いのるよる

いのるよる

星が降る夜。少女は願いをかけた。

学校から帰ると、私は真っ先に自室へ向かった。いつもなら、こんなことはしない。しかし、今日はちょっとそうしたい気分なのだ。リビングの横を足早に通り過ぎ、階段を上ったそこが私の部屋だ。教科書で重くなったリュックを投げるようにして置いてから、狭く、散らかった部屋の1番奥に、大きく場所を占領しているベットに、私はゆっくりと腰を下ろした。階下からは、母の作る夕食のいい匂いがしてくる。しかし、私は動かない。そのまま、ベットに体を放り出して、哀しさに浸った。

私の右足には、派手なミサンガが結ばれている。趣味ではない。これには訳があるのだ。このミサンガには、強い強い想いが込められている。1年前、これを右足首に結んだ日から、1日たりとも忘れたことのない強い想い。これが切れた時、その願いが叶うというが、本当にそうなのだろうか。少なくとも、今の私は、こんなものに頼ってしまうほど、叶えることが困難な願いを持っているということだ。

改めて、自分の想いの強さを思い知らされる。1年経った今も、未だ、彼への想いを断ち切れないでいる。このミサンガを結んだあの日は、まだ、純粋に彼のことを愛せていた。そして、このミサンガを結んで、切れた時、必ず彼に会えると信じていた。今は少し違う。彼を愛していることに変わりはないが、きっと、今は少し、彼のことを愛しているという自分に囚われている部分もあるのだろう。彼のことを想わない人生など考えられない。それはきっと、解けないように強く結んだミサンガが象徴している。

携帯を開いた。暗い部屋にスクリーンの明かりが眩しい。窓の外では、星が、いとも簡単に暗闇を破ってしまう明かりを見て、顔をしかめた。私はそれに気がつかないふりをして、メールを開いた。
“お客様はご当選されました”
最初に開いた時は、喜びの衝撃で、倒れてしまいそうだった。しかし、今は。

世の中には、すべてが思い通りにいかない時もあるのだ。私だってもう高校生だ。大人の事情だってわかる。ほら、こうして階下からいい匂いがしてくるだけで、きっとこれは幸福というのだろう。私は、1度右足に巻きついたそれを、強く握ってから、涙を拭いて、階下へと向かった。

いのるよる

人生には思い通りにいかないこともあるということを題材にして書きました。
抽象的な物語にしたくて、具体的な言葉を避けるようにしました。想像しながら読んでいただけたら幸いです。

いのるよる

人生には思い通りにいかないこともある。それでも、少女は星に願いをかけた。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-12

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