ラディゲ

ラディゲ

レイモン・ラディゲ 作

ラディゲ変容!かのイタリアの詩に見劣りしない。

燃える頬

アメリー

あだつぽい波よ、おお、おそらくおまえ達の群がりは
老いぼれ(どり)の囀りを消し去る。
鳥奴らは、僕らが一つの心を失つたことを嘲笑(わら)う、
大洋がその胸に抱こうとした真情(まごころ)を。


こうした(やから)理解(わか)らせようとするのは!
いとしき者よ、おまえ達はその耳に、悲しくも囁きつづける。
親しいルネよ、僕らは知つた、それは神聖な気違い沙汰だと、
アメリーゆえのこの長い船旅は。

燃える頬(初版本)

コート・ダジュール


オペラ以外のところでは樹々はみどり、

未来のことを、
いま此処で
奥さまは予言なさる、
お祭りの日々を
除いては、棧橋を渡るとき。


おつきの少女たちは、
言うまでもなく、
ただ従いてゆくだけ。


何があなたを悲しませるのか?
それは僕の落ち度なのか
あの漕手どもが
手加減しないからといつて。


コップの中で
オレンジエードが生暖かくなる。


八月の夕べなら、
いつでもよい。

行動の雫


後悔する! それは理髪師のもとで見受けられた風景。僕らはもはや、娘たちのようには調髪しなかつた。町通りの硝子窓に玉虫色に映える光、(きき)めのある泉が、僕を十二歳に若返らせた。大時計は蜜蜂の巣ではない、時を告げる音がブンブン鳴つているとはいえ。ほんとうの蜂は、僕らから無駄話の蜜を盗む。マドレイヌと僕、僕らはお互いに所有代名詞である。新しくきた女家庭教師が奇妙な髪の結い方をしていたので。彼女の耳のどちらも電話受話器によつて隠されている、それで彼女は、僕らの嗚咽(おえつ)が聞えない。ばらのように新鮮ないたずらつ子は体裁をつくろうとする、マドレイヌ街の花売り市を通るとき。

貸し部屋


零下では
顔が硬ばつてしまう、
おまえがなおも言えなくて結構さ
「さよなら」と。
よい季節はほかのところにある、だが人は慣れてしまう。
そして僕らが悪い遊び(いたずら)をするようになつてから、
テーブルはつぎ足しをしなければならなかつた。
毎日の埃りの下にいろいろな名前がある、
もう一つのもつと可愛らしい名前が
白粉(しろい)の下に隠されて。―
この頃はもつとも短い日々だ、
しかしいつも変らず僕の好きなのは、
それは「今日」だ。

休暇中の宿題

休暇中の宿題

Bateau†1


逆さに立つた舟、乱暴な船、
声一つ立てずに踊り子は、
消し手たちさえ呼ばずに、
爪先で立つたまま死んでしまつた。

Cocarde†2


飾りリボンに花咲かせるには
七月の釦穴に
バラ、僕らの乳兄弟よ、
おまえはそれらを視つめていればいい。

Domino†3


ドミノ、家族的な遊び、
田舎の夕べを賑わす。
祖父(じい)さんの金言を守ろう、
「子供を欺す奴は徒刑場ゆき」。

Initiales†4


砂の上に(から)み合された
頭文字よ、あたかも僕ら二人のように。
僕らの愛は消え去るだろう
これらのはかない記号(しるし)よりも先に。

Ke'pi†5


戦争は帽子屋
フランス人に軍帽をかぶらせる
大砲がしずまると
平和が帽子に月桂樹を縫いとりする

Mouchoir†6


提督よ、威厳を失墜すると思い給うな
あなたの振つたとき。
それは斯うするのが習慣だからで
過去の汚点を追い払う。

Tirelire†7


子供よ、やがておまえは読めるようになる、
おまえは贈りもので一杯になるだろう。
そうすると重たい貯金箱は
ずつと軽いお荷物になる

Vitre†8


いやな季節がやつてきた。
寒さは、人を殺し、
その囚屋(ひとや)の窓硝子に
デッサンを描いて愉しむ。

ラディゲ

生のすばらしさ、ぜひ、死を後に思ってほしい…ほしいものだ。

ラディゲ

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  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-04-05

CC BY-NC-ND
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  1. 燃える頬
  2. 燃える頬(初版本)
  3. 休暇中の宿題