桜の咲く季節には。
長い片思いの話。
居酒屋ってこんなに居心地悪かったっけ…?
「もうやんなっちゃう!!何よ、他の男の子好きになっちゃったって。村瀬、どう思う?これ!!」
「またコメントし辛いようなこと言いますよね先輩は…」
飲みに行きたい、付き合って。とラインが入った。どうせまた愚痴だろうな、なんて思い了解です、行きましょう。なんてラインを返した。
その結果が目の前の地獄絵図である。
ほぼ酔い潰れた桜先輩。
しかも、酔い潰れきってないのでだるがらんでくる始末。
「村瀬はさぁ。好きな子いないのぉ?」
「先輩ですけ…」
しまった、と思った時にはもう遅かった。
とろんとした目が正気を取り戻して、まんまるになっている。
「………外でよっか。」
「はい。」
もう3月だと言うのにひどく寒い。
というか俺の心の中が寒い。
なんで言っちゃったかなぁ俺!!
しばらく少し先を歩いていた先輩が止まった。
なんだよ、何いうつもりだよ…
「…知ってたよ。」
黒い髪が靡く。
ショートカットも似合いますね、なんてさっき軽口をたたいた黒髪。
街頭に照らされて綺麗ですね、なんて言葉はあっさり封じられた。
「別れた時からずっと、でしょ。」
「…知ってたんですか。」
「うん。知らんふりしてたからね。こうしてんのが心地よくてさ。答え欲しい?」
高校のときより少し大人になった横顔が俺に問いかける。
「先輩、好きです。」
「知ってる」
「それで充分です。」
「…なんでそういうこというかなぁ」
「先輩が俺のことなんか好きじゃなくたって多分ずっと桜先輩のこと好きです。」
「酔ってる?」
「酔ってません。」
「ならいいや。」
悪戯っぽく笑う彼女を心底好きだ、と思った。
下宿の窓から桜が見える。
手元のスマホの通知は桜先輩からのもので。
桜 暇ー。かまってー。
了解です、と打とうと手をかけた。
今も先輩からの答えはない。
でも、今だって先輩が好きだ。それだけでいいと思おうと思う。
たとえ、先輩が俺のこと好きじゃなくても。
桜の咲く季節には。