電子からの記憶

電子からの記憶

電子からの記憶

「まずいな…これは深刻なエラーだ」
黒縁眼鏡をかけた太った男は深いため息を吐いた。彼の名は青木政一、今年で32才になる仕事は飲食業で主に厨房に立って冷凍の食材をいかに美味しそうに調理し、お客様に提供するそういった仕事を黙々と続けている。
そんなある日、青木は帰りの途中で古びたゲームショップに足を運んでいた。と言うのも青木の趣味はレトロゲームをプレイする事であり、休みの日には必ずゲームをしているのだった。その様なわけで何時ものコーナーで背筋をはってゲームソフトを見ている。すると、ソフトの背表紙に懐かしい文字が書いてある。【スクロール伝説】思わず青木は「嘘だろ」つぶやき、そのソフトに手を出してしまった。小学生の頃に友達とやった糞ゲーだ、糞ゲー過ぎてその友達と二人しか知らないし、プレーもしてないはずだ。まさか、こんなコアなゲームが置いてあるとは…もちろん青木はすぐに購入して、家へと向かった。久しぶりのワクワク感だ。
テレビと繋いであるゲーム機にソフトを差し込み、「いざ!懐かしき、糞ロール伝説!」そう叫び電源を押す。古そうなゲーム音源と共に昔よく聞いたBGMが流れる、そしてスタート画面が表示される、コントローラーの十字キーを押してスタートを押したその瞬間、ビー、ビー、ビー、テレビのスピーカーから奇怪な音が鳴り始めた。
青木は「フリーズしたのか?」と呟くがコントローラーは動く、そして画面が切り替わった。画面には白と黒のラインが交互に並んでいる。どうもおかしい青木は残念そうな声で言う。
「まずいな…これは深刻なエラーだ」
深い息を吐いたその時、ゲーム画面は切り替わった。
青木はスタートを押して、ゲームをし始めた。昔の記憶を思い出しながら進めていく、ホントに糞つまらないゲームだ。いったい俺はどうしてこんなゲームをやっていたんだろう…一緒に遊んでいた友達を思い出そうとするが、モヤモヤとして顔を思い出せない。最初のボスを倒す、次のボスを倒す、その次また、俺は黙って黙々と出てくる敵を倒し続けた。そして最後のボスが画面に現れる。俺はいつもの調子でラスボスを倒そうとするが、勝てない。二度目もコンテニューするが、勝てない。俺はイラついて何度もコンテニューして挑むが勝てない。さすがに苛立ちを感じて、攻略のサイトを見ながらコントローラーをイジって画面の主人公に命令するが、勝てなかった。
俺は、コントローラーを投げ捨てごろりと転がって天井をみる。昔、俺はどうやってラスボスに勝ったんだ?思い出せない。
何となくスタート画面には戻る。と、うるさい音がビー、ビー、と鳴る。俺はその音に合わせてBボタンを連打した。次の瞬間俺のセーブデータ以外に別のセーブデータが上の方に表示される。俺は驚いてそのセーブデータの日付を読んだ。日付は2001年の6月12日16:28分、23年前のデータだ、俺はその古いセーブデータをロードしていた。もしかするとラスボスの倒しかたも分かるかも知れないし、何より好奇心があった。
セーブデータはラスボスのいる扉の前からであった。主人公の名前を確認してみる。名前は【トモキ】となっている。何か感じる物もありながら扉を開けようと進めた時、扉の横に何か人物が立っている。こんな人物、俺がさっきやっていたステージにはいなかった。俺はそいつに話しかけてみる。すると画面下に【マサイチが友達になった】と表示される。マサイチ?俺と同じ名前だ、俺はその二人を操作してラスボスに挑んだ。やはり、強いでも不思議なものでこの二人のゲームキャラでとても良い具合に助け合い補助して、攻撃ができる。
そしてついに俺はラスボスを倒せる事ができた。と、ここでゲーム製作者のプロローグ画面の様な文字が表示される。すでにゲームの画面では無かった。俺はその黒いバッグで白い文字を読み上げていく。
【ゲームクリヤ、ヤッタネ!一緒にボクと遊んでくれてありがとう。ずっと友達だよトモキ、より】
トモキ?トモキ、どこか懐かしい名前だ、記憶の隅をたどって考える、そうだ。
思い出した、あいつは俺の友達【トモキ】だ。トモキは身体が病弱でいつも一人、体育や遠足に行けなかった。まぁ、あんまり話した事も無かった俺は別に気にするような奴でもなかった。
そんなある日だ、俺は学校をサボってゲームショップでゲームソフトを漁っていた、もちろんお目当てはその時代に流行っていた、ゲームソフトだ。俺はそのゲームソフトを見つけて手に取ろうとした時だった。トモキが俺の側にいたのだ。トモキはジーとあるソフトを見ていた【スクロール伝説】だ。俺は余りにも熱心にそのソフトを見続けるトモキについつい反応して声をかけてしまった。
「そのゲーム楽しいのか?なんか、絶対たのしくねーよ」
俺の声に驚いたのだろう、トモキは俺に対してキョトンとした様子で俺を見上げた。トモキは身長も低かった。トモキはそのソフトを手に取って俺に言った。
「いや!このゲームは絶対!面白いね、そもそも絵が面白い!」
意外に大きいトモキの声に俺は驚いた。でもその自信ありげな声に俺は反論したくなった。
「じゃあ、買ってみろよ!まぁ面白かったら貸してな」
「ボク、お金ない」
「はぁあ?」
「それに、ゲームなんてやった事がない」
俺はそのトモキの言葉が何となく腹が立った、世界で一番面白い物をやった事がないだと?許せない気分になった。俺は、自分が欲しかったソフトを買う事を辞めて、そのトモキが欲しいソフトを買った。
トモキは「そのゲームボクの家でやろうよ」と言って俺を誘った。
もちろんトモキの家にはゲーム機なんてないのだ、俺はいったん家に戻りゲーム機を持って来た。トモキの家はデカかった俺の家がチンケな犬小屋に見える程だ、玄関を入るとトモキのカーチャンらしい人が凄く優しそうな目で俺とトモキを見ていた事を覚えている。
トモキの大きい部屋にある、テレビに繋いで【スクロール伝説】のスイッチを入れ様とした時のトモキのあの、ワクワクとした顔の表情に俺は気づく、そして俺の胸に何とも言えない気分の波が押し寄せる。
「ボクにスイッチを押させて!押させて!」トモキはそう言って、ソフトの下にあるボタンを押した。
どこかしら胡散臭なBGMがテレビから流れ始める。でもトモキの顔は非常に楽しそうに笑っていた。
時計を見るともう5時半になっている、俺は正直言って全然楽しくないこのゲームに夢中になっていた。多分、ゲームじゃなくて、トモキといる時間が楽しかったからだ。俺はまた明日遊ぶ約束をして、走って帰った。
そんな日々がずっと続いたある日、ついにラスボスを倒す場面になっていた。俺とトモキは声を出して、熱くなっていたが。
トモキのカーチャンが部屋に入ってきた。どうやら俺のカーチャンが帰って来いとの電話があったらしい。俺とトモキは悔しそうにしながらも、玄関をでる。そしてトモキは俺に向かって、笑いながら言った。
「絶対!明日!ラスボス倒すからな!それまで、プレーしないで俺はまっとくからな!」
俺は「あたりめーだろ」そう言って家に帰った。
ラスボスは倒す事がなかった。トモキは翌日転校したのだ、おそらくトモキのカーチャンはトモキにも伝えられなかったのであろう、それ程に俺とトモキは楽しそうだったのだ。
その後トモキに何があったかは分からない、俺も最初は悲しかったが、時間とともに忘れていった。でもトモキはこのゲームソフトにプログラムを組んで【トモキ】と【マサイチ】が二人で力を合わせないと勝てない様にしたのだ。
どうしてこのソフトがあのゲームショップに売られていたのかは分からない、でも俺は【トモキ】の文字とこの胡散臭BGMをあの頃に重ねて涙を流して泣いていた。

電子からの記憶

電子からの記憶

ゲームショップで見つけた懐かしいレトロゲーム、子供の頃、友だち二人でやったもんだ、あれおかしいな、この画面はエラーなのか…

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-16

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