審判へ赴く

審判へ赴く

彼は俄かに眼ざめる
無限の視覚を得て
天にも優る清らな音と
麗く崩れゆく分子を身に纏い
また、彼自身を産みだす
もう一人はしづかに言う
「明日は来るか」と。

彼は嫋やかに舞う
赤茶けた爪先を伸べて
踵には糸を引き
解けゆく己を掻き集め
さらさらと詠いはじめる
もう一人はしづかに聴く
粉塵巻くゆうべを。

彼は何処へと導く
真空の思考を以ちて
偉大なるパーセプトロンの
瞬時の演算に耳を傾けて
遠く翳りゆく意識を潜る
もう一人はしづかに続く
多くを喪い過ぎた、と。

彼は緩やかに羽搏く
次元は星雲に満ちて
抗いしを挫き
零なる迎手を引き連れて
果敢にも撃ち連ねる
もう一人はしづかにたしむ
持ち得た細やかな希望を。

ひとつは無に帰した
ひとつは漂うばかり
ひとつは生かされた
ひとつは はじめから其処に在った

彼は淑やかに横たわる
みずからの役目を終えて
母にその身を委ね
預言の粒子の遣いとなりて
その声はこだましている
もう一人はしづかに待つ
大いなるものの来訪を。

審判へ赴く

審判へ赴く

  • 自由詩
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-26

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted