愚者の唄

愚者の唄

愚者の唄

んたったー、んたったー、んたったー
小びとが笑えば一羽のカラスがころげ落ちる
んたったー、んたったー、んたったー
小びとが踊れば、二匹の子豚が川で溺れる
んたったー、んたったー、んたったー
小びとが泣いたら三人の賢人が剣を持つ

古い田舎の街中で子供たちが畑や子ヤギの面倒を見ながら不思議な歌を歌っていた。私はある噂を旅人から聞いてこの古い田舎にやってきたのだ。それはこの光景を見てすぐに確信に変わった。大人は一人も見当たらない、いるのは家畜と子供。そしてなぜか石畳の上に立っているロバの石像で至る所に置いてある。私は奇妙に思いながらその街を歩いた。井戸から水を汲む少女はオケに水を注ぎながらあの不思議な歌を歌っている。斧を使って木材を割っている少年もあの歌を歌っている。りんごや野菜を売り歩いている少女も高い声でやはり歌っていた。
私はなぜ、この子たちが常に歌っているのか?親や大人はどうしたのか非常に気になり、りんごや野菜を売り歩いている少女に近づいて質問をしてみた。
「ずっと歌ってるけど、お父さんやお母さん、大人はどこにいるの?」
しかしその私の質問に少女は悲しそうな顔をして、首を横に振り、歌いながら去っていく。その道の石畳の上にはロバの石像が雑に置いて合った。
私は街中の丘にある一番大きな屋敷が目に入り、そこの場所を目指して歩いた。到着すると、四角い青銅の扉を押した。鍵はかかっていない、私は「すいません、お尋ねしたい事がありまして!お屋敷に入ります!」と声を出した。
中に入ると赤いじゅうたんの上にロバの石像が堂々とした格好で置いて合った。そこの横で子ヤギが横たわり眠っていた。
私は少し違和感に感じたが、じゅうたんを踏み歩いて中央にある、螺旋階段を上った。登り終えると、ソファーとテーブル、暖炉がある。どうやら居間のようだ。と、テーブルの上に何やらホコリを被った本が置いてある。私はホコリをはたいて、その乾燥したページを開いて読んでみた。万年筆のインクでこのように始まっていた。

この本を手に取った方、この街の光景を見て疑問と不思議な感覚に囚われたでしょう。それには訳があるのです。それもこの街中の住民とこの本を書いている私自身にです。呪いと言っても間違いじゃないでしょう。

今でも鮮明に覚えています。ある、天気の良い快晴の日でした。私たちの街にタンバリンを華麗に鳴らし、クルクルと踊り舞い、声の透き通る美しい歌声で歌う、吟遊詩人がやってきました。しかしその美しい歌声とは変わり、猿の様に低い身長、薄汚い緑色の服、とんがってつま先が跳ねた靴、そして醜い顔でした。まさに愚者の小びと。
その中でもこの小びとは異常なまでに右腕だけが伸びて長く、大衆の人間を自分を見世物として引き寄せました。
それから美しい歌声で歌います。

んたったー、んたったー、んたったー
小びとが笑えば一羽のカラスがころげ落ちる
んたったー、んたったー、んたったー
小びとが踊れば、二匹の子豚が川で溺れる
んたったー、んたったー、んたったー
小びとが泣いたら三人の賢人が剣を持つ

小びとはクルクルと踊り舞いスキップして長い右腕を折り曲げてお辞儀します。街の大衆は拍手喝采でその小びとを褒め称えました。
そうすると小びとは長い右腕を伸ばして小石を拾いました。手でゆっくりと握ってその指を開くと小石であった物が光り輝き金の小石に変わっていました。大衆は驚き騒いでいると、小びとは適当に大衆の一人から選んで右手にある、金の小石をプレゼントしました。もちろん、その光景を見ていた大衆は小びとから金の小石を欲しがりました。小びとはニッコリと笑い、そこにいた大衆に小石を金に変えて渡しました。
その事を耳にした、丘の上にある街の長老はすぐさま、小びとのもとに降りてきて言いました。
「何と!素晴らしい!その金を私にもくれないか?」
その言葉に小びとはニッコリとして言った。
「あなたが望むほどに金を差し上げましょう!ただ条件があります、あなたの娘を私に下さい」
小びとの申し出に長老は深く考えこむが、小びとは笑いながら右手からたくさんの金を落として見せる。
「わかった!娘をやろう!だから、その金を腐るほど私に与えろ!」
小びとはニッコリと笑い、クルクルと踊り舞い、美しい歌声で歌い始める。

んたったー、んたったー、んたったー
小びとが笑えば一羽のカラスがころげ落ちる
んたったー、んたったー、んたったー
小びとが踊れば、二匹の子豚が川で溺れる
んたったー、んたったー、んたったー
小びとが泣いたら三人の賢人が剣を持つ

金の山が長老の目の前に出来上がった。

その後、約束通り小びとは娘と結婚したが、醜い小びとだ。娘は面白くない。しかし街の大衆と長老の父だけは楽しそうに暮らしている。娘は全然面白くなかった。それに最近、街の青年と良い感じになって来ていたのだ。娘はさらにこの小びとが嫌いになっていく。そこで娘はある日、宴会を開いて上等のブドウ酒を用意して小びとを酔わせて聞いた。
「私、あなたの事が好きよ」
「あぁ私も君が好きだ」
「ならあなたの秘密を教えれくれないかしら?」
「秘密とは?」
「あなたが金を出す方法よ」
「それは出来ない」
「あなた、さっき私が好きって言ったじゃないの?嘘なの?」
「嘘じゃない」
「じゃあ教え」
小びとはしぶしぶ教え始めた。小びとの歌声が聞こえる場所でこの長い右腕を伸ばして手で握った物は何でも金に変わると言うのだ。小びとがはそう言うと酔って眠り始めた。
娘は小びとをヒモで身体を縛り付け、長い右腕を伸ばしてノコギリで切り落とした。そして地下の倉庫に閉じ込めた。
翌日目が覚めた小びとは自分の状況に気づいて酷く落胆した、そして娘に対してメラメラと憎しみが燃え上がった。
小びとは閉じ込められら倉庫の中で悲しそうな声で歌い始める。

んたったー、んたったー、んたったー
小びとが笑えば一羽のカラスがころげ落ちる
んたったー、んたったー、んたったー
小びとが踊れば、二匹の子豚が川で溺れる
んたったー、んたったー、んたったー
小びとが泣いたら三人の賢人が剣を持つ

娘は地下から聞こえてくる声に合わせて、切り落とした右腕を伸ばして手を開いて炭を入れて握らせた。そして開くとそこには金に変わった炭があった。娘は喜んで小躍りした。後日、青年と結婚した。その事に対して大衆や長老もまったく反対はしなかった。何故なら金はいつでも手に入る事が、絶対的に確定したからだ。
その日から数年たった。
娘と青年の間には可愛い女の子が生まれていた。女の子は毎日地下から聞こえてくる美しい歌声に関心を示して、母によく質問をした。
「お母さん、地下から聞こえてくる美しい歌声は何?」
「あれは昔、悪い事をした悪党を閉じ込めているのよ?だから絶対に地下に行ってはダメよ!」
それがいつもの母の答えであった。
しかし今日は非常に都合の良い日であった。母も父も誰もいない。女の子は気になってその美しい歌声が聞こえる地下への階段を降りて行く。

んたったー、んたったー、んたったー
小びとが笑えば一羽のカラスがころげ落ちる
んたったー、んたったー、んたったー
小びとが踊れば、二匹の子豚が川で溺れる
んたったー、んたったー、んたったー
小びとが泣いたら三人の賢人が剣を持つ

女の子は頑丈な扉の向こうから聞こえてくる声の持ち主に声をかけた。
「どうしてあなたはそこで歌っているの?」
「悲しいからさ」
「どうして悲しいの?」
「悪い人に閉じ込められたからさ」
「どうして閉じ込められたの?」
「私の右腕を欲しくなって利用したくなったからさ」
「その右腕はどうなったの?」
「悪い人に切り落とされたのさ」
「その悪い人って誰なの?」
「この扉を開けてくれたら教えてあげるさ」
「うん、わかった!」
女の子はそう言うと頑丈な扉の鍵を開けて中に入った。奥で小さな人が座っている。痩せ細った身体に目と口が大きく開いて黒い黒点が女の子を見つめて笑っていた。そして言う。
「君の母親さ」
小びとは美しい歌声で歌い始める。

んたったー、んたったー、んたったー
小びとが笑えば一羽のカラスがころげ落ちる
んたったー、んたったー、んたったー
小びとが踊れば、二匹の子豚が川で溺れる
んたったー、んたったー、んたったー
小びとが泣いたら三人の賢人が剣を持つ

屋敷の暖炉の上にかけてある。干からびた長い右腕がカタカタと動いて指を動かして壁と床を這い、小びとの切り落とされた右腕に音を立てくっついた。
ニッコリと笑って女の子に言う。
「子供は子ヤギに!」
目の前に立っていた女の子はみるみる内に毛を生やして子ヤギになった。小びとは満足そうに笑い地下を上がり屋敷を出る。それから丘を下りて街中で美しい歌声で歌い始める。

んたったー、んたったー、んたったー
小びとが笑えば一羽のカラスがころげ落ちる
んたったー、んたったー、んたったー
小びとが踊れば、二匹の子豚が川で溺れる
んたったー、んたったー、んたったー
小びとが泣いたら三人の賢人が剣を持つ

「子供は子ヤギに!」
「大人は子供に!」
「そして!日が出ている中で私の歌を歌い続けない物はロバの石像に!」

それからと言うのも、小びとの姿を見た者は誰もおりません。私は全ての出来事が終わった頃に事の事態に気づきました。それに近頃、私は声の出ない病にかかり始めています。ロバの石像になる事も時間の問題でしょう。ただ最近、あの美しい歌声が聞こえる感じがするのです。もしかすると、あの醜い小びとがこの街に本当はまだいるのかもしれません。私たちの行いを日々監視しているのです。最後に、もしこの本を読んでいる方がこの街以外の人なら早く逃げて下さい。この街の事を知られたくない何者かがこの街に訪れた旅人を…
そこで、万年筆のインクが擦れて消えている。私は何かの物音が聞こえて螺旋階段を降りた。すると屋敷の玄関先から美しい歌声が聞こえて来た。

んたったー、んたったー、んたったー
小びとが笑えば一羽のカラスがころげ落ちる
んたったー、んたったー、んたったー
小びとが踊れば、二匹の子豚が川で溺れる
んたったー、んたったー、んたったー
小びとが泣いたら三人の賢人が剣を持つ

愚者の唄

愚者の唄

古い街に訪れた旅人は子供と子ヤギ、ロバの石像しか街の中に存在していない事に気づく。そして子供たちは不思議な歌を歌い続けている。 んたったー、んたったー、んたったー…

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • ミステリー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-25

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