僕と私の記号学
さて、ここまで長く話してきた。
たくさんの彼たちの話はしてきたし、そろそろ僕の話をしようか。
まずは僕の自己紹介を、とは思うものの、まずは褒め言葉が出てこない。
自己欺瞞に溢れた、嘘つきとでも言っておこうか。
大した能力もないくせに、すごい人に見られたくてしょうがない人だと思ってくれていい。
僕の小説にも溢れているだろうけれど。
たくさんの彼の話をしながら、彼たちの恋する彼女の姿をひたすらぼかしてきた。
なぜなら何にもないところからお話を作ることは出来ない。
…だってあれ僕の体験談だもの。
彼たちの言葉を張り合わせ、作り込み、物語のように見せかける。その作業を繰り返しながら、僕は彼らに愛されていた、甘い記憶をなぞるのが大好きだった。
彼女が何を考えているのか分からない小説だねと言われるたびに、当たり前じゃない、自分のことなど分からないもの、と思った。
察しのいい人は気づいたかもしれない。
僕は、私だ。
ただ、女性視点で素直に書くのは得意ではない。今後も僕で書かしてもらいたい。
たくさんの彼たちの話をする度に自分のしてきた嫌なこと、ひどいことが浮かび上がって少しの気持ち悪さはあった。
せめてもの贖罪といったら答えになるだろうか?飲みくだしきれない思いも切なさも外に吐き出したら楽になれるかな、と思ったのだ。
柚であること、私という記号を捨てること。
出来れば貴方の物語は書きたくはないな。
思い出にするには好きすぎるから。
僕と私の記号学