織の中で大切な存在なのですから。」         そういうと、すぐに階段を下りて行ってしまった。このとき、自分の中で、日本の郊外で住んでいたときより、自分が生き生きしているように思えた。これもそのATなんちゃらのせいかと思いながらも、渡されたボードを目を凝らしてよく見た。電子ボードには、今乗っている乗り物の全体図と、自分の現在地が映っていた。                                                              「これは、船だろ・・・」                                                        「ズォオーーン、」                                     サイレンが鳴り出した、それとともに頭の中に、過去の戦闘のトラウマがよみがえる。撃たれて半殺しにされた兵士を戦車が踏み潰す、そのときの音、死に声、悲鳴、首を撃たれて言葉にならないうめき声を出す男、そして死ぬ寸前の痛みと光景・・・・どれも吐き出しそうになるくらいえぐかった。                           「ここか。」                                        レザムはミーティング室に入った。いくぞ!という言葉とともに向こう側の扉が開き、冷気が入ってくる。それと一緒に隊員たちが戦場に出て行くのと同じ方向に、扉に向かって走り出した。そして、外に出てしまった。                                                     「いそげ。」                                       隊長が叫ぶ。そこは乗り物の上のほうであった。それ以外は吹雪でよくわからなかった。                                                「もっもどってきて、早く!。」                               後ろからハイセムの声が聞こえた。そのとたん、銃弾のあめが激しく降り注ぐ。                                   「ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォンズゴゴゴ・・・・」                               「はやく、早くして!」                                   そういって、ハイセムが扉に近ずこうとしたとき、後ろから、キャンデリウム中佐が止めた。                        「なぜです!?なぜとめるのですか?早く救出しなくては。」                            「彼の実力を試すのだ。ATPをうまく制御できるか否か、それを試すのだ。」 そして、陰に隠れているレザムに向かってこういった。                                                   「お前に初めての任務を与える。敵の持っているサイドアームを持って来い。任務は以上だ。」  そういうと、キャンデリウム中佐は、背中に備え付けていたデトニスクをレザムに向かって投げた。                             「いいか、お前が死んだときに持っていたこのハンドガンはこの戦闘で使用したら、すぐに返却するるのだ、だが、この任務で手に入れた銃はすべてお前のものになる。自分にあった相棒を選んでくるがいい。それと、ピンチになったら、腰にあるトランシーバで伝えろ。分かったな。いって来い。」      「死なないで下さい、そして、   ガタン」                        ハイセムがしゃべろうとしたとたん、扉が閉まり、上からシュレッターが降りた。空気は一気に戦争のふんいきになった。手にはハンドガンが一丁、装填数は14発。腰にはいつの間にかにトランシーバが備え付けられていた。                                  「くそっ、やってやるしかないか。」                            そう言ったレザムは影から飛び出した。                                                          「俺の相棒を見つけてやる。」                                   そういうと、レザムは戦場と化した屋上に飛び込んでいった。   続く・・・   

ORFIREUS永久定理運動機造

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人間はどこまでが生でどこまでで死なのか、普通の人間は体の中でゆっくりと時間をかけて化学反応をおこし行動しているが、もし、紙が燃えるかのごとく、高速に化学反応を起こす人体が開発され、戦争に使われたら、きっと核同様の扱いとなるだろうという内容。sf戦争記。ちなみに文中の空白は臨場感を出すためにわざと空けているのであしからず。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • アクション
  • SF
  • 青年向け
更新日
登録日
2012-06-01

CC BY-SA
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