愚痴り言

三題話

お題
「よくある質問」
「よくある回答」
「新製品」

 今日、新しい携帯電話を買いに行った。

 といっても本体は0円のものを選んだから、最新機種ではない。いつ発売されたものなのかはわからないが、最近は携帯電話に限らずすぐに新製品が出てくるから、そんなに古い機種ではないのかもしれない。

 契約プランを決めて、電話帳などのデータを移行して、それだけで終わり。

 簡単お手軽その日のうちに新しい携帯電話へチェンジ。

 番号は機種変だったからそのまま。アドレスも前のやつと同じにした。

 だから知り合いへの面倒なお知らせメールは必要ない。まあ電話帳には家族を除けば五人しか登録されてないから、面倒というほどのことではないのだけれど。

 家へ帰って来てから、携帯電話の説明書をパラパラと流し読む。

 読まなくても分かりそうなことしか書いてないのにどうしてこんな分厚い説明書がいるんだよ。こういうものは適当にボタンを押してればだいたい使い方が分かってくるものだ。

 習うより慣れろ、ではないけど、説明書を熟読するより実際に使ったほうが何倍も早く覚えられると思う。

 それに、故障と考える前の確認事項なんて、バカバカしいことばかりでつい笑ってしまう。


『電話がかけられないとき……電源は入っていますか?』

 いや、なんだよこれ。ツッコミが欲しいのか? そうなのか?

 どれだけ機械オンチなんだよ。


『電源ボタンを押しても電源が入らない……電池パックは正しく取り付けられていますか?』

 それ以前に正しくない方法で取り付けるのが不可能。はめ込む時に向きが制限されるし。

 力任せにはめ込めば出来るかもしれないけど、その時点でおかしいことくらい誰でも分かるはず。


 でもこんな風に書いてあるということは、こんなことでの問い合わせが良くあるということなのか?

 こんな質問に真面目に答えるのも大変だな。

 利用者はもう少し頭使えよ。


       …


「で、結局何が言いたいわけ?」

 俺の隣にいる乃々花は冷たい声で言った。

「あれ、声に出てたか?」

「うん。何言ってるのかは分からなかったけど。独り言は私のいないところでしてください」

 乃々花は俺のおでこをぺちりと叩いてそっぽを向いた。これはいつもの拗ねているときのポーズ。

 少しほったらかし過ぎたか。

「ほら乃々花、戻っておいで」

 後ろ髪を撫でながら、もう片方の手を腰に回す。ゆっくりと優しく抱きしめれば、すぐに機嫌を戻してくれる。

「むぅ……」

 頬を膨らませながら振り返った乃々花は、とてもかわいい。別に美化しているわけではない。本当にかわいいのだ。

 本当だよ?

「だーかーらー、ひとりごとおおいー」

「ごめんごめん」

「それに一緒のケータイにしてくれなかったし。同じとこのじゃないと定額通話ができないじゃんー」

「慣れてるのが良かったんだよ。前と同じメーカーのケータイにしたから操作はほとんど同じだ」

 だから説明書は必要なかったんだよね。いつも通り三時間くらい熟読しちゃったけど。

 そのせいで乃々花の機嫌を悪くしてしまったのは反省だな。

「そういえばスマホにはしないの?」

「興味ないなあ。乃々花は次スマホにするのか?」

「そのつもりだよ。でも二年契約でまだ一年残ってるから、すぐには無理だけど」


       …


 どうしてみんなスマートフォンを欲しがるのだろう。

 普通のケータイで十分じゃないか。

 電話も出来るし、メールも出来るし、ネットも出来るし。

 しかもスマートフォンだとケータイサイトが見られない。見られるものもあるらしいけど、それは一部の例外だろう。俺みたいにスマホ対応していないケータイサイトを毎日チェックしている者にとっては、スマホはむしろ不便なものとなる。

 でも外に出ればスマホを操作している人を良く見掛けるようになった。それを見ていると、俺でも欲しいと思ってしまうこともあるが、実際に買うほどの魅力は感じない。

 流行に流されず、我が道を行くのだ。

 そんなことがかっこいいのだと、今でも勘違いしている。

 まあそれは置いておくとして、今の人は流行に流され過ぎだと思う。

 ある食品が健康に良いとテレビで特集されれば次の日から品薄・売り切れ状態になったり、ある映画がアカデミー賞を受賞したら連日満員になったり、ある本が○○大賞を取ったら急に話題になったり。

 俺は、そういう『有名』なものほど、冷めた目で見てしまうのだが。

 たぶん、性格がひねくれているのだろう。

 少数派がかっこいいのだと、勘違いしているのだ。


       …


「もう、いい加減にしてよ。さっきから独りでぶつぶつ呟いて」

 ぽかり、と頭に猫パンチをしてくる乃々花。

 また俺は考えていたことが独り言になっていたようだ。

「ああ、ごめん。なんか今日はツイート日和みたいだ」

 膝の上に乗せた乃々花の頬を撫でながら、ちゅ、と軽く唇を重ねた。

 すると乃々花は顔を赤らめながら俺にビンタをして、飛び跳ねるようにしてその場を離れた。

「なに妹にキスしてるんだよ! ヘンタイ! 死んじゃえ!」

 そう言い残して俺の部屋から走り去って行った。

 ビンタされた頬をさすりながら思う。

「俺はどうしてキスしたんだろう……?」

愚痴り言

愚痴り言

自分以外の誰かからいただいた3つのお題を使ってSS

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-22

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