轟き
『轟き』
海が泣いているんだ
いや、それは嘘だ
海はいつだって変わらない
海はいつも
魂の、無数の
うたかたの心を
波に乗せて、しぶかせるだけ
本当はなにもかも、僕の思いこみなんだ
本当は僕が泣いているんだ
なくなってしまった
大切な己の欠片を想って
終らないさざめきに悲しみを代弁させようとしている
消えては生まれる泡のひとつ・ひとつが、
昨日だとか、一昨年だと言いたくて
僕は冷たい、遥かな海を眺めている
海はただ、陽を浴びて震えていた
僕は足元の空き缶を蹴飛ばして、
それが高く放物線を描いて水面に落ちるのを見届けた
僕はもう何も喋りたくなかった
踵を返して海を背にし、俯いた
ただゆらゆら浮かんでいる、凹んだ、汚い空き缶が
いずれ二度と見つかることのないよう、
どこまでも深い水底に沈むことを祈るだけだった
さよなら、海
お願いだからもう泣かないで
長い、轟きだけを……
轟き
かつてCessnaという名前で投稿したものです。