新撰組外伝~儚き思い~

新撰組の活躍していた幕末を舞台とした小説です。一人の少女が新撰組に男として入隊しながら、時代とともにどうあるべきか自分の存在を見つめていくストーリーです。恋愛描写もあるので、幕末にあまり詳しくない方でも恋愛小説として楽しめると思います。

時代に翻弄されながら、それでも強く生き抜こうとした少女の物語。新撰組の皆さんが中心に登場します。

全てが始まったあの日以来、一体どのくらい経ったのだろう。
私はふと、山のふもとを眺めながら考えていた。西日がとても鮮やかな茜色で、何だか心地がよい。
すぐそばに置いていた湯のみを手に取り、私はお茶を一口飲んでほうっと息を吐いた。
あの日も、こんな風に夕焼けの綺麗な日だった。

「志穂、さらしを忘れてるわよ。これだと女だって知られちゃうじゃない。」
そう言って私にさらしを渡してくれたのは、幼い時からずっと私の傍にいてくれている、親友のめもりだ。
うっすら茶色の、かるくふわふわした髪の毛が美しい美少女である。めもりの作る手料理はとても美味しく、いつも私はめもりの料理が出来るのをまだかまだかとかじりつい見て待っているほどだ。

「あぁ、ごめんめもり。ありがとう。」

微笑をこぼしてそれを受け取ると、私は慣れた手つきでさらしを胸に巻いていった。

「今日はとても大切な日なんだからね。しっかり男装しておかないと。ただでさえ綺麗な女の子なんだから、あなたは。」

めもりは心配そうに私に語りかけていたが、私にはめもりの言葉も聞こえてなく、昔のことをただ繰り返すように考えていた。
かつて、私にはお父様とお母様がいた。そして、兄さんがいた。けれど、今はもう誰も私のそばにはいない。
天涯孤独となった私に残された使命・・・。私はそれを果たすためだけに今を生きている。

「それにしても、新撰組がいくら入隊者を募集しているとはいえ、脱藩者の私たちがそう簡単に受け入れてもらえるのかしら。」

私とめもりは、互いに十五のときに長州藩を脱藩した。理由は、私の兄がやつ等に殺されたからだ。

「いや、なんとしてでも新撰組に入隊しなくちゃならないんだ。・・・万が一のときには、私の実力を見てもらえば問題はないだろう。」

「・・・あれから、もう八年が経とうとしているのね。」

「めもり・・。ごめんね。」

「もう気にしないで・・・あなたの決心が、鈍ってしまうわ。」

めもりは、困ったように笑った。その後は、京都の街中を歩きながら他愛もない話を語り合った。やがて屯所に着くころには、私の手には汗がうっすら滲んでいた。
屯所の門の前には、一人の隊士がいたので私たちは彼に声をかけた。

「ごめんください、隊士募集にあやかり、新撰組に入隊したいのですが。」

私は、後ろで一つに束ねた腰までかかる長さの髪をなびかせながら声をかけた。殺気もないところから察すると、おそらくこの人は下級隊士だろうか。

「名を名乗れ。」

訝しげに私とめもりを交互に見ると、その隊士が呟いた。

「・・・村上志穂と申します。流浪人でございます。」
「小倉めもりにございます。女中を希望いたします。」

じろりと見られつつもめもりの美しさに圧倒されたのか、彼は頬を赤らめながら、ついて来い、とだけ言い残し私たちを中に案内した。
ここからが正念場だ。おそらくは局長らとのお目通りをするのだろう。新撰組には鬼の副長と呼ばれる者もいるらしい。
心してかからねば、私が女だということがばれてしまう。

私たちは、互いを見つめ頷くと、案内に従って中へと進んでいった。

時代に翻弄されながら、それでも強く生き抜こうとした少女の物語。新撰組の皆さんが中心に登場します。

一人の隊士に案内され、とある部屋の前で立ち止まったかと思うと、「ここだ。」と漏らし、中にいるであろう人物らに声をかけた。
「近藤局長。入隊を希望するものが面会を望んでおりますが。」
「通せ。」
中から野太い声が聞こえた。すると、この声の主は新撰組局長、近藤勇のものなのだろう。その声だけでは、彼の年齢までは分からなかった。
「入れ。女、お前もだ。」
「はっ、失礼いたす。」
「失礼いたします。」
私は男のふりをし、めもりは美しく艶めかしい所作で隊士に礼をし、中に入った。
中にはざっと二十くらいの隊士がいた。みな、こちらを見ている。部屋の中央には、腕を組みこちらをじっと見つめる三十路ほどの隊士がいた。おそらく、この人物が近藤勇だろう。
「ふん、まだ餓鬼じゃないか。」
一人の隊士がつぶやいた。背が高く、一重で細い目をぎらつかせてこちらを一瞥すると、その人と目が合った。私は聞こえないふりをして会釈をした。
「まあまあ、斉藤さんってば。僕とあまり変わらないじゃありませんか、彼。」
にっこり微笑みながら、細めの隊士に声をかけている一人の若い隊士。この人の気配・・・。相当なつわものだろう。
「沖田君は暢気なものだな。こいつらが長州の間者でもしたらどうする。会津公に会わせる顔がないだろう。私は反対だ。」
頑固として、細めの男・・斉藤と呼ばれた彼は、私たちの入隊に反対らしい。
それはそうだろう、いきなりどこの馬の骨とも知れてない者が、それも藩に所属してすらいない二人の男女が新撰組に入隊したいなどといっているのだから。
けれど、それではこちらが困る。私は何としても新撰組に入隊しなければならないのだから。

「恐れながら、私は確かに齢十七の餓鬼にございますが、剣の腕には新撰組の皆様にも劣らぬものかと存じまする。」
「ちょっと、志穂!なに喧嘩をうってるのよ、慌てず冷静に行動してって、あれほど私が・・・」
めもりが私の耳元で囁く。
「何を話している。・・ふん、口だけは一人前のつもりか。」
「良いのではないか、斉藤。」
近藤勇と思われる人物が、斉藤のうごきを制する。
「しかし局長!」
「うちのものが失礼をしてすまない。お前たち、名は何と申す。」
近藤局長は素直な笑顔を私たちに向けてくれる。
私たちは彼に向き直り、改めて頭を下げた。
「村上志穂にございます。」
「小倉めもりにございます。」
「はっはっは、志穂にめもりか。お前たちを歓迎しよう。」
「ありがとうございます!」
ほっと安堵したも束の間、私の隣で斉藤さんがぎろりとこちらを睨んでいるのが目に入る。
局長以外には感激はされていないみたいだ。・・まあ、当然か。
「志穂、お前をどの隊に入れるかは俺と歳で決めておこう。」
「はっ、承知いたしました。」
私は局長に礼をした。

「副長、あなたまでこの者の入隊を認めるのですか!」
私たちの取り巻きから一歩引いたところでこちらを伺っていた隊士、その副長と呼ばれた男は表情も変えずに応えた。
「近藤さんが決めたことなら、俺が口出しすることはない。斉藤、なに心配するな。」
副長、そうか。あの鬼の副長と名高い人か・・。
私は名前は知らないけど、きっとめもりなら知っているだろう。
「ですが・・・。」
いまだに納得できていない様子の斉藤さんに、声が掛けられた。
「斉藤さん、それでしたらこの人に剣の腕前を見せて頂けば良いんじゃないですか。」
「沖田君・・。まあ、そうだな。新撰組に入隊する資格があるのかどうか、ぜひ見せていただきたい。」
「!志穂、どうするの。」
めもりが不安げな顔で私を見た。しかし、こうなることは既に想定済みだった。私は笑顔で答える。
「もちろん、お受けいたします。」
沖田さんも笑顔を浮かべている。綺麗な顔立ちをしているけれど、殺気が見え隠れしているのが伝わる。
この人自身も、私のことを疑っているようだ。そこで、実力を見てみようというところだろう。
「良かった。さっきは剣術には自身があるといっていましたね、ここは一つ・・斉藤さんに納得していただけるように、僕が相手をしましょう。」
「・・・・。良いのか、近藤さん。あんな餓鬼に総司を相手させて。」
副長がそっと近藤さんに耳打ちする。
「歳、まあ仕方ないだろう。斉藤も、総司も・・あいつはただ剣を交えたいだけのようだがな。これで志穂の入隊を認めることができるだろう。」
「あいつには、総司と同じくらいの才能があると思うのか。」
「はっはっは。ただの勘だ。先ほど自分は十七だと言っていたな。そんな子どもに、あんな気迫はそうだせるものじゃあない。恐らく、壮絶な過去を歩み、今もなお何かを背負っているのだろう。」
沖田総司・・か、幼い子どものような無邪気な笑顔を見せる不思議な人だな・・。
こういったタイプの人が案外強いものだと、昔お父様が言っていたっけ。
「それでは志穂さん、あなたの相手を務めます。僕は一番隊組長の沖田総司。どうぞよろしくお願いします。」
「村上志穂です、一番隊の組長にお相手していただけるとは光栄です。よろしくお願いいたします。」
めもりが眉を下げて私を見つめる。
何も心配しないで良いよ、と目でめもりに訴えた。
「それでは志穂、いきなりで申し訳ないが今から総司との勝負を頼む。」
「はい、局長。」
「総司も良いな、構え!」
私はいつものように構える。左足を前に、右半身を斜め前に傾け、そちらに少し重心を持っていく。剣は鞘から抜いていない。

新撰組外伝~儚き思い~

ここまでお読みくださった皆様、ありがとうございます。今回、初めて自作小説を執筆しております、くっきーばにらと申します。新撰組が好きで好きでたまらず、とうとう手を出してしまいました。
まずは、第一章を書きあげました。導入です。新撰組の方が誰も出てこず、申し訳ありません。
兄を失い、天涯孤独となった志穂がめもりとともに新撰組に入隊志願に行くところですね。兄をどうして失ったのか、両親はどこにいるのかなどもこれから執筆していきます。
駄作ながらも温かく見守っていただけると幸いです。

新撰組外伝~儚き思い~

新撰組に入隊することで、亡き兄の思いを継ごうと奮闘する一人の少女の物語。仲間との絆、時代に翻弄され、女である自分という存在を見つめていく主人公。 青春の全てを剣に捧げ、自分の生きがいを見つけていくまでの生涯を描いていきます。新撰組にくわしくない方でも楽しめる、恋愛あり、三角関係ありの外伝です。 もちろん、新撰組の皆さんも登場します。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 時代・歴史
  • 青年向け
更新日
登録日
2016-05-15

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. 時代に翻弄されながら、それでも強く生き抜こうとした少女の物語。新撰組の皆さんが中心に登場します。
  2. 時代に翻弄されながら、それでも強く生き抜こうとした少女の物語。新撰組の皆さんが中心に登場します。