稲荷ずし返せ

あなた、私に初めて会った時なんて言いました?



ああ、そんな養生のしかたではあんたの腰痛は治らないな。
だいたいあんた無理しすぎなんだよ。

私が特別な湿布薬を授けてあげよう。
うーん、しかし私は今、結界に閉じ込められてるから…

まあこんな結界破ろうと思えば破れるが…
腹が減って力が出ないのだ。

いや、なにも悪いことして閉じ込められているわけではない。
ほんとに人はすぐ誤解するから…

ところでどのくらいの間腰痛に苦しんでるのだ?

なんと、そんなに長く…
それは辛い。
気の毒に。
私は他者の痛みがわかるのだよ。

たぶんあんたは腰の痛みだけではなく、あんたの働きが悪いのは腰痛にかこつけて怠けてるんじゃないかと言う仲間うちの冷たい視線にも苦しめられて来たんだろうなあ。

おいおい、泣くことはないだろう。

えっ、この縄を切ってくれるって?
私に供物も捧げるって?
だから腰痛を治してくれって?

ああ、もちろん速攻あんたの腰痛を治してやろう
恐ろしく効く湿布で。



いやいや、助かった。
あんたが縄を切ってくれたおかげで私は自由になれた。
え?腰痛を直せ?

まあ待て。
私は長い間なにも食べてないのだ。
先に稲荷ずしの10個や20個供してくれてもいいのではないか。



そう言ったから稲荷ずしも捧げましたよね?

なのにあなたったら私の腰痛を治す前にまたすぐ捕まっちゃって

あなたに食べさせた稲荷ずしはね、この飢饉の中、村人がなけなしの米で作ってくれた私への供物だったんですよっ。
五右衛門さん。

なに笑ってるんですかっ。
腰痛を治す湿布薬を今評判の薬師からもらってきてくれるんじゃなかったんですか。

嘘つき!

うう…腰が痛い。
10月には寄り合いのため出雲まで行かなきゃいけないのに…

私がその寄り合いに出なければこの村の人は誰ひとり結婚出来ないんですよ。

ああ、人間なんか信用するんじゃなかった。

私の稲荷ずしを返せっ。

稲荷ずし返せ

10月には各地の神様が出雲に集まって縁組の相談をしますからねえ〜

稲荷ずし返せ

あんたのそんな養生のしかたでは腰痛は治らないな。よし、私が恐ろしくよく効く湿布薬を授けよう。うーん、しかし私は今結界に閉じ込められているからなあ… 『あなたが腰痛を治してくれるって言うから私は稲荷ずしを捧げたというのにっ、稲荷ずし返せっ』というタイトルで小説家になろうさんにも投稿してあります。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-26

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