深海(仮)3



ここはそんな監獄からは遠く離れた海。


大きな岩で囲まれたまさに隠れ場所、

秘密基地といった言葉が似合う場所には、数匹の魚達が集まっていた。



「おっ、オイラの母ちゃんも……あのイルカ達に……」


「私の親友もあそこに……私をかばって……!」




命からがら逃げてきたものから、

イルカの襲撃した時には家にいなかったものまで、この岩陰には監獄送りにならなかった魚が隠れていた。



どの魚も住んでいる場所は全く違い、

世界全体にイルカの襲撃があったことがわかった。



それに襲われた時刻もほぼ同時だった。


かなり大きな組織なのだろう、あのイルカ達は。





「あんた……イルカだけど、まさかあいつらの仲間じゃないだろうね!?」


少し歳をとった鯛がみなと同じく逃げてきたというイルカに怒鳴った。


確かにあのイルカ達と同じ種のイルカだった。疑われるのも仕方がない。





「落ち着いて。あのイルカ達には背中に模様があったはず。
ちょっと背中を見せてくれない?」




そう小さなサメが言った。



サメに言われた通りイルカは背中を見せると、模様はなく、綺麗な背中だった。



イルカは安心した表情を見せたかと思うと、
険しい顔になり、他の魚達に聞くように言った。




「同じ種類だからって疑わないでくださいよ……さて、あのイルカ達なんですが、
どうやら何かの命令で動いているみたいなんです」




イルカが言うには、


あのイルカ達は『キル・ドルフィンズ』


と呼ばれ、ボスと呼ばれる存在がいるようだ。


「ボスの命令に従え」



「我らキル・ドルフィンズ!」



と言っているところを聞いたらしい。




「それをたまたま聞いてたなんて……やっぱり怪しいねぇ」



まだイルカのことを疑っているらしい鯛は、

まじまじとイルカのことを見つめる。




ただサメが見かけたキル・ドルフィンはみな

背中に模様があったという証言で

すでにイルカの疑いは晴れている。



他の魚にも見たという魚はいた。



そのことを改めてサメが鯛に伝えると、

しぶしぶ鯛は納得したようだ。



ここにいる魚は

イルカ、サメ、鯛、チョウチンアンコウ、
アロワナ、ダンゴウオ。




いずれも家族や知り合いをドルフィンズに連れ去られている。




「よし、僕らでみんなを助けよう!」



サメが意気揚々と言うが、誰も賛同することはなく


サメは一瞬にして「無理、か」としゅんとする。




当たり前だ。


もはや全世界レベルの事件だというのに



6匹だけで捕らえられている魚を助けるというのは無理だろう。



警察は何をしているのだろうか、


そうサメが呟くと、小さな声でダンゴウオが




「わ、私、警察行ったけど、誰もいなくて、めちゃくちゃに散らかってた、の」




と言った。



争った跡があると言うからには警察ですら捕まってしまったのだろう。




全く情けない話だ。



小さな事件で大騒ぎ、大きな事件で役立たず。




少なくともここにいる魚達はそんな警察しか見たことがなかった。




とりあえずもう疲れた。



ここならほぼ見つかることはないだろうと、


1度寝ることにした。



こんなにも居心地の悪い場所で寝るのは何度目だろう?



もしかして、人生で初めてではないだろうか。




ああ家族に会いたい、


友達に会いたい。




そう思いながら、サメは眠りについた。

深海(仮)3

深海(仮)3

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-07

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