冬の勇魚 プロローグ
「アーバンとローリエ」
いまだ溶けきらない平原の雪に二人分の足跡が続いていた。灰色の空は凍てつき、そこに住まうほとんどの生き物がじっと息をひそめる中
二人の人間だけが湯気を吐きながら歩いていた。
「アーバン様、一体いつになったら例の町に着くのかわかりますか?」
厚手の上着の塊から女性の声がする。隣のアーバンと呼ばれた上着の塊は空と地平線を見て、
「あと一時間だ。」
と、一時間前と同じ言葉を白い息と一緒に吐き出した。隣の女性はため息を吐いた。雪も凍てつく冷たい視線にアーバンは冷や汗をかいた。
「い、いや、ほんとにあと一時間だよ。ほら、あの丘を越えたらみえるよ、ははは」
「その丘はもう三つはこえてますよ。」
「そうだっけ、ローリエの勘違いじゃないのか?」
はぁ、とローリエはまたため息をついた。
地平線から顔を出したの光は丘の霧を晴らし切り取ったような黒の城壁を照らした。アーバンは笑った、ローリエはまた、ため息を吐いた。
冬の勇魚 プロローグ