嘘つきな青空

嘘つきな青空

嘘つきな青空

青空は綺麗だ。悲しいときには雨を降らせ、嬉しいときには太陽がでる。そして怒っているときは雷を落とし、不機嫌なときは曇りにする。とても感情豊かで、君のようだね。
君は、まるで青空のように感情豊かだった。だからかな、そんな君に恋をしたんだ…。今でも覚えている、君と出会った高校2年の夏休み前のこと…。


その時、僕にはすでに彼女がいた。端から見たらお似合いのカップルだったかも知れないが、相手が一方的にベタベタしていただけで、僕はうんざりしていたんだ。でも、君は突然僕たちの前に現れて来た。傷だらけの格好だったから、とても驚いたよ。いきなり女の子が現れるんだもん。
君は不良に追われてたみたいだね。彼等が来た途端、怖がって彼女は逃げ出していったな。あの時は本当に助かった。
「ありがとう」
君にお礼を言ったんだけど、覚えてるかな?急にお礼を言われて君は驚いた顔をしていたよ。そして、
「ふっ、変な人ね」
君は笑いだした。太陽のような眩しい笑顔で…。
それから君が同じ高校だと知って、一緒に高校に通い始めた。徐々に僕は君の心の強さと、感情豊かな所に惹かれだし、彼女と別れたんだ。相当怒ったみたいだね。あの時の僕には気付くことが出来なかったけど、あとから君がイジメにあっていた事を知った。無償に苛立たしくなったよ、自分の不甲斐なさに…。
彼女はとうとう不良達に君を傷つけるよう依頼をし、僕は急いで君の元に行ったんだけど、僕の出る幕は無かったみたいだ。君は相当ケンカが強いんだね。不良達はすでにコテンパンにやられていて、ちょっと悔しかったな、君にカッコ良いところ見せたかったのに…。

〜♧〜
「ねぇ、あなたは大切な人はいる?」
君はお昼休みに突然質問してきた。僕にとって大切な人は君になっていたけど、まだこの気持ちを知られたくなかったから、
「うん?…いないけど?」
君に嘘をついてしまった。なぜそんな事を聞くの?君には大切な人はいるの?沢山君に聞きたい事があるよ。でも…。
「…そっか。私はね、大切な人いるよ」
「っ、それはどのくらい大切なの?」
君の顔つきが変わり、空も曇りだした。
「それはね、私の命の恩人。私を救ってくれた人。その人ね、今病気なの」
「それは君のせい?」
「ううん、違うよ。私と知り合う前から少し体調悪かったみたいなんだけど、最近悪化したの。」
「え?それは、お気の毒に…。でも、なんでこんな話を僕にするの?」
「んー…それは、あなたがとても優しい人だから。それにね、私………いや、何でもない。私、あなたと友達になりたいの」
「え、友達?」
「えぇ、あなたと友達になりたいわ」
友達か…、君と仲良くなれるなら友達からでも良いかな。
「うん。全然いいよ。僕も君と仲良くなりたかったし、これからよろしくね。えっと…」
「花澤 希凛よ」
「僕は高田 奏。そいえば自己紹介してなかったよね」
「ふふ、そうね。最近ずっと一緒にいたのに」

ポツン、ポツン。雨が降り出した。
「「あ、雨だ」」
「雨降ってきたね。濡れちゃうから、中に入ろ」
「私はいい。もう少しここにいたい」
「でも風邪ひくよ?」
「……」
「君が中に入らないなら僕もここにいるよ」
「それはダメ!あなたが風邪を引いてしまう!」
「じゃあ、一緒に中に入ろ?そしたら僕は風邪引かなくてすむし、君も僕の心配をせずにすむ。いい提案じゃないか?」
「!、あなた…たまに強引になるね」
「君に風邪を引いて欲しくないだけだよ…」

それから、僕たちは、共に色んなイベントを楽しんだ。体育祭や文化祭。バレンタインとか、休みの日に遊んだり…。思い出を重ねていく度に、僕たちの気持ちも重なっていく気がした。僕の思い上がりかな?でも、僕が君の顔を覗き込むと君の顔は赤くなっていくし、前は照れない場面で照れるようになった。信じても良いよね?君も僕が好きだって…。

けど、いつしか君は僕と会わない様になった。まぁ、僕たちは付き合ってたわけでもないし、僕に君を縛る権利はないけど…。それから2週間、君と会うことはなかった。
君をとても心配したし、会いにも行きたかった。でも僕は改めて知ったよ。君の事、何にも知らないんだなって…。住所も、携帯番号も知らないから、様子を見に行くことも出来ないし、電話をかけて大丈夫かどうかを聞くことも出来ない。距離は縮んだのに、別のところで壁があった。そんな時だ。君が久しぶりに学校へ来た。
「おはよう、高田くん」
「あ、おはよう。どうしたの?長い間学校休んで。すごく心配したよ」
「ごめんなさい。はは、ちょっと色々あって…」
「…いろいろ?」
「うん、それでね…話しを聞いて欲しいんだ」
僕は、ひょっとして告白かなって思ったけど、そんな雰囲気はしなかったし、違うと悟った。そして確実に分かったのは、君が真面目な話を始めるという事だ。

僕は屋上に呼び出された。雲ひとつない、綺麗な青空が広がっていた…。
「最初にね、謝るわ。いきなり学校を休んでしまってごめんなさい。心配したよね?」
「うん、すごく心配したよ。でも今日、君に会えたから別にいいよ。君が無事なのが確認できたしね」
「ふふ、ありがとう。……ふぅ〜、これから、大事な話をするね」
「…うん」
「この前、大切な人がいるって言ったでしょ?実はね、その人の病気は心臓病なの。そしてその病気は移植手術をすれば治る病気…」
「え?…ゴメン、ちょっと理解できない…」
「うん、そうだよね。あのね、その人は私の命の恩人で、私はその人のためなら、何でもするって決めてるの」
「だからって、自分の心臓を上げようだなんて!!」
「…そうだね。でもその人がいなければ、私はあなたに出逢うこともなかったし、あなたと幸せな時間を過ごす事も出来なかった。だから、とても感謝しているの」
「じゃあ、その人に心臓を上げるのは…ぼくのせい?」
「それは違うわ!心臓移植の事はあなたと出会う前からずっと決まってたことなの!だから、あなたのせいじゃない!お願い…わかって」
「わからないよ…例えその人が君の命の恩人だったとしても、その人のせいで、僕は君と会えなくなるの?だって僕は…、僕は君が好きなんだ!」
「っ、そ、そう。ありがとう、とても嬉しい。でもその気持ちは受け取れない…。ごめんなさい」
「…………そっか、理由を聞いてもいい?」
「理由なんてないわ。ただ、私は死ぬ人間だから、あなたの気持ちは受け取れないの」
「そんな事を聞きたいんじゃないよ。君の気持ちを聞きたいんだ」
「私の……気持ち?私は…あなたを、大切な友達だと思ってる。だから、その気持ちは受け取れない」
「揺るがないんだね…。でも、フラれてしまっても、君と会えなくなるのは嫌だ。君がいなくなったら、一生会えなくなってしまう…。君はそれでもいいの?」
「…、えぇ、これでいいの。だから、あなたと会えるのは今日で最後」
「え?最後?どういうこと?」
「手術はね、明日なの」
「明日!?うそ、だろ」
「本当だよ。今日は、手続きをしにきたの、学校を辞めるために…」
「そんな急な!」
「本当に、ごめんなさい。でも、さようなら…」

その日から、僕は一度も彼女と出逢うことはなかった……



高校3年の夏休み。君が姿を消してから1年…
時間があれば、君を探す日々。実はね、僕は気づいていたんだ。あの時の君の気持ちが、真実じゃないって…。でも、君があまりにも哀しそうで、辛そうな表情をしていたから、受けとめてしまった。そのことを、ずっと後悔している。青空を見るとね、君とのおもいでを思い出すんだ。そして…泣きたくなる。どんなに、沢山の女の子と付き合ってきても、こんな気持ちにさせてくれる子はいなかったから、君がどんなに、僕にとって大切だったか思い知らされるよ。
だからね、僕は決めたんだ…。

晴れの日は、君が寂しくないように明るく過ごす。
雨の日は、君が落ちつくように静かにに過ごす。
曇りの日は、君の機嫌を悪くしないように、君の大好きなマカロンを2個買って食べる。
雷の日は、君と一緒に怒って、ちょっと愚痴を言う日にする。

でも、やっぱり君がいないと寂しいね…。

トゥルルルル、トゥルルルル。

あ、電話だ。?知らない番号から?
「はい、高田ですが…」
「あ、初めまして。杉野真斗と申します。高田 奏くんですか?」
「?…はい、そうですが。何か?」
「私は、花澤希凛の知り合いです。急なことで申し訳ないが、実は彼女から君宛てに、手紙を預かっているんだ。それを君に渡したい」
「!!。彼女から!?今すぐ向かいます!どこですか?!」
「ふふ、そんなに急がなくても大丈夫だ。私は逃げたりしないよ。あおね公園は知ってる?そこにいるよ」
「あおね公園ですね?分かりました!絶対、どこにも行くなよ?!」

〜♧〜
あおね公園についた。すると、1人の男性が時計台の前に立っていた。大学生ぐらいだろうか。とても大人っぽい。
「あの、あなたが杉野さんですか?」
「……君が、高田奏くんだね。初めまして、僕が杉野真斗だ」
「よく、そんな穏やかそうな笑顔できますね。お前のせいで、希凛が死んだんだぞ!なんで、病気なんかになるんだよ!なんで彼女を助けた?!お前さえ、命の恩人なんかにならなければ、彼女はまだ、生きていたのに……。全部、お前のせいだからな!!」
「あぁ、全部私のせいにして構わないよ。病気になって彼女を死なせてしまったことは、とても後悔している。できるなら、あの頃に戻って、病気にならないよう、生活し直したいよ。けど、あの子を助けたことは後悔していない。寧ろ良かったと思っているよ」
「っ、けど、実際に彼女は、お前が命の恩人だから自分の心臓を捧げたんだぞ?!」
「たしかに、それは真実だ。けど、君は彼女の過去を何も知らないよね?」
「希凛の……過去?」
「うん。まぁ、私の口からは何も言えないけど、きっと彼女からの手紙に書いてあるよ。…はい、これが手紙」
「……………。これが、希凛からの手紙」
「さぁ、これで彼女からの頼まれごと終わった。私は帰るよ」
「、はい。わかりました。あの、手紙…ありがとうございます。ずっと、彼女の本当の気持ちが知りたかったんです。それに…彼女の過去も」
「そう…。書いてあるといいな?」
「ふっ、そうですね。本当の気持ち…何が書いてあっても、僕は受けとめないと…」
「…怖いか?」
「…もちろんですよ」
「……まぁ、誰だって怖いよな。…じゃあ、また。もう会うことはないと思うけど」
「はい。さよなら」
「………髙田 奏!」
「…え?」
「…私は、彼女は、十分おまえのこと、好きだったとおもうぞ?」
「!はは、ありがとうございます。そうであることを望みますよ」

杉野さんは帰っていった。そのとき、彼が何かボソッと言っているのが聞こえた。
「希凛、君との約束は守ったよ」
彼は上を見上げ、呟いた。
「………今日の夕日は、すごく綺麗だ…」


杉野さんはもう帰った。この公園にいるのは、僕1人だけ…。君からの手紙を読むには丁度いい。
ゆっくり、ゆっくりと手紙を開ける…。

『髙田 奏へ

この手紙を読んでいるということは、真斗さんは元気になったのね。とても嬉しいです。
まず初めに、ごめんなさい。大切な友達をこんな形で置いていくことになってしまって、とても悔やんでいます。
いきなりだけど、私の過去の話をしてもいいかな?私ね、手に負えないほどの、すごい不良だったの。いろんな事があって、命も落としかけた。そのときに助けてくれたのが、真斗さんなんだ。
だから、彼に会っても責めないであげて。私が彼に心臓をあげたのは、私の決断だから。
本当は、もっと髙田くんと思い出を作りたかったな。名前も、”髙田くん”じゃなくて”奏くん”って呼べないのが残念…。でもね、手術を受けているとき、髙田くんとのおもいでを思い出してたよ。だから全然怖くなかった。髙田くんのおかげだね。
あとね、前に心臓移植の事は、髙田くんと出逢う前から決まってたって言ったでしょ?あれは本当のことだよ。私は、自分が死ぬこと知ってたから、最初は髙田くんと仲良くなって良いのか、すごく迷った。でも、髙田くんはとても良い人で、優しくて、一緒にいてとても楽しかった。だからかな、たとえ死ぬことが分かっていても、髙田くんと仲良くなってしまった。
さっきは、大切な友達って書いたけど、本当はそんなこと思ってないんだ…。覚えてる?髙田くんが、私に告白した日のこと。あのとき、本当に嬉しかった。でも、あなたに辛い思いをさせたくなくて、嘘をついた。私は、髙田くんに出逢えてとても幸せでした。もしかしたら、真斗さんが私を助けてくれたのって、髙田くんに出逢うためかも。
最後に、言わせてください。これは手紙だから言えることだけど、私も髙田くんのことが好きです。あのとき、言えなくてごめんね。私に、幸せな時間と、思い出をくれてありがとう。もう、あなたに会うことは出来ないけど…。本当にありがとう。次は、元気で、もっと女の子らしい子と恋をしてね。…さようなら。

花澤 希凛より』

ポロポロと、髙田 奏の瞳から涙が流れる…。
「希凛が、僕のこと……好きだった?…っ、く、うっ、良かった、…でもさぁ、もう、君以外は考えられないよ。っ、君が素敵すぎて、きっと、っ、君としか、恋できない…。っ、今更こんなこと書くなんてっ、直接、君から聞きたかったなぁ、あのときに、言って欲しかったっ、はは、君は、とんだ嘘つきだね、っ」

夕日が照らす公園で、彼は泣き崩れた。そして、思いっきり声を出して泣いた。今までの、不安や押し殺してきた気持ちを、さらけ出すかのように…。ずっと、泣き続けた。悲しい気持ちと、悔しい気持ちと、嬉しい気持ちが全部まざって、分からなくなるぐらい。
きっと、彼はずっと彼女を思い続けるだろう。初恋を、守り続けるだろう…。でも、彼はそれで構わない。青空を見上げれば、いつでも花澤 希凛に出逢えるから……。



青空はとても感情豊かだ。嬉しいときは、太陽が出て、悲しいときには、雨が降る。機嫌が悪いときは、曇りになって、怒ってるときは、雷が落ちる。でも、青空は時々嘘つきだ。優しい嘘もあれば、良くない嘘もあるんだよ?

優しい嘘のときは、空を見上げると夕方になってる。良くない嘘のときは、気がつけば真っ暗な夜になっている。希凛が嘘をつくときは、いつも夕方だったね。




ねぇ、君が嘘をつくときは、どんな空がみえる…?




おわり

嘘つきな青空

嘘つきな青空

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-04-16

Copyrighted
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