桜の悪戯
桜の咲く季節にはのanother
長い片思いは利用するに限ると、昔の人は言ったそうだ。なんつって。
「もうやんなっちゃう!!何よ、他の男の子好きになっちゃったって。村瀬、どう思う?これ!!」
「またコメントし辛いようなこと言いますよね先輩は…」
飲みに行きたい、付き合って。とラインをした。どうせまた愚痴だろうな、なんて思われているんだろうなと思いながら。了解です、行きましょう。なんてラインを待った。
どうせ了解ですって君は言ってくれるでしょう?
ずっと好きでいてくれる男の子。
正直悪い気はしないからずっと友達を貫いてきた。
『村瀬が、私を好き?気のせいでしょ。』
そういうことにしてある。
その結果が目の前の地獄絵図である。
ほぼ酔い潰れた後輩。
しかも、酔い潰れきってないので「酔ってないですよ、でも…」を繰り返し言う村瀬。
じゃあしかけてみよっと。と、いたずら心が騒いだ。
「村瀬はさぁ。好きな子いないのぉ?」
酔ったフリで聞く。どうせまた「知らないですよ?」とかいうんでしょ?村瀬の口が動く。
「先輩ですけ…」
しまった、と思った時にはもう遅かった。
気づかないふりをし続けるつもりだったのに。
そしたら村瀬は大事な後輩のままだったのに。
「………外でよっか。」
「はい。」
もう3月だと言うのにひどく寒い。
千鳥足の後輩を先に行かせながら、見ているとひどく不安定で心配になる。
夜風にあたったらちょっと正気になりました、なんて村瀬が言うから。
「…知ってたよ。」
決定打が欲しいと思いながら、呟いた。
「別れた時からずっと、でしょ。」
「…知ってたんですか。」
「うん。知らんふりしてたからね。こうしてんのが心地よくてさ。答え欲しい?」
「どうでしょう?」
「…とぼけないでよねー?」
「欲しくないって言ったら…嘘になりますよねー。」
欲しいなら教えてよ。
私が欲しいなら欲しい、っていいなよ。
どうせ、言わないんだろうけど。
君は大人しく後輩のまま、いてくれるんでしょう?
「で、知りた…」
いつものごとく手を振り回しながら振り向いたその時だった。
真剣な目をした、彼と目が合った。
「先輩、好きです。」
「知ってる」
「好きだって言えるだけで充分です。」
「…なんでそういうこというかなぁ」
「先輩が俺のことなんか好きじゃなくたって多分ずっと桜先輩のこと好きです。」
「…それはさ」
「正直恋愛は得意じゃありません。でも…」
「でも?」
「俺は先輩のことが、好きです。」
「酔ってる?」
「酔ってません。」
「ならいいや。」
酔ってないならいいの。
しょうがないから及第点をあげる。
そのかわりといってはなんだけど…
『付き合って』とは言われてないから、付き合っては無いよね?
なんて意地悪を心の中で呟いたことを多分村瀬は、知らない。
桜の悪戯