鮭を獲った金借り男の話

七等官吏のアレクセイがあてもなく川辺をさまよっていた。昨日の賭博で素寒貧になり、来週の給料まで赤貧のまま過ごさねばならない。ああ、何コペイカさえあれば!そんなこを思いながら川を眺めていたら、あることを思い出した。ここは鮭がよく漁れる川だった!早速道具を前借りしアレクセイは鮭をとることにした。しかし鮭はぬめりがきつく、予想外にすばしこい。網を投げては、間からすり抜けて行くのだ!
まわりの釣り人が「アリョーシャ!そんなやり方じゃ、今に日が暮れちまうよ!あれか、お役所は釣り針を使っちゃいけねぇ決まりでもあるのかい?」と囃し立てた。
アレクセイは「いやぁ、あっしは今素寒貧でね!文無しには網しか貸してくれねぇとさ!鮭でも売って、足しにしようと思ってね!」と己を嘲った。釣り人は「アリョーシャはお役人だろ?お役人のくせになんで素寒貧なんだい?」アレクセイは「酒に使っちまったんだよ。」と嘘をついた。釣り人は「馬鹿だねぇ。しょうがねぇ、何匹かくれてやるよ。まったくいたたまれないよ。森向こうの市場に持っていけば、金になるはずだ。」アレクセイは「恩にきるよ。この借りは神に誓って返させてもらうよ。」と返した。

アレクセイは鮭を何匹か縄で縛り、市場に持って行った。確かに瞬く間に売れ、20コペイカほどになった。しかし彼は役所の決まりを破ったことに気づき、蒼くなってしまった。そんな時に、上司のアレクサンドルにはちあった。「アリョーシャ、君は何をしている?」「森向こうの釣り人から頼まれて鮭を売っていたのです」「ダメだ。売れた分の金は没収だ。賄賂と云われても言い逃れできないぞ」「しかしこれでは飢え死にです。」「馬鹿な。何で金をすったのだ?」「賭博です。」「バカなやつめ。今回は見逃すが、必ず来週の俸給で金は返すのだぞ。」

一週間が経った。アレクセイはまたあの川辺に来ていた。鮭が相変わらず群れをなしている。またあの釣り人が、釣り針を垂らしていた。こちらを見ると「アリョーシャ!鮭は売れたか?その分だと、なんとか食いつないだようだな」「何も言わずにこれを受け取れ」「なんだ?金か?」「25コペイカだ。鮭を売った金だ。」「いいのか?」「自分の不始末だからな。こんな風にしか返せないあっしを嘲るがよいさ」「見上げた忠誠心だよ。偉くなりな」「ただの酒飲みだよ。それじゃあな」と言い残し、アレクセイは去った。

川の鮭はそろそろ産卵の時期を迎える。腹が赤い鮭が、つがいになっている。もう彼らの世話にはなるまいと、彼は一層かたく心に誓ったのであった。

鮭を獲った金借り男の話

鮭を獲った金借り男の話

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-03-16

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