sakuraンボ

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ある少年の母は重たい病気にかかっていたので少年は酷く落ち込んでいた。少年は貯金箱からわずかに貯めていたコインを取り出して母が好きなさくらんぼを買いに街へと出かけて行った。その帰りの途中、湖の横で今にも死にそうな乞食が倒れて「あぁ、少年よ、何か食べ物を俺にくれないか?お腹が減りすぎて死んでしまいそうだ…」と弱った声で少年に懇願した。
少年はその乞食を見て哀れに思った。そして母の為に買ったさくらんぼを袋から取り出して、「おじいさん、このさくらんぼを食べて下さい」そう言って乞食の口の中に入れた。
乞食はとても美味しそうに、そのさくらんぼをポリポリと味わって食べた。少年は母の元へ帰ろうとして、振り向いた時、乞食は少年に声をかけた。
「少年!こんな乞食に親切にしてくれて本当に感謝する」
意外にしっかりとした声に少年は驚いた。その事に微笑んだ後、乞食は話を続ける。
「君は優しい子だ、私は君から貰った、このさくらんぼで恩返しをしたいと思う」
続いて乞食は言う。
「そこでだ、君の願いを六日以内で叶えてあげようと思う」
そう言って一匹の白い鳩を乞食は懐から出し、少年の前にゆっくりと両手で置いた。そして乞食はさくらんぼの種を口から吐いた。鳩はその地面に落ちた種を瞬時につまんで飲み込み、翼を広げて、どこかの空へと飛びだった。
白い鳩は海に囲まれた王国に到着した。そしてある真面目で勤勉だが貧しいやもめの家の畑に、さっき飲み込んだ、さくらんぼの種をフンと一緒に落とした。するとみるみる内にさくらんぼは芽を出して、大きな大木となり、赤いさくらんぼの実を付けた。それに加えてとても良い香りがする。やもめは家から出てきてこの大木に歓喜して喜び、つまみ取り始めた。
やがてやもめは、つまんださくらんぼを市場で売り始める、すると旅商人がやって来てその実の大きいさくらんぼを見て驚嘆する。「こんな上等なさくらんぼは、今まで見た事はない!私に全て売ってください!」そして沢山の金貨をやもめに渡して、旅商人は上機嫌で大きい帆を張った船に乗り込んだ。
ところが空は濁った雲が目立ち始め、風は空気を撒き散らし、波は剣の様に船を刺し始める。船を漕ぐ船員らは余りにも大きい嵐に、恐怖で顔は青くなる、そして自分たちとお客の荷物を海に投げ込み始めた。しかし旅商人は荷物を中々投げ込まない、怒った船員は旅商人ごと海に投げ落とした。
渦巻く潮の中で旅商人は海水を飲んだ。また沈んでいく海の底で黒い影があった。化物じみた巨大な魚だった、その魚は旅商人を飲み込んだ。巨大な魚は嵐が静まった後、旅商人をどこかの島に吐き出した。そこには魚しか食べない国民と王様がいた、旅商人はまんまと、さくらんぼを売り込む事に成功した。王様はこのさくらんぼを大層気に入り、自分たちの畑を作り、さくらんぼの種を埋めた。
嬉しい事に翌日、さくらんぼは大木となって大きな実をつけていた。王様は気分を良くして、他国に居る娘にこのさくらんぼを沢山送りつけた。娘はその父である王様から送られて来たさくらんぼを、美味しそうにムシャムシャ食べていると、娘が好きな科学者がすぐ側にいる事に気付いて。そして科学者の口に優しく食べさせた。すると科学者は「すばらしい!もしかすると、この果物はあの特効薬になるかもしれない!」そう叫んで科学者はさくらんぼを部屋に持ち帰り、透明のビーカーに入れて緑色の薬品を流し込み、アルコールランプで煮はじめた。
どうやら成功したらしい、さくらんぼは金色に輝き、科学者の部屋を明るく照らした。科学者は喜んでビーカーを手に取り、部屋から出た瞬間、足を小石にすくわれ倒れこみビーカーを叩き割ってしまう、と、その勢いに任せて金色のさくらんぼは弧を描いて空へと飛んでいた。そこに、まるで今まで待っていたかの様に白い鳩がクチバシに咥えて飛んで行ってしまった…

木造の小屋の中から咳の音がする。
母はベッドの上で苦しそうだ、もしかしたら今日が峠かもしれない少年は思った。最後にさくらんぼを食べさせてあげたかったと…
コン、コン、コン
何かが窓ガラスをノックする見ると、白い鳩が輝くさくらんぼをクチバシに咥えている。少年はすぐに窓を開けて咥からさくらんぼを受け取った。少年は急いで苦しそうにしている母の口にさくらんぼを入れて食べさせる。
母はゴホッ!ゴホッ!と咳き込んで口から四角い黒い石をポトリと落とし、そしてゆっくりと目を開いた。そして少年に「凄く甘いわ」と言った。

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少年の親切が国々を超えて、帰って来る

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-17

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