コーヒー牛乳

果報は寝て待て

コーヒーは大の苦手だ。
お父さんが朝食の際に、新聞を一瞥しながらコーヒーを満足げに啜っているのが信じられないくらいに。

私がコーヒーが苦手だという理由はとても単純。
ーーー苦いから。ーーー
たったそれだけのことだが、それこそが私にとってはとても大きな問題なのだ。
大袈裟だけど「コーヒー」って付くだけで嫌いだと断言できる。所謂食わず嫌いというものなのかもしれないけれど。

そんなことを思いながら、食卓につき、お母さんが作ってくれた温かいお味噌汁とご飯、あと漬物を食べる。割と質素だけどいつもお母さんが作ってくれる料理はとても美味しいので文句はない。むしろ、作ってくれるだけでありがたいぐらい。でも、絶対に言ってやんない。恥ずかしいから。

早々と朝食を済ませ、私は学校に向かう。
「7時23分」、この電車に乗らないと。
家から駅までは歩いて15分程度。今は7時10分だから少し早歩きをすれば間に合うはず。

私がこの電車に乗る理由もこれまた単純。
私にとって興味深い人が乗る電車だから。これだけだととてもストーカーみたい。でもいいじゃん。誰も気づいてないんだし。

とはいえ、仲良くなるのはこれからが本番。だって私はまだ高1、それもまだ5月。青春ってまだまだこれからじゃない。果報は寝て待てって言うし、じっくりと作戦を立ててからでも遅くはないわ。ともあれ、どうすれば彼と仲良くなれるのかしら。私のクラスメイト、1-6組27番、藤宮由那くん。


ーー月日は遡り、桜の花が開き、花びらが地面というキャンパスにそれぞれが好きな様に色をつけるような4月のことーー

始業式も数日前に行い、明日から授業が始まるといった、そんな日。

「よし、クラスが決まって少し経ったからある程度みんなの顔や名前は覚えたと思うが、今更ながら1人1分ほどでいいから自己紹介をしてもらおうか。」
と、担任の桐崎先生が明るい面持ちで話した。
まぁ、妥当よね。と思いながらも、何を話せばいいのかな、声裏返ったりしないかしら、などと考えて少し不安になる。クラスメイトたちも少しばかり嫌なのだろうか、ため息をしたり、面倒くさそうな顔をしている人たちが伺える。

私の出席番号は15番だしまだ大丈夫ね。と思いながらも、自己アピールを考える。
「どうも。出席番号1番の有田(たける)です!中学の頃はこの坊主の見た目通り、野球部やってました!高校でもやるつもりです!野球部入ろうとしてるやつもしてないやつもみんな仲良くしてくれたら嬉しいっす!よろしくお願いします!」と、凄く元気発剌に自己紹介をトップバッターでやってのけた。こういう時って大体みんな少し声が小さくなるのに、さすが体育会系ね、と少し可笑しく思いながらも、みなで拍手で迎え入れる。そんな感じで2番、3番、4番、、、、、、と続いていき、いよいよ私の番。

「どうも。出席番号15番の鈴宮夏美です。中学の時はブラバンで、トロンボーンをやってました。ですが、いろいろなことを経験したいと思ってますので、高校では運動部に入ろうと思っています。みなさん、1年間ひょっ、、よろしくお願いします。」

やばい、最後の最後で声が裏返ってしまった。今の私って耳まで真っ赤かしら。とどこか客観的に見ようともするがそんな余裕もないほど恥ずかしかったので、拍手も待たずに席に戻ってしまった。

まぁ、この方が覚えてくれる人も多いはずよ、と半ば強引に自分を説得して冷静を取り戻しクラスメイトの自己紹介に戻ると、気づいたときには20番ほどまで進んでいた。

「はじめまして。出席番号20番の田中美優です。、、、、、、、、、、、、、、。」
と順に単調に進んでいっていたのだが、ある男の子の自己紹介になりふとクラスメイトたちが注目した。

「どうも。出席番号27番の藤宮由那です。名前は女の子みたいですが、男です。趣味は絵を描くこと、本を読むことです。音楽はあまり詳しくないので、仲良くなった方は教えて下さい。僕に興味のない方は喋りかけないで結構です。あと、僕は性格が合わないと思った人とは喋らないので。」

出席番号27番の男の子はそう言った。
クラスメイトたちが注目したことにはいくつかの理由があるだろう。ある者はその名前に、ある者は彼の綺麗にまとまったルックスだろうか。おそらく大半の者がそのルックスだろう。ただ私だけは違った。

学校というテリトリーの中では、孤立しないために他者との共存を強いられるのが暗黙の了解である。その中で彼は、そのルールに縛られず、敵を作ることを恐れず自分を確立しようとしていたからだ。

その時から私は彼に心を惹かれてたのかもしれない。だが、好きという感覚とは違っていた。これは好奇心に近いものだととっさに察知した。彼のことをもっと知ってみたい。

ーー藤宮由那ーー
とても面白そう。ぜひ仲良くなりたいわ。まずは2人きりでゆっくりと話すことが肝心よね。登下校や休み時間、1人でいる機会はないかしら。



それから1ヶ月経って5月。ようやく彼が1人でいる時間を見つけたわ。「7時23分発の電車。」これが仲良くなるための第一歩だわ。

コーヒー牛乳

コーヒー牛乳

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-03-25

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