田中の世界

本当は序章〜とかで分けたかったけれど、あまりにも短すぎたからくっつけました。
なんか台本みたい、いや台本にすらなってないと思いますけどまぁいいでしょう!

東京と神奈川の境目にある、どこにでもありそうな街のどこにでもありそうな家のどこにでもありそうな部屋の中に、その男は居る。

能力者ーー田中太郎。彼は、どこにでもはないレベルの大学目指して今日も朝から勉強だけをしてーー。

「あばばばばばばばあばろん! ももももう無理だー! 終わりだ! もう終わりだ! これ以上勉強を頑張る気力がねぇ! ついでに言うと金もねぇ! 誰かくれ!」

高校三年の夏休み終盤、田中太郎の心は大学受験の影響ですでにボロボロだった。彼は幼い頃から自身の「能力」に頼りがちだったため、精神は成長せず、17歳にして精神年齢は小学生レベルにプチだった。

そんな精神年齢の持ち主が過酷な大学受験勉強を耐えられるはずも無く、予定調和的にこうして発狂してしまったわけだ。

そして、その発狂してしまった『能力者』田中太郎が、思わぬ方法で自身の心を癒そうとするのも予定調和的なのだ。

「……よし、なんか……世界創ろう。うん、創ろう、決めたわ。そしてそこに色々人を転送して……なんかデスゲームでもさせよう、時代はデスゲームだしな。それを見て気分転換しよう。あ、なんか能力与えると面白いかもな……うんうん」

田中太郎が、一見可笑しな妄想かと思う独り言を言った次の瞬間、田中太郎の部屋の中心に、青く光り輝く小さな球体が出現し、その球体がドクンと、まるで鼓動を打つかのように振動すると、その球体から青い光が波のように打ち出された。

そして皮肉にも選ばれてしまった、何百か何千か何万かよくわかんないけど、とにかく沢山の人が一斉に姿を消した。

正確に言えば転送されたのだ、球体の中、田中太郎の創り出した世界の中に。

こうして、悲劇のデスゲームが始まった。

ーーーーせっかちな人に物語の結末を少しだけ教えると、田中太郎は大学に落ちた。

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どこからか飛んできた一羽の鳥が、町の中央広場で突っ伏して倒れている少年の頭にとまった。どうやら少年のスチールウールみたいな髪の毛を巣のような物だと勘違いしたらしい。

「う、うぅ……」

頭に違和感を感じたからか、鳥を手で払いながらスチールウールは目を覚ました。よくわからないけれど、身長174cmぐらいで座高が94cmぐらいだろうその長い胴体と、それに付属している頭をゆっくりと起こし、いかにも寝起きな眠そうな目で辺りを見渡す。うつ伏せに寝ていたからか、そのスチールウールの前側には変な癖がついている。

「なんか、さっきから馬鹿にされているような……。ってなんだこの状況!? さっきまで、早めの風呂もしませてサッパリしたから勉強頑張るぞーって意気込んで部屋で勉強していたはずなのに、目が覚めたら全く見ず知らずの場所にいるなんて!! それも中世ヨーロッパの様な町並み! かと思えば普通に電柱とかあるし! 何これ滅茶苦茶!? あ、馬車だ……車じゃなくて?! こんなに電線が張り巡らされてるのに車ではなくてぇ?!」

「はいはい、説明お疲れ」

現在自身が置かれている状況を一通り説明してくれたスチールの背後から、不意に嫌味の混じった労いの声がした。

「あなたは…お隣さん!?」

スチールが振り向くとそこにはお隣さんが凛とした格好で立っていた。お隣さんは、別にスチールの幼馴染という訳ではないが隣の家に住んでいて、別にスチールと同じ高校に通っている訳でもないが同い年の高校三年生の女子だ。
少し癖のある茶色がかったロングヘアーで、背は約156.3センチぐらいだろうか。少し童顔だが、かわいいと言うよりは美人だろう。童顔だが。

「そうそう、あんたの家のお隣さんです。まぁ私にもちゃんと名前があるからそっちで呼んでよね。私の名前はーー」

「ここ、どこ?」

「ーーッ! ……ちゃんと聞きなさいよ、私の名前は……まぁいいわ。ここがどこか? あんたの服のどっかに紙が入ってると思うから探してみなさい」

「紙……?」

若干キレ気味のお隣さんに言われ、スチールは自分の服のポケットに手を入れその紙とやらを探そうと思ったがーー。

「あ、この服ポケットとかねぇわ」

田中太郎の行った転送は、転送の際に、特典として新しい衣服が付与されるシステムでもない。
そのため、この世界に転送される前まで、従兄弟から借りパクしたままのサッカーの練習着のズボンと、高校の文化祭で作ったクラスTシャツというだる着で過ごしていたスチールはその姿のままこの世界に転送され、そしてその服にはポケットなどどこにも付いていなかったのだ。

「ポケットがない? なら残念ね。特にあんたの周りに紙が置いてある訳でもなかったし、ないんじゃない、この世界についてとか色々書いてある紙、あんたには」

「あららー、もしかして俺だけハードモードってやつ? ……あれ、でも待てよ。お隣さんはその紙持ってるんだよな? もう読んだんなら見せてくれよ」

「持ってるけど……いやだ。なんかいやだ」

「え、いやいや、え? じゃ、じゃあ見せてくれなくてもいいから、せめてこの世界のことについてだけでも教えてくれ! ください!」

「んー…別にそんぐらいならと思うけど……なんとなくいやだ! じゃ、そういうことで、さよなら。私は行くわ」

「え、ちょ、ちょっと待って! なんとなくって、なんとなくってなに!? なんとなくで教えてくれないのは酷いよ、なんとなく! 凄い重要な情報なんだから!」

お隣さんの余りにも冷たい、というより無慈悲すぎる対応に納得出来るはずもないスチールが、既にどこかに立ち去ろうとしているお隣さんを追いかけその手を掴む。

「ッ! 触んないでよこの鳥の巣が!」

「と、鳥の巣!?」

女子に腕を振り払われるプラス悪口を言われるというダブルコンボを受けた鳥の巣はその場に崩れ落ちる。まるで女子に腕を振り払われて、さらに悪口を言われたようなその崩れ落ち方は、まさに女子に悪口を言われながら腕を振り払われた者のそれだった。

(女子に腕を振り払われながら悪口を言われて思わず崩れ落ちてしまった。2度も崩れ落ちても親父にぶたれたことなかったのに! ……ッ!!)

絶望の底にいたスチールは微かな違和感を覚えた。
それは、普段生活している中では絶対に感じることのない違和感。感じてはいけない違和感。

スチールはすぐさまその違和感の正体を探るべく、その違和感のする場所、パンツの中へと手を入れる。そしてすぐにその違和感の正体に気付く。

「あった! あった! あったよ! お隣さん! 紙あった! 紙あったよ!」

その存在を諦めていたスチールは、見つけた喜びに我を忘れてその紙片手にお隣さんの元へと走っていく。

「あー、あったの? 良かったわね。あれ、でもどこにあったのよ?」

「股間!」

一瞬。満面の笑みで紙の在り処を言ったスチールの顔に、お隣さんの全力パンチが炸裂するのはまさに一瞬だった。スチールは吹き飛ばされ、民家の壁に激突した。

彼が意識を取り戻したのはそれから何分かたった後だった。



ちなみにこの際、なぜか、なぜか高三にして未だ残っていた下の歯の乳歯(抜けかけ)が抜けて、民家の屋根まで飛んで行ったが……これはまた別のお話。

田中の世界

田中の世界

田中太郎は能力者だった。そしてそれと同時に大学受験生でもあった。そんな彼は大学受験のストレスに耐え切れず発狂してしまう。 そこで彼が考えたストレス発散方法は、自分の世界を創り出しそこに転送した人たちにデスゲームをさせることだった。各々に最強に近い能力を与えるというオマケもつけて。 こうして、一人のバカのせいで恐ろしいデスゲームが始まったーーッ!! なお、死人は出ない模様 *** 自分が書いたやつをカクヨムからそのままコピペしてきました。このサイトとのミスマッチ感がプンプンしてますが知りません、目を背けます。 掌編かと思うほどの短さですが多分長編になります。いつか。

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  • 青年向け
更新日
登録日
2016-05-07

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