遠くの空

頭ではわかっていても、どうしても惹かれてしまう。

メガネ

「青木これ、資料間違ってる」
「え?」
「だから、資料間違ってる」
「……あ、はい!すみません!」
やば、思わず見とれてた。
「全く、お前は俺の話をちゃんと聞いているのか?」
「すみません、つい……」
「つい?」
「あ、いえ!なんでもありません!」
あなたに見とれてたなんて言えない。
「しっかりしてくれよ?」
そういって微笑むあなた。
その顔は少し意地悪っぽくてすごく好きだ。
高野先輩は私の上司だ。
仕事が遅い私に厳しくもたまに優しくしてくれる素敵な上司だ。
ピシッと着こなしたスーツに黒縁のメガネ。
うん、今日もすごく素敵だなと思う。
仕事も早くて社内でも人気のある人だ。
きっとこの人の彼女は素敵な人なんだろうな。
そう考えては少しへこむ。
私じゃとても、手が届かない。
「青木、これ」
高野先輩が何か投げた。
「え、これ……」
私が好きな黒酢のドリンク。
甘酸っぱくて今の気持ちにぴったりな。
「それ、好きだっただろ?」
ほら、またそんな顔で笑うから。
他の女の子がどんどんあなたのことを好きになってしまう。
「……ありがとうございます。」
あなたの横にいられる女の子になりたい。
毎日、そうやって思ってる。



高野先輩と初めて会ったのは新人研修の時だ。
爽やかに仕事している先輩はとてもキラキラしてた。
一目惚れだった。
それから、私の部署が決まったとき同じ部署に高野先輩がいた時は本当に嬉しかった。
私もここで頑張って、あなたのような素敵な人になるんだってすごく気合いが入った。

そんなことを考えながら仕事をして、時計を見たらもう定時を過ぎている。
「あー、またやっちゃったよ……」
私は仕事が遅いから、よくこうして残業してしまう。
1人で残るオフィスは広いし静かすぎるし寂しいし怖くて苦手なんだけど。
「はやくおわらそ……」
膨大な量のデータをパソコンに打ち込む。
聞こえるのは自分が打つキーボードの音だけだ。
1人になると色々考えてしまう。
「青木、まだやってるのか?」
高野先輩だ。
「先輩こそ、もう帰ったのかと思ってました」
「いや、まだ灯りついてたから誰かいるのかと思ってな。まぁ、どうせお前だろうとは思ってたけどな」
「失礼ですよ、先輩」
「はいはい、手伝うよ」
ほら、また優しい。
「なんですか、珍しい。怖いですよ。」
「俺が優しかったら悪いのかよ、手伝うのやめようかなー」
「すみません、いつもとても優しくて素晴らしいお方だと思っていました」
「よろしい」

さっきまで、自分の打つキーボードの音だけだったのに今はあなたのキーボードを打つ音も聞こえる。
それだけで嬉しくて、にやけてしまう。
真剣な顔でキーボードを見つめる先輩。
腕まくりなんかしちゃって。
イケメンか。
あ、イケメンだった。
もう、先輩ったら。
「おい青木、集中。」
「すみません」

この状況で集中は私には厳しすぎる。
メガネをグッと上げる先輩。
そういえば、メガネを取った所を見たことがない。
何もかも完璧な先輩。
私は先輩のメガネの内側を知らない。
あなたの大切な人はその内側を知ってるのだろうか。

「青木、俺のことそんなに見つめても仕事は終わらないぞ」
「べつに、見つめてません。」
「そうか、それはそれで残念だけどな」
その笑顔は本当にずるい。
「からかわないで下さい。」
「俺がいつ、からかったんだよ」
「私は、それ以上言われたら勘違いしてしまいます」
「勘違いすればいいよ」
わかってる。この人はいつも、そうやって私の心を鷲掴みにする。
「青木。好きだよ」
「職場でやめてください」
「照れるなよ」
駄目なのもわかっている。
「青木は?俺のこと好きじゃないの?」
「……先輩。」
「教えてよ」
あなたはまた、そうやって甘い言葉で私をおかしくする。
「……好き」
そしてその意地悪な笑顔で私にとどめを刺す。
先輩は私を強く抱きしめる。
そして優しく私にキスをしてくれた。
「誰かに見られたらどうするんですか?」
「そのときはその時だな」

私は大人しくその腕に抱きしめられる。
あなたの左手の薬指は、もう誰かのものだと知っているのに。

遠くの空

書いといてなんですが、主人公の幸せを願います

遠くの空

片想い

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-03-17

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted