双子に振り回された男たちの話

暦では春なのに、昨日は小雪が舞っていた。北国の街、A街では4月、いや5月でも大雪が降ることがある。春というのは、雪に埋もれていた様々なものが姿を表し、人の素性さえも晒してしまうのか。書生をしながら大学に通うレオニードは、酒場へ向かっていた。
彼は普段は酒はあまり飲まない。しかし今日は、1年半ほど付き合っていた恋人と別れることを伝えたのであった。彼は恋人であったマリアが、他の男と一緒に家に入るところを目撃してしまったのだ。彼女は貞潔であることで評判のよい女、と聞いていた。しかしそれを目撃した以上、信用できなかった。
店へ入った。「やあ、コンスタンチン・イリイチ。」「レオニードじゃないか。珍しい。何かあったのか」「恋人と別れたのだ」「そうか、たしかマリア・エドワルドヴナ…だったか」「そうだ」彼は頼むのも忘れてごちた。「他の男と寝るところを見たのだ」「何?何かの間違いじゃないのか?」
店主のコンスタンチンは目を丸くした。「彼女はとても一途なはずだ。」「きっと嘘だ。あんなことなら、嘘を貫き通して欲しかった」彼は彼女をただ憎んだ。「きみは勘違いをしているかもしれない」「何?」「彼女は双子の妹がいる」「なんだって?」初耳だった。「名前は確か…ヨハンナだったか」
隣で聞いていた男がごちはじめた。「俺もヨハンナの売女にやられたんだよ。結婚の結納だとかいって有り金を全部持って行かれちまった。後から同じ顔をした女がきて、ぶん殴ってやりたくなったが、雰囲気がぜんぜん違うことに気づいた。それが姉のマリアだったんだ。それも去年の春だったかな。少ないですが、とか言って結納の半分にもならないはした金を渡してきやがった。断ったがどうしてもというから受け取ったが、こないだの礼拝で全部献金して、好い旦那が見つかるように祈ったよ。レオニードだったか?いますぐもどったほうがいいんじゃねぇか。」
レオニードははっとした。自分はとんでもない間違いをしでかしたのではないかと。コンスタンチンは「まったくひどい話だ。もっといい話はないものか」と店主は呟いた。レオニードはいくらか店主に飲み代を渡し、駆け出すように店を出た。
客は「ちょっとでもよく転がればいいがな、マリアと。」とうそぶくと、「なんせ双子だからな、どこまで本当かなんて、私も知るものか」とごちた。

双子に振り回された男たちの話

双子に振り回された男たちの話

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-05-02

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