憎まれっ子世に憚る

   1

 中学生のDは同級生にいじめられていた。
 いつも生傷が絶えない生活で、特にいじめてくるGのことを恨んでいた。Gさえいなければ、いつか殺してやる、と決意していた。
 そんなある日の帰り道だった。Gとその手下にさんざん殴られおもちゃにされたDは夕暮の道をとぼとぼと歩いていた。
 家の近くの空き地まで差し掛かったときだった。
 突然、空き地の空間が歪み、見たことのない生物が現れた。Dは腰を抜かした。出てきたのは、肌が緑色で手が4つあること以外は人間に近い姿かたちをした生物だった。
 Dに気づくと、その生物は持っている小さな機械をあれこれいじくり始めた。
 Dは必死に逃げようとしたが体をうまく動かせなかった。
 やがて、機械から流暢な日本語が流れてきた。
 「やぁ地球人のDくん、わたしはN星から来た―&%($$b@+`{だ」
 名前のところは聞き取れなかったが、どうやら宇宙人のようだ。機械がN星人の言葉から日本語に翻訳してくれているらしい。
 「地球に寄るつもりはなかったが、いいところだな」
 なれなれしい性格の宇宙人のようだ。敵意は無いらしい。
 「うん?君はどうやら殺したい人がいるようじゃないか」
 「心が読めるんですか?」Dは驚いた。
 「地球人の構造は簡単な部類のようだからね」とN星人は言った。
 「いじめられているんです」
 「いじめというのがN星でどういったことを指すのかわからないが、困ってるなら助けてあげよう」
 緑色の手から差し出されたのは小さなカプセルだった。
 「これはどんな生物も死に至らしめる毒薬だ、前の星でもらったあまりものでね。これをそいつに飲ませるといい」
 「え、ありがとうございます」
 「ただし、毒薬をどのタイミングで入れたかわからないようにするために即効性はない。ある期間まで薬のおかげで健康状態を必ず保てるようだが、その期間が終わるとじわりじわりと衰弱し最後は死ぬようだ」
 「わかりました」Dは薬を受け取った。
 「久々の訪問だし、地球人とのコミュニケーションをもっと楽しみたいところだけど急用があってね、N星に戻るついでにまた立ち寄ることにしよう」
 そう言って、空間を歪めたかと思うと宇宙人は消えていった。
 残ったのは緑色のカプセルだけだった。

 翌日。
 Gの水筒にカプセルをこっそり入れることに成功した。Gがその水筒を飲み干すところまで確認した。
 Dはいつ効果が出るのか楽しみで毎日眠れなかった。

 再び、N星人―&%($$b@+`{が地球に戻ってきた。
 「やっと用が片付いた、地球を楽しむぞ」
 Dは元気かな、ときょろきょろあたりを見渡した。
 しかし、意気込んで地球に降り立ったものの、地球人は誰も見当たらなかった。機械で検索しても出てこない。
 「おかしいな」と首をひねっていると、やっと1人の地球人が見つかった。
 「おーい、地球人やい」
 N星人は物陰にうずくまっている人間に近づいた。
 「地球人がいないみたいだけど、なにかあったのか?」
 「何だお前は……俺は幻覚を見てるのか」
 目の前の人間は錯乱しているようで、どうやら意思疎通が難しそうだった。
 彼は目をつむった。
 「せっかく大手企業に入って美人な奥さんと娘を貰えたのに、戦争でみんな死んでしまった」
 「戦争か。お前以外に生き残りはいないのか?」
 人間は黙って首を横にふった。
 このN星人はまだ知らない。
 首を横にふるということが地球では否定の意味であることを。核戦争から地球の時間で言うと1924年経っていることを。地球人の寿命はN星人に比べて極めて短いことを。
 そして、目の前の男がGで、飲んだ毒薬の効果で放射線に対してもまだ健康状態を保っており、生物を衰弱させ始める期間まであと23502年かかることを。
 死のうと思っても死ねない、という感情があることを。

2.5

Dは毒薬をGに盛ったはずだったが、ますますGは元気になる一方でそのうちDはN星人との邂逅は夢だと思うようになった。
いじめられ続け、引きこもるようになり、ついには自殺してしまいましたとさ。めでたしめでたし。

憎まれっ子世に憚る

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憎まれっ子世に憚る

わんわんにゃー

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-04-28

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