つまらない話(人による)

 このお菓子おいしいよねと、キミが食べているそのお菓子をぼくはあまりおいしいと思わないのだけど、キミが言うとほんとうはおいしいんだと錯覚して、試しに食べてみるとやっぱりぼくの口には合わないってこと、多いよ。
 今日は雨が降ったり止んだりで、外で遊べなくてキミは退屈そうに漫画を読んでいて、ぼくはインターネットでみんながおもしろいと評価している動画を観てクソつまんないと思っている。
「そういえば昨日、死んだひいばあちゃんに逢ったよ」キミは云った。
「死んだひいばあちゃんってどこで逢えるの」ぼくは訊ねた。
「近所のスーパーの総菜売り場」とキミは答えて、キミは横着だから漫画を開き寝転がったままオレンジジュースを飲もうとして、グラスを倒した。カーペットにオレンジジュースの水たまりができる。ぼくは慌ててティッシュを箱ごと投げ渡すが、受け取ったキミはティッシュ一枚一枚をしゅっ、しゅっ、とゆっくり引き抜いて、オレンジジュースの水たまりの上に重ねていくので、ぼくはイライラしてキーボードをかっかっかっと力強く叩く。キミは、キミのおばあちゃんが作ったというぼたもちを食べながら零れたオレンジジュースを処理して、再び漫画の世界に没入する。海賊の冒険活劇。ぼくはあんこのぼたもちより、きなこがついている方が好きだ。
「ひいばあちゃん、近所のスーパーの総菜売り場で何してたの」ぼくは更に訊ねた。
「まァまァ、大きくなったわねェ、これでも食べなさいって、チョコレートもらった」キミは至って平然な声色で答えた。
 ねえ、それってほんとうにキミのひいばあちゃんなの。
 ぼくは思ったけれど、これ以上何かを訊ねるのはやめようと思った。なかなかおもしろそうな動画を発見したのだ。白いねずみが玉乗りをしている動画だ。ぼくは動画を観ながら声を出して笑った。横から覗きこんできたキミが、
「それのどこがおもしろいの」
と冷めた口調で言い放ったけれど、ぼくは一分十八秒のその動画に始終笑い続けた。
 まったく、どこがおもしろいんだろうね。
 キミの本当なのか冗談なのかよくわからない話も、白いねずみが玉乗りしている動画も、ぼくが今語っているこの一連の流れも。

つまらない話(人による)

つまらない話(人による)

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-03-06

CC BY-NC-ND
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