無題

とても心地のいい陽気の日であった。
ご主人の機嫌も良く、私を散歩にと連れ出してくれた。
日を半分ほど雲が包み、風が火照った体を撫でる。
木は嬉しそうに揺れ、コンクリートの塊は凛としてそこにいた。
水がないのも素晴らしい。
私は眩しいのが苦手だ。
ふと、今日が毎日続けばいいなんて思った。

気づけばご主人は木陰の中で居眠りをしているようだ。
私は隣に座り、いつの間にか私も眠ってしまったらしい。
ご主人の腕の中で目が覚めた。
抱えたままご主人は帰り道を歩く。
声をかけると綺麗な笑顔を向ける。
揺れが心地よくて、私はまた目を閉じた。

大きな太陽でした。
決して熱くなくて、とても心地が良くて、いつまでもそこにいた覚えがあります。
本当に、大きな太陽でした。
私は影から眺めていただけですが、ご主人と、ご主人の姉様でしょうか。それとお父さんらしき人がいました。
ふわふわとした空気の中で、3人とも楽しげに話すものですから見ている私も楽しくなるものです。
3人の間に私もいると錯覚するほどでした。
ただ、やはり錯覚に過ぎないのです。
大きな太陽が照らす陽炎に変わりはないのです。
そのことに気づくと、なんだか全てがダメになった気がして、陽炎が心に入ってくるのを感じるのです。
私は彼らに背中を向けると、ご主人の腕の中を思い出しながらただ独りで歩くのでした。

無題

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人が人である理由

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-07

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