Little World

はじめまして。中条剛と言います。ファンタジーの長編やたまに短編を書いてます。
これは僕が初めて描いた作品です。文法とか間違ってるかもしれません。
ではご覧あれ。

今日はもう疲れていた。
日々日々たまっていく仕事のストレスに現実に症状が出始めている。
「はあ…」
ため息をひとつつき、電車を降りる。
そこは片田舎の小さな駅で、一時間に電車が一本来るか来ないかの感じだった。
「…明日も仕事だな」
チラッと時計を見た。短い針は12を指していた。
「眠…」
瞼をこすって彼は言った。


帰り道に、彼は思った。
だめだ、もう寝てしまおう。帰ったらシャワーも浴びずに寝てしまおう。
おれは結婚もしている、子供も二人いる。でも、『あいつら』から話しかけることはほとんどない。
たまに俺が話しかけたって『あいつら』は無視する。
一体、おれは何のために生きているのか…。
そんな風にも考えてしまうのだった。

家に着いた。
むろん、明かりは消えている。
彼は鍵を探す。
「…あれ?」


まずい。これはまずいぞ。
鍵がない。嘘だ!確かに仕事場にはあったはずなのに…。
「どうしよう…」
体には冷たい夜風が当たる。
「…あれは何だ??」
男は何かを見つけた。
大の男一人入るくらいの穴が。
仕方ない、今日はここで暖をとろう。男は思い、中に入った。

ズボ

しかし、思った以上に穴が深かったのだ。
「…え」


考えるすきも与えずに、男は地の底へ落ちて行った。
「…くっ」
男はどこかに指をかけようとする。
しかし、穴はすぐに金属のような物質でおおわれてしまい、指をかけるすきもなかった。
男は、どんどん、どんどん落ちていく。
「…くっ」
上を見ると先ほど落ちた穴がもう小さくなっていた。
「一体どこまで、落ちるんだ…」

しばらくすると、ついに下から光が見えてきた。
「…待て、どう着地しよう。」
男は着地のことなど全く考えていなかったのである。



「これは、やばいな…」

ドゴォォォォォン

思いっきり、木の上に着地…いや、墜落した。
「ごほっ、ごほっ」
「助かった…土地が柔らかくて…ってこれ泥だな」

ガサッ

何処からか物音が聞こえた。
「!?」
「ウホッ」
それは、変わった風貌のお面をつけた裸の人間だった…こ氏に葉っぱのようなものは付いてい


るが。
「ウホッ、ウホッ」
その面をつけた人間は雄叫びをした。
喜んでいるのか?それとも部外者が来たと仲間に知らせているのか?それとも…。
しかし、これは彼に考える暇を与えなかった。
続々とお面の連中がやってきたのだ。中には女子供までいる。
「ウホッ、ウホウホッ」
なぜだろうか。彼らの言語が自然と理解できた。
いや、それは間違っているのか。
彼らの表情から何となく理解できる…そちらの方がはるかに解答としては正しい気がいた。


男はその面をかぶった人間の集落に連れて行かれた。
そした、奥にある、藁ぶき、しかし豪華な家に案内された。
そこには、齢100を超えていると思われる老人がいた。
老人は手を振り、面の連中を外に出した。
「済まなかったな」
老人から聞いたのは、あの懐かしい言語だった。

「!?」
男は驚いた。
「…どうやら、君も」

スッ

老人は上を指差した。


「上の世界から来たようじゃな」
老人はにこりと笑って言った。
「それでは、ご老人、あなたも…」
「ああ、私は長年この村に住んでいる。だが、わしは上の世界から来たのだ。」
「…話がわかる御仁で助かった。」
男はほっと一息ついた。
「では、御仁、お聞きしよう。いったいこの世界は何だというんだ?」
「………」
老人はしばらく無言であった。
「ここは、」
「なんてことはない。もう一つの世界じゃよ。」


「???」
男は老人の言っていることが理解できなかった。
「あ・・・あの、何を言っているんでしょうか?」
「わからぬか。おぬし、『惑星空洞説』は知っているじゃろう?」
『惑星空洞説』―10年ほど前まで理系の学会でとなえられていた考え、だ。
『地球には空洞があり、そこには別の世界が広がっている』とか50年近く前、アトバルスとかいうギリシャ人の学者が唱えた考え。
その人は『第2のコペルニクス』とか言われてその学会では盛大に取り上げられていた。


確かその時、理系の大本の学会であった『サイエンスリー学会』に異を唱えた人がいた。
日本人だったが、名前は覚えていない。
確か『地底世界なんてないことを証明してみせる』とかいって世界一の鍾乳洞に入って行ったきり、帰ってこなかったんだよな…。
――たぶん、もう死んでるだろうけど。
「おい、」
「おい?」
「あ…」
「すいません。先を続けてください」
「うむ…」
老人は多少不機嫌な声で話を続けた。男は内心老人に悪いこと



をしたな、と思った。
「で…私はその『惑星空洞説』を反対した学者のひとりでな」
「!?」
「…あなたが…『惑星空洞説』を反対して…行方不明になった…」
「ああ、そうだ」
「そんな…じゃあ、私はここから抜け出すことはできない…と?」
「いや、手段ならある」
「なら、なぜ…」
「なぜかって?ここの暮らしになれてしまったからだよ。おいては惜しい人たちがたくさんここに入るんだよ。」
男はふと、自分の妻や子供の顔を思い浮かべた。



「君はその服装からして、世帯持ちじゃろう。じゃから帰るのだ。ここに居たら、」
「自分の本来の姿が失われてしまうぞ。」
「…わかりました。」
「ウホーゥ!!」
老人が突然吠えた。
そして、その声と同時に二人の男がやってきた。
「ウホホ、ウホーホ、ウホホ」
老人は言った。
「ウホッ」
了解、とでも言ったのだろうか、彼らは一言だけ言った。
「なんて言ったんですか」
二人の男たちが去ったのち、老人に聞いた。



「『お客様は帰られるようだから、宴の準備をしろ』と言ったんじゃが、何か問題でも?」
「い、いえ」

その日の夜、盛大に宴が行われた。
不意に空を見上げると、月が上がっていた。
(この世界にも月があるのか…太陽があるなら、当たり前か)
男は思った。
「ウホォッ」
高い声で呼びかけられた。
振り向くと、子供がいた。
手には小さな花があった。ぼんやりと、月の光に反応して輝いていた。
「これは『月光花』と言うんじゃ。



日中はそれほど目立たないが、夜になると月の光に反応して、淡い光を放つんだ。この世界で言う、蛍光灯の代りだな」
老人は後ろで言った。
「へえ…」
「ありがとうな。じゃあ代わりに…」
男は自分のカバンから、何かをとりだした。
「ウホッ?」
「これはな、『マリオネット』っていうんだ。糸をこことこことここに引っ掛けて…」

みんなが、男の前を眺めている。
なぜなら男は『マリオネット』―しかし、この世界の者にとっては、


人の形をしたもののところどころに糸をつなげただけのもの、としか思っていないだろう、というか『糸』というものがわかっているのだろうか?それすらも怪しいところである。
「で…こうすると、」

クイッ

男は糸を引っ張った。
すると、
その通りに人形も動く。むろん、こちらのわれら人間が住む世界なら当たり前のことである。
しかし、
「ウホォォォォッ!!!!」
人たちは驚いた。
「ウホホッ、ウホホッ!」


やらせてくれ、とでも言っているのだろうか。人たちはみな、手を出す。
「いっぱいあるから、大丈夫だ」
男はかばんからどんどん『マリオネット』を取り出す。
このとき、老人は思った。
(一体、この男は何の会社に勤めているんだ…?)
と。

そして、一夜が明けた。

「ついていかなくてええかな」
「ええ。場所を聞いたら、案外近いですし、迷わずに行けそうです」
「そうか。」
「…男よ」



「はい?」
男は振り返った。
「おぬしがこの村に来た時、とても疲れていた。家族のストレス、職場のストレス…いろいろ感じていたのじゃろうな。」
「それが今は、元気そうじゃ、全てのストレスを吐き出したように思えるが…」
「ええ。」
「今までは、毎日にうんざりしてました。でも今は、」
「家族に会いたくて、うずうずしてます!」
「フハハ、そうか」
「じゃあ。」
「うむ。わしらのことを忘れるでないぞ。」
「ええ」


男は、現代に戻れるホールがあるという、山に向かった。

そして、ホールを見つけ、現代に帰った。

「あなた、今日は遅くなるの?」
「いや?なんでだ?」
「今日は15回目の結婚記念日よ。」
「そうか…」
5年前、おれは穴に落ちて、もう一つの世界に向かった。
そこで、全てが変わった気がする。
しかし、あれは夢なのか現実なのか―――。
男が、そんな気持ちで出て行った玄関の靴入れの上には、花瓶があった。そこに入っていたのは、男が5年前、あの村で受け取った『月光花』だった―――。





Little World

Little World

実はこの作品には主人公は違うものの続編があります。では次回作でお会いしましょう。

Little World

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-01-17

Copyrighted
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