旅人

『旅人』

 氷雨の降る季節に
 その人は街へやって来ました

 冷たい雨はぴたぴたとアスファルトを打ち
 工場から立ち上る煙はやけに白く、ひどく重く

 その人は列車の通らない線路を
 プラットホームからじっと見つめて

 悲しそうな目で
 少し、俯いていました

 その人を呼んだのは、誰でもない
 この街で生きる
 人、もの、音、とか、
 言葉で表しきれない、すべてです
 
 その人は静かに、立っています
 忘れられてしまったものを
 コートの内にひっそりと忍ばせて

 雨はしとしとと降る
 風はぴたりとありません

 やがて雨が雪に変わる頃
 その人はそっと、街を離れて行きました

旅人

かつてCessnaという名前で投稿したものです。

旅人

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-03-11

Copyrighted
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