俺が出会ってしまったのは……
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「なんで俺の事、いい人だと思った訳?」
何もしていない。
ただ、捨てられた猫を見ていただけ。
多分、ほんの気まぐれで、特に可哀想とか思った訳じゃないし、猫の鳴き声が聞こえたら、見るヤツは俺じゃなくても沢山居るはずなんだ。
なのに、たったそれだけの行動で、いい人呼ばわりされて、有難いってより、この人大丈夫か?って心配になる。
だから理由を尋ねたのに、
「猫好きな人に悪い人は居ないから」
って、満面の笑みで返された。
あぁ、やっぱりダメな感じの人だ、この人。
単純過ぎる。
素直とも言えるのかも知れないけど、見た感じもう大人なのに。
こんな単純で大丈夫なのか、この人?
「へぇ、おねーさんってそう言う人なんだ?微塵も他人を疑わないタイプ。話には聞いた事あるけど、本当に居るとはね」
呆れ半分で、嫌味全開に返す俺に、
「えっ!?」
そんな俺の返答が予想外のだったのか、驚いて目を見開く彼女。
人を信じる事が悪い事だとは言わない。
言わないけど、こうもバカみたいに真っ直ぐに信じられたんじゃ気が気じゃない。
現にこの人は自分が悪い男に引っかかってる事だって、全く気づいちゃいないんだから。
「おねーさんさ、よく人に騙されるでしょう?」
「そんな事は……ないと思うけど」
尻すぼみな言葉が何よりの証拠。
騙された事があるかも?と、疑う気持ちはあるらしい。
「ない訳ないって。だって、おねーさんの彼氏って、飯塚光輝だろ?」
飯塚光輝。
それは俺のバイト先の先輩。
カッコよくて頭が良くて、サーフィンも上手くて。
世の中ってマジ不公平!って、神様に文句の1つも言いたくなるくらい、なんでも出来るし、なんでも持ってる人。
性格だって、悪い訳じゃない。
そんな光輝の唯一の欠点が、女癖が悪い事。
自分から行くんじゃなく、女が勝手に寄ってきてるって本人は言ってるけど。
それを光輝は決して拒まないんだから、罪がないとは言い難い。
付き合うって言う事実がなきゃ抱けないとなれば、平気で「じゃあ、付き合おう」って言えちゃうくらいに、女にいい加減な人。
そんな光輝と一緒に居た所を見た事があったから。
てっきりどんな男か理解した上で楽しんでいるんだと思ってたのに。
今日話してみた様子からは、そんなタイプではない感じ。
多分気付かないまま、騙されている。
この人が騙されようが泣かされようが、他人の俺には何も関係はない。
そう、ないはずなのに。
うっかり言葉を交わしてしまったから。
単純に人を信じちゃう危ない人だと知ってしまったから。
だから俺は余計な事を言ってしまったのかも知れない。
「どっ、どうして知ってるの?」
「さぁ、どうしてでしょう?……つーか、本当に彼女なんだ?光輝の」
「知り合いなの?」
不思議そうな顔で俺を見る彼女に、
「やっぱ、おねーさん、騙されてるよ」
と、質問の答えとは違う余計な事を言ってしまった。
オイオイ、俺、なんか面倒な事に首突っ込んでねーか?
心の中で小さくため息をつく。
「そんな事は……」
「あるよ、絶対」
彼女の言葉を遮るようにそう言った俺は、猫が捨てられてる箱の前から立ち上がる。
「じゃあ、俺、もう行くから」
「えっ!?猫は?」
「はっ!?」
突然猫は?と問われても意味が分からない。
ただ鳴き声に反応して見てただけの俺に、この人は何を求めて居るのだろうか?
「貰ってくれないの?この子」
「見てただけだから」
そう、見てただけ。
だからいい人じゃない。
猫は嫌いじゃない。
いや、どっちかって言うと好きかも知れない。
けど、それだけ。
猫好きだって、いいヤツばかりじゃない。
現に俺はただ見てただけなんだから。
「でも、この子……」
それでも猫を諦められないのか、困ったように俺を見つめる。
「別に俺じゃなくても、誰か拾ってくれるヤツいるんじゃねーの?」
じゃあ、用があるから……と、まだ何か言いたげな彼女を残し、俺はその場を立ち去った。
それでもなんとなく気になって、少し離れて後ろを振り返ると、相変わらず困り顔のまま立ち尽くす彼女。
単純でバカみたいな女だけど、多分あの人は優しい人で。
悪いのは猫を捨てたヤツなのに、拾ってやれない自分を責めているのかも知れない。
反省すべきヤツは知らんぷりで、関係ない優しいヤツが心を痛める。
そう、世の中ってのは、結構理不尽なんだ。
そうして大して優しくもない俺までが、なんだか気分がスッキリしない。
「クソ、誰だよ、猫なんか捨てたヤツは!面倒くせーな」
小さく悪態をつきながら、歩き出す。
本来俺には全く関係のない出来事。
なのに立ち止まってしまったから。
しゃがみこんでしまったから。
単純バカなおねーさんに声を掛けられ、無関係ではなくなってしまった。
夏の暑い日。
駅前公園の噴水前。
俺が出会ってしまったのは、捨てられた猫と、単純バカなおねーさん。
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俺が出会ってしまったのは……
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