異能力マフィア抗争

碧の処刑執行人

ドンッーーー
暗い路地裏に鈍く重い音が響いた。

「あらあら。また派手にやってるわね。」

炎が上がり、黒煙が辺りに立ち込める。

「なーんだ。あたしの出番無いじゃない。つまんないの。」
「ほんとね。ま、あの子に任せとけばいいんじゃない?」
「2人とも、そんなこと言いなさんな。…あら?」

煙の中から人影が現れる。
右手には大斧、左手には…人の首を持っている。
眼光鋭く一点を見つめるその瞳は、樹海のように深く深く、碧かった。

「うーわ…またあれ持ってる。」
「ほんとね。気持ち悪くないのかしら。」
「まぁまぁ。あれがあの子のやり方なのよ。」
「あーあ。さすが“碧の処刑執行人”だこと。」


◇◇◇◇◇◇◇


立派な松が門扉の上にアーチを作っている。
樹齢がわからない程に太い幹が、この屋敷の歴史の長さを物語っていた。

「ただいま戻りました。」
「「「お帰りなさいませ!!!」」」

長い廊下に美しい声が響き渡る。
ここは女性のみで構成される和装マフィア『炎龍』の本部。

「…また返り血を浴びていらっしゃるわ」
「あの袋…今日もあの中に…」
「シッ…聞こえてしまうわ」

ヒソヒソと話す構成員達。
『チッ…あんたらなんかビビって手出しもできねぇくせに…。』
女の陰口は嫌いだ。陰気で。腹黒くて。欲と嫉妬にまみれている。こんなもの聞きたくない。
周囲を睨み付けらながら廊下を足早に進んでいく。

「あーあ。怒ってる。」
「ほんとね。」
「こらこら、余計なこと言いなさんな。」

後ろからついてくる3人。私と同じグループで行動する構成員達。
糖堂もなか。マイペースで抜けてるところもあるが、こう見えて戦闘部隊の幹部だ。
緋唯汰。俗にいうツンデレ。諜報部隊幹部という仕事柄、頭はキレるから頼りになる。
美和。こちらもツンデレ。私から見ればデレの要素の方が多い気がする。最近加入したばかりの子だが、性格が一緒なせいか緋唯汰と仲良しだ。
滅多に人のことは信用できないけれど、この子達は別。
私のことを心から信用してついてきてくれてるし、私も安心して仕事ができる。

◇◇◇◇◇◇◇

やがて、手入れが隅々まで行き届いた庭園へ辿り着いた。
真っ赤に紅葉した楓が目に入り、胸の奥がズキンと痛む。思わず目を逸らした。
檜で出来た縁側に1人の女性が腰掛けている。
屋敷の誰よりも美しい色打掛を纏い、豪華な装飾が施された煙管からは紫煙が上がっていた。

「ただいま戻りました。」
「お帰りなさい、楓。」

彼女の名は露草。炎龍の全てをまとめる長だ。
私の名前を呼んで振り返ると、その名の通り露草と同じ青紫色の長い髪がサラサラと肩から滑り落ちる。

「…あら、その袋。」
「はい、奴らの首です。」
「もう…皆さんそれの処理に困っているのですよ?」
「…申し訳ございません。つい頭に血が上って。」
「いつも、でしょう?」
「…はい。しかし、私達の大切な家族を殺されたんです。これくらいしないと…。」
「楓。」

ビクッと身体が固まる。
腕にはもちろん自信があるが…この人には逆らえない。
名前を呼ばれただけで蔓に巻かれたようになってしまう。

「あなたの仲間思いなところはとても評価できるところです。しかし、私の命令をほとんど無視して、グループのみんなを置いて、1人で突っ走るのは、あなたの悪い癖よね。」
「はい…。」
「今回も誰も負傷者を出さなかったから良かったものの…もなかさん達に何かあってもいいの?」
「それは駄目!」
「ふふっ…そうでしょう?ならこれからは気を付けなさいね。」
「はい、かしこまりました。」

深くお辞儀をし、また足早に廊下を歩いていく。
後ろで、もなかさん達もお辞儀をする布擦れの音がした。

◇◇◇◇◇◇◇

「露草様。少し楓様に甘すぎやしませんか…?」
「ふふっ…いいのよ。あの子にはあれで十分効いているはずだから。」
「そうでしょうか…。」
「私にはわかるのよ。あの子のことなら。」

そう言って露草はまた庭の紅葉に視線を移した。

異能力マフィア抗争

異能力マフィア抗争

  • 小説
  • 掌編
  • アクション
  • SF
  • 青年向け
更新日
登録日
2016-03-16

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