風吹く

私は恋には熱くなれない。

昼休みは決まって図書館に来る。涼しくて、静かで、声がしないのに、本が私を呼んでいるような錯覚が起きたりして。
『ー恋愛は、砂浜の貝殻を拾うようなものーー。』
今日読んだ本では、こんなことが書いてあった。なぜだかとても印象的で、気になった一文。


むっとした中に、すっきりとした風が時折吹き抜ける、7月24日。
高校生の私は補習のため、学校で授業を受けている最中である。
終業式が終わっても補習という名の授業があるなんて…と、ここのところ毎日思っている。
窓を開けていても涼しくなるわけもなく、その鬱陶しさに苛立ちを覚えながら、頬杖をついた。じんわり手のひらに汗を感じるのが、気持ち悪い。

「ーー山瀬。寝ているのか。」

(また寝てる。)

山瀬と呼ばれた彼は、私の斜め前の席でいつも突っ伏して寝ている。今日も、どうやらそうらしい。
「じゃあ奥田、読んで。」
「はい。」
私は、さりげなくスカートで手のひらを拭いて立ち上がり、何事もなくそれは終わった。
私が読んだのは、恋の和歌。
(私がこんなに人を好きになることってあるかな。)
授業も聞かずに、ぼーっとそんなことばかり考えていた。
私がこんな熱のこもった恋愛をするなんて、想像ができない。今まで誰と付き合ったことがないし、多分、本気で好きになった人もいない。恋に落ちて、舞い上がった気持ちになったことなどーー。

すると一瞬、教室中が紙の舞う音で満ちた。
私の教科書も、気づけば全く違うページを開いているし、様々なプリントが天井近くで舞っては、床に落ちていく。
今日のプリントではなさそうだ。サイズが大きかったり、小さかったりする。
皆床に落ちたプリントを急いで拾い始めた。
私も教科書を開き直す。
「あぁ、強い風だな。涼しいけど、こうも吹いてくれちゃあな。眠いやつ、目、覚めただろう。」
「まだこいつが。」
私の隣の席の彼が指差した先には、私の斜め前の席で眠っている山瀬がいる。
「まだ山瀬は寝とんのか!」
教室中が小さく笑った。山瀬は起きない。山瀬の教科書は、全く違うページになっていた。
また風が吹く。また違うページに変わる。
ザァッという木が揺れる音と風の動きがリンクしている。そしてそれに、山瀬の揺れる髪の毛、めくれていく教科書の動きが相まって、授業の声など、耳には入ってこないーー。

結局山瀬は、その授業の間はずっと眠っていた。
内心ホッとする。どうしてホッとしたかは考えることはなかった。自然と、授業が終わった開放感と結びつけた。

誰かを本気で好きになったことはない。
砂浜で貝殻を拾ったことなんてない。
だから恋には熱くなれない。

彼の髪が、また揺れた。


風をいたみ
岩うつ波の おのれのみ
くだけてものを 思ふころかな    源重之  

風吹く

ありがとうございました。小説としては面白くない展開ですが、自分も気づかない密かな恋心を描いてみました。どうしても若者向けな文章になってしまいました…。勉強します。
ご意見ご感想など頂けると嬉しいです!

【追記1】
2017.02.20 執筆し直しました。文章構成などが大きく変わっております。

【追記2】
様々な解釈で読んでくださって構いません。
私の中では、
プリント=貝殻
教科書=山瀬と奥田の意識の違い
を表したつもりです。
伏線をはるのがへたくそな作者です…笑

風吹く

恋をしたことがない主人公のおはなし。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-19

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