マリリン慢心

代々木公園にて。

お目当ては
【閲兵式の松】です。

その昔
代々木練兵場であった頃を
偲ばせる有名な大木です。
当時はこの松の前で天皇陛下を
御迎えし、訓練が行われていたそうです。


で、それを見てどうするのか?

といえば

1枚の絵を完成させる為なのでありますよ。


その絵画・・・いわば
【新・日本画】に出逢ったのは
数年前のこと。

知人に どうしても、と誘われ
あまり興味もないまま
立ち寄った某展覧会に
その絵はあったのです。


蒼野甘夏 作
【 ビル風赤松図 】


この一幅です。
いえ、【 179 × 396 】というサイズからすると
屏風絵にならい、一隻というべきでしょうか?



知人が私にこの作品を見せたがった
理由は一目で解りました。


作品に描かれた
【 女天狗 】

それが夭逝した私の親友と
とてもよく似ていたからです。


生前、【 親友 】などと
お互い口にした事はありませんでしたが
少なくとも私はそう思っていました。


一年を通し、
最も同じ時間を同じ場所で過ごしていました。

泊まりに行く・来るはしょっちゅうでしたから
朝まで討論になることも
よくあったものです。

おそらく互いの心の奥を
一番よく解り合い
生涯を通じて最も近い場所にいたのでは
ないかと今でも思います。


折り悪しく出ることは出来ませんでしたが
彼女の最後の発信記録も私宛てだったそうです。


彼女の葬儀から埋葬
その後、何年にも渡るお墓参りに
至るまで、私は彼女の事で
泣く事はありませんでした。


おそらくは
一生何かにつけて共に生きていくだろう、と
考えていた人物が居なくなっても
私は涙を流す事はありませんでした。


悲しくない訳ではありません


涙が出て来なかったのです。


泣きたくなかった、のでしょうか。
死を認めたく無かったのでしょうか?


本当にその理由はよくわかりません。


むしろ小さな事でも
人しれず泣くことが多い


そんな私ですが
誰も見ていなくても
泣けませんでした。



今は亡き祖母に
この事を話したときに

『 あれだけ好きで一緒に居て
それで悲しく無かったら
それはもう【人間では無い】よ・・』


そんな言葉も聞きました。


悲しいのは私の心の
上辺だけで
心の大部分では
やはり悲しくなど無いのだろうか?

本当に悲しいのに
涙さえ流さない、などということが
あるのだろうか?

むしろ、逆に【悲しく無い】からこそ
泣けない
と、いった方が自然ではないのだろうか?

と自責にも似た
自問自答を繰り返し考えていました。



しかし、それから だいぶ時が経ち


この絵を見たときに

涙が止まらなかったのです。


言葉にならぬほど
涙が流れて流れて
止まらなくなるのは

生まれて初めてでした。


自由奔放に
風に身を任せ

童女にも似た
悪戯っぽい微笑みを浮かべ

そのくせ
妙に艶のある
女性らしい
ての指
あしの指


そんな【女天狗】の姿を見て、です。


私はどうしても
この絵が欲しくなりましたが


この絵は個人臓のものだそうで
手に入れる事は
叶いませんでした。

有名な賞も受賞されたそうで
あるいは【譲る】と仰られても
どうにもならない金額になるやも
しれません・・・。


それならば
自分で描こうと思ったのです。


贋作、とさえ
とても 呼べない稚拙さでも
構わない

この絵の天狗に側に居て欲しかったのです。


それでも
描くからには
自分なりの誠意を尽くし
真摯な姿勢で望みたい・・・

この絵には
タイトル通り
松も描かれています。


そう考え、
たとえ添え物だとしても
由緒正しい
松の木を一度は見ておかなくては!


そんなつもりで
ここを訪れてみることも
これで何回目になるでしょうか。

実は今までにもう
4回ほど書き上げましたが
どうにも納得いかないので

そのつど作り直してばかりです。

技術的に
本職、本物に迫る事は無理です。
そんな事はわかっています。

それは驕りでしかないでしょう
それこそ慢心です。
ちなみに天狗の【高いお鼻】は
一説には慢心を表しているのだそうです。


それに気をつけて
驕慢を捨てる心で・・・



ましてや
そもそも日本画

箔の張り方はおろか
基礎の基礎さえ
知りませんでした。

構図は元より松にも当然気を配りますが
なにより私が私の最善を尽くして
再現したいのは
あの女天狗の表情というかオーラなのです。

きっとそれは
技術的な部分とは
別にあるような・・・

そんな気がしてならないのです。


という訳で


代々木公園より

デング熱ならぬ

【テング熱】

をあげる変人


のお話でした。


なにか暗い話題ですみません・・・


読んで頂き
ありがとうございました!

マリリン慢心

マリリン慢心

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-23

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