カリヨン

 

やぁ。旅人さん。君もあの演奏を聞きにきたのかい? え、知らないのかい。この町には有名な時計台があってね。夜中を除いて、1時間ごとに様々な鐘の演奏が聞こえてくるんだよ。その時間が近づくと、町は穏やかな沈黙に包まれるんだ。ふふっ。みんな聞き逃したくないんだろうね。

あ。だけど、特に12時はざわめきがこの世からなくなったかのように静かだよ。何でかって? それがね、その調べを奏でるのがあの時計台の守り人だからだよ。

あの時計台が建ってから、彼女は毎日欠かさずに――半世紀以上もの間、ずっと僕たちに12時の訪れを音色とともに知らせてくれているんだ。あぁ。もうすぐ12時だからさ。旅人さんも素敵な演奏を聞いていくといいよ。



…………あぁ。なんてことだ。最近調子が思わしくないとは聞いていたが。……旅人さん、取り乱してしまって申し訳ない。僕たちには、あの音色が染みついていたから。いつかはこんな日が来ると分かっていたのだけど、実際にそうなると……うん、やっぱりくるものがあるね。

カリヨン

カリヨン

Twitterにて開催された【のべるちゃんの挑戦状】より。 『彼は時計を一目見ると、彼女がもうこの世に存在していないのだということを悟った』 この状況が発生する物語を創作せよ。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-02-17

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