アイデンティティ
自分の存在って脆くて儚いですよね。
〇昼講義室 ホワイトボードに精神鑑定学の文字。
先生「授業の最後にテストを返します。」
先生「千種葵」
千種「はい。」
先生「手嶋亮」
手嶋「はい。」
先生「豊田陸」
豊田「・・・・」
豊田あたりを見わたし、菜月がいないのを確認する。
先生「豊田さん、・・・豊田さん居ないの?」
豊島「あ、はい。」
葵「ぼーっとしてたの?」
葵後ろを振り向き豊田にたずねる。にやにやしている
豊田、先生に立ったまま訊ねる。
豊田「や、先生菜月のこと忘れてないですか?」
先生「…なつきさん?」
豊田「はい。」
先生 口元アップ
先生「そんな子はいないけど。」
豊田首を捻りながら席につく。
豊田「菜月ってテスト受けてなかったっけ?」
葵「え?菜月って?」
豊田「菜月だよ。」
葵「菜月?」
豊田「ぼけてんの?」
葵「いや、何いってるの?」
豊田「は?」
葵「誰のこと?」
豊田「俺の彼女。」
葵「彼女いたっけ。」
豊田「いるけど。」
葵「…そう。まぁいいや。で、菜月ちゃんか。どこの誰?」
豊田「…菜月知らない?藤堂菜月。」
葵「…ごめん知らない、それ、誰?」
豊田固まる
豊田「…え」
葵「学科違いだよね、文学部ではないよね?」
豊田「…」
豊田黙りこむ。
豊田「葵」
葵「ん?何?」
豊田「…ふざけてるわけではないよな。」
葵「……は?」
豊田黙りこむ
葵、ノートに目を向ける。
◯教室 先生のみ クリップボードに貼り付けられた出席簿をみながら
先生「今度は誰が気づきますかねー。」
先生「彼、あたりですかね。」
(しばらく日付がたった描写)
豊田「うそだろ?」
豊田「菜月とのラインも残ってて、なんで誰も覚えてないんだ?」
豊田、携帯を手元に寄せラインを起動する。
豊田「あれ?」
携帯にunknownの表示
豊田「うそだろ?なんだよこれ?」
〇後日 (一ヶ月)
豊田「菜月見てない?」
友人1「藤堂菜月?知らないなぁ…」
友人2「豊田さ、葵のことふったんだって?架空の彼女のせいで」
豊田「え」
友人2「葵も調べてたけど菜月なんて子、うちの大学には居ないみたいよ?」
豊田「………。」
豊田去る。
友人1「今のほんとなの?」
友人2「まじで。葵が可哀想だよね。ふるならもっとまともな理由でふってあげればいいのに。」
友人1「相当イタイよね、架空とか。」
豊田頭をかきむしる。
〇一ヶ月後 昼教室
豊田何かをぶつぶつ言っている
葵「冗談やめなよ。別につきまとったりしないからさ。」
豊田「菜月は居たんだよ、冗談じゃねぇの。」
葵、豊田に近づこうとして机を蹴飛ばされ当たる
葵「ふざけないで!菜月だか何だか知らないけどさ、見つかんない時点で豊田の妄想だよ!気持ち悪い!」
豊田「妄想じゃない!」
葵「じゃあ電話でもラインでもメールでもなんでもしたらいいじゃない。」
豊田「連絡先が消えたんだよ、意味が分からないんだ!」
葵、豊田を睨み付ける
豊田、葵を見ず項垂れる
葵「・・何にもないんでしょ?」
豊田「ない」
葵「何にもないってことは元々何もなかったのと何か違う?」
豊田「…」
葵「なにも無ければ、その人は居ないのと同じだよね」
豊田「でも…居るんだよ」
葵「どこに」
豊田「僕自身の頭のなかには。」
葵「頭おかしいんじゃない?」
葵出ていく。
講義室のドアがばたん、と閉じる。
○昼 講義室携帯をいじる菜月、豊田
菜月「「ものがそれ自身に対して同じであって、一個のものとして存在すること」か。」
豊田「何が?」
菜月「新曲のタイトルの意味。」
豊田「アイデンティティ?」
菜月「そそ。アイデンティティが無いって歌い出しから不吉だなーって」
豊田「要は存在がないってことになるな」
菜月「それってその人は」
菜月口パクまたはサイレント
「死んだことになるのかな?」
〇夜講義室
豊島「寝てた?俺」
豊島「やば、こんな時間かよ」
豊島「レポートやんなきゃ、pc空いてるかな?」
◯講義室
菜月「先生、由香を知りませんか?」
先生「…何さん?」
菜月「都築由香さんです。文学部の…」
先生「知りませんね、どうしたんですか?」
菜月「行方不明なんです。家にもずっと帰ってないみたいで…」
先生「それは心配です」
菜月「どうしていなくなったのか知りませんか?」
先生「どうしてわたしが知っていると思ったんですか?」
菜月「先生は精神のプロですから。何かを知っているかと思って。」
〇昼講義室
手嶋「最近お前静かになったよな」
豊島「なにが?」
手嶋「いや、なんだっけ…あーでてこねぇ!」
豊島「気持ち悪。」
手嶋「いやいやいや、そこそこお前ずっといってたから」
豊島「ボケた?」
手嶋「ボケてねーよ。」
豊島「なんかいってたっけ」
手嶋「思い出したら言うわ」
豊島「ふーん。」
手嶋「で、なにみてんの?」
豊島「まとめサイト。
手嶋「どんな話?」
豊島「何か異界に電話かけた的な。」
手嶋「何したらかかんの?」
豊島「夜8時に08072721995に電話かけたらいいらしい。」
手嶋「かかるかな?」
豊島「かかんないだろ。」
手嶋「かけてみろよ。」
豊島「じゃあ今日やってみるわ」
○講義室豊島・葵夜8時5分前
葵「とーよだ。」
豊島「葵?」
葵「・・・この間はごめん。」
豊島「いや、俺も、うん」
葵「豊島ラインくれないんだもん。」
豊島「気まずくてさ。」
葵「そもそもなんでケンカしてたんだっけ」
豊島「なんでだっけ。」
葵「まぁいいや。何してんの?」
豊島「いや、都市伝説ためそうと思って。」
葵「どんな?」
豊島「夜8時に異界に電話がかかる的な。」
葵「なるほど?どこにかかるのかなぁ」
豊島「そもそもかからないかもだし。」
葵「かかると楽しいよね。」
豊島「おー。」
葵「30秒前?」
豊島「ん。」
豊島、耳に電話をあてる。
葵「かかった!?」
豊島「しー。」
○菜月 306 真っ暗 耳に受話器を当てながら
豊島「もしもし?」
菜月「・・・・りく?」
豊島「・・・・・菜月?」
葵「なつき?」
菜月「陸、私が分かる?」
豊島「あたりまえだろ」
菜月「・・・・・・」
豊島「待ってろ菜月、いまどこだよ」
菜月「・・・・306。」
葵「豊島?」
豊島部屋から走り出る(効果音のみ)
携帯おきっぱ(unknownの表示)
葵「・・・・・菜月って誰よ。」
菜月「私だと思うよ。もう分からないけど。」
○夜306 菜月豊島
菜月(鼻歌 アイデンティティ)
豊島、走り入る
菜月、窓枠に座って包丁をふらふらしている。
菜月「・・・来たんだ。」
豊島「・・・・・。」
菜月「ずっと忘れてたのにね。」
豊島「探してたんだ」
菜月「見つからなかったでしょ」
豊島「どこ行ってたんだよ」
菜月「ずっといたよ」
豊島「学校出てこいよ」
菜月「私の存在は誰にも思い出してもらえないみたい」
豊島「何いってんの?」
菜月「アイデンティティがないんだよ」
豊島「訳がわからないよ!!」
菜月「豊島にとって私は私かなぁ?」
豊島「きまってんだろ!」
菜月「さよなら。」
菜月少し笑って自分の喉に包丁を向ける。
◯講義室
先生「アイデンティティがなくなる、なんとも不思議な話ですね。」
先生「こんな簡単なものなんですね。」
〇昼講義室
先生「千種葵」
千種「はい。」
先生「手嶋亮」
手嶋「はい。」
先生「藤堂玲奈」
葵「・・・・」
葵あたりを見わたし、豊島がいないのを確認する。
葵「豊島は?一緒じゃなかったの?」
手嶋「え、何それ。葵さん怖い。」
葵「怖くない。それより豊島この授業の履修やめたのかな。」
手嶋「誰それ」
葵「・・・・豊島知らない?豊島陸。」
暗転
アイデンティティ