マジクソうんこぶりぶりマンの葛藤と復讐と恋と遺言

マジクソうんこぶりぶりマンの葛藤と復讐と恋と遺言

マジクソうんこぶりぶりマンが懸命に生きる物語です。(完結済)

第一章 爆誕

 マジクソうんこぶりぶりマンは、福島第一原発壱号機がメルトダウンした日に、宮城県仙台市でこの世に生を受けた。マジクソうんこぶりぶりマン(以下マジクソマン)は、体重5000グラムの元気な男の子で、祖母によってその名を授かった。母の多恵子は目に涙を浮かべながら、「もうなんでもありね」なんて言いながら、亡き父の遺影に向かって笑みを投げかけたのだった。
 マジクソマンはその名前のせいで、幼稚園に入った頃から早くもマジクソひどいいじめを受けることとなった。マジクソマンのニックネームは、もう本名がマジやばいので、それ以上やばいものを誰も思いつけなかったがために、シンプルに「うんこ」で定着した。入園から三日後のことである。
 もうキラキラネームなんてどこ吹く風である。ちなみにクラスメイトには「ぴかちゅう」と「悪魔」と「デラックス☆超合金」がいた。ニックネームはそれぞれ「サトシ」と「あっくん」と「マツコ」だった。
 マジクソマン改めうんこ君は入園後まもなくしてその才能を遺憾なく発揮することとなった。何の才能か?それはあらゆる分野における才能である。絵を描けばその描写力と独創性に大人たちが唸り、運動をさせればその身体能力の高さに園児たちが湧き、社交性においては園長先生のオキニとして君臨した。とりわけみんなを驚かせたのは、トイレタイムにおいてである。うんこ君は、ものすごくうんこをするのが上手だった。さすがマジクソブリブリマン、生まれながらのうんこマスターにして名前がうんこそのものである。うんこをするために産まれてきたと言っても過言ではないしうんこをする人のイデアであると言っても過言ではないというか、そう。
 マジクソうんこぶりぶりマン改めマジクソマン改めうんこ君は、「排便をする人」のイデアなのである。
 そんな彼が熾烈なるいじめを耐え抜き、結局は皆に愛されながら卒園し、小学校の入学式を目前にしたある春の日、事件は起きた。
 うんこ君の母が、再婚をしたのだ。それにより、うんこ君の姓が変わることとなった。それまでうんこ君は「本田」という姓だったのだが、再婚相手の姓が「踏ん張ります!」だったために、うんこ君の正式名称は「踏ん張ります!マジクソうんこぶりぶりマン」になった。なったのである。来るところまで来たのである。
 ちなみに当然ながら母の名は「踏ん張ります!多恵子」になり、再婚相手である新しい父のフルネームは「踏ん張ります!んッ!」だった。
 名前も新しくなり、ピッカピカの気持ちで小学生になった踏ん張るクソマンは、入学式当日から学校中の話題と注目と笑いをかっさらった。当然ながら。
 担任「出席番号18番。踏ん張ります!マジクソうんこぶりぶりマン!」
 会場「ドッカーン!」
 大爆笑である。核廃棄物置き場まで届くような爆笑であった。


「・・・いい加減にしてくださいよ」
 加藤さんは原稿を持つ手が震えるのをどうにか抑えようとしながら、僕の目をしっかり見据えて言い放った。
「・・・・やっぱダメですかね−「ダメです。」
 食い気味である。そりゃそうだ。もうありとあらゆるタブーを破り散らし、立ち入り禁止区域にラグビー部を引き連れて練習を始めたようなものなのだ。危険をおかしすぎた。挑戦しすぎた。前衛にも限度があった。
 なんでおれこんなの書いたんだろう。っていうかなんで見せたんだろう。自分でも自分がわからなかったが、とにかくこれを書くしか無かったのである。書かずにはいられなかったのだから、仕方がない。
「仕方なかったんですよ」
「何がですか!?もうね、意味がわからなすぎて逆にわかると見せかけてやっぱりわからないですよ!というか、わからないですよ!ストレートに!」
 混乱している。あの加藤さんがここまで興奮するなんて。僕は自分がすごいものを書いたのだという認識をランクアップさせて、確信の一歩手前、つまり準確信のランクまで押し上げた。マリオがキノコをゲットした時のサウンドと共に(もちろん僕の脳内だけに鳴り響いた)。
「何キノコ取ってるんですか?」
「え!あれ?なんでわかるんすか?」
「今言ったじゃないですか自分で!テレレテレレ♪って!」
 言ってた。おれ、言ってたわ。口からサウンド出ちゃってたわ。完全に無意識のうちに。疲れてるのかな・・・

 そう、おれは単純に疲れているのかもしれない。

第二章 存在消滅の危機

 次号で打ち切りになることが決まっている「ときめき☆ハート・アタッ子」の最終話の打ち合わせに乗じて、おれ事態の契約打ち切りを避けたかったおれがとった苦肉の策だった。新連載の企画を持ち込んだのだ。それが先の「マジクソうんこブリブリマンの大冒険!ブリッ!」と冠されたできたてホヤホヤの作品だ。でもやっぱり一夜漬けじゃだめだ。テストも原稿もおんなじだ。というか改めて考えるとクソすぎる。タイトルもクソだし内容もクソだしそもそも下品過ぎだ。常軌を逸している。マジありえん。そしてなぜおれは帰りにコンビニに寄ってビールと辞めたはずの煙草をナチュラルに買ってるんだ。あ、これビールじゃねえ。第3のヤツだ。もうどうでもいいわ。

 家に帰り着いたはいいが、悪態を吐くか奇声をあげるかそのどちらをも交互に口走りながらオリジナルのダンスを踊るか、しかやることがないのでおれはもちろんビール(第3のヤツ)をプシュッとやって煙草に火をつける。んで寝そべる。

 おれの人生一旦終わりっぽい。おれ今何歳だ?32?あ、この間3になったのか。転職するにはタイミングとして多分ギリだし、転職するためのスキルがないしそもそもやりたいことが何もない。やばい。
 アルコールとニコチンのせいで意識がモヤり出す。
 …マジクソうんこぶりぶりマンの続編でも書こうかしら?

第三章 恋に落ちる、便器を滑り落ちる

 マジクソうんこぶりぶりマンは中学2年の時にマジクソ半端ねえいじめに耐えかねて不登校となりそれから3年間引きこもり、その間にネットで知り合った怪し過ぎる「お友達」に誘われて17歳で半ば強制的にペルーへ飛ばされ、辿り着いた先でアイオワスカを無理やり飲まされ、そこで様々なサイケデリカルイメージを見たくもないのに見てしまい、その儀式の最中マジクソうんこをぶりぶりしながらゲロを吐き散らしているまさにその瞬間に、自分がこの世界の創造主であることを知った。というか、そう思い込んでしまったのであるマジ半端ないぞ。

 この世界の新たな創造主たるネオマジクソ神は自からのパートナーとして相応しいディーバを見つけなくてはならないという強烈な使命感に突如として駆られ、まず彼がやったことは港へ行き荷物に紛れてこっそりちゃっかり逃げ出すことだった。アメリカ大陸を目指して。
 着いたのはニューヨークだった。名前も知らない街で言葉もわからないままにゲロ臭い東洋人の顔をしたネオマジクソ神は見るからにちょっと若めのありふれたホームレスだったが、その瞳だけは煌々と輝いていた。パートナーを、見つけるのだ。
 道行く様々な人々はこれまでに見たこともないほどバリエーションに富み、この中に運命の人がいるかと思うと心臓が張り裂けそうなほど高揚した。クソ神はそれっぽいと思った女性に声をかけまくる。
 「そなた――
 「What’s the fuck!!!?Go away!!!」
 「・・・」
 当たり前だけどそれはそれはひどい扱いを受けた。108人目に蹴られたところで初めてクソ神は己の神性について疑問を抱く。おれは、神ではないのか?なぜこんなにも不当な扱いを受けねばならないのだ?おお神よ。あ、祈ってる時点でおれ神じゃなくね???
 しかしマジクソマンは遂に見つける。迷いの森の最中において突如差し込んできた熾烈なる一筋の光、太陽の全エネルギーを集中させて発射さたれたかのごとく強烈なる光線に、彼は名もない通りの向こう側から撃ちぬかれたのである。
「彼女である…」
 彼は確信した。
 その女は10代後半っぽいアングロサクソン系の白人で、ニューバランスのスニーカーに黒いスキニージーンスにthe 1975のバンドTを着てて金色の髪とブラウンの瞳がチャーミングで顔立ちもなんというか全体的にシンメトリーな感じで天使感があった。なんかバスを待ってるっぽくて1人でうつむいてて、んでイヤホンでなんか聴いてる。
 確信を得た彼は強かった。先程までの自らの神性に対する懐疑?なんと愚かしき迷い!こんなにもこの私の魂に訴えかけてくるこの正しさを、自明さを、なんと例えたら良いのか!この迫り来る圧倒的な確実さを誰が裏切れよう?彼女こそが私のパートナーであるというこの絶対的真理感こそが、私が新世界創造主であることの証拠以外の何であり得ようか!でもなんて声掛けようかな…
 そう、彼はなんといってもまだハイティーンなのだ。恋なんてしたこともないし、というか自分が今抱いているこの気持が恋である可能性についても全く考えが及んでいない。
 彼は次第にわからなくなる。え、最初なんて話しかけたらいいべ?ていうか言葉たぶんわからんべ?ほならどうすっぺ…あ、ジェスチャーでいけんじゃね?あぁ、でもおれさっきからなんかめっちゃ罵倒浴びせられてばっかだし、やっぱこんな汚れてたらあの娘もおんなじような反応すんのかな…あ、え、バス来た?マジかどうすっぺやべぇああもう乗る、乗る、無理!無理!間に合わんし!いや、間に合わんてことはあの娘違うんやな!運命とかじゃないんやな!な〜んだ〜!違うんじゃん!あぶね〜!

 …あれ?何この気持ち。

第四章 うんこの幻影としての屁

 人生のかなり初期段階でこの世界で1人の人間が体験できる平均的な苦悩の約5万培の苦悩を味わったせいで、マジクソうんこぶりぶりマンはなんと18歳で自殺を決意した悲しいかな。
 でもマジクソマンは死なない。なぜならこの物語の主人公だからだ。彼は泣きながら知らないビルのてっぺんに登った。そしてこの街を見下ろす。おれの人生は、いったいなんだったのか…。意味なんて何もなかった。希望も絕望の前では無力でしか無かった。
 マジクソマンよ、それが人生だぞ・・・乗り越えるのだ!と誰もが思ったその時、彼は自分のちんこを自らの口で噛み切って血を噴水のように撒き散らしながらビルのてっぺんから真っ黒い傘をさしながら飛び降りて重力によって加速しながら勢い良く地面にたたきつけられて肉片と液体を飛び散らせて周りにいた人にものすごく迷惑をかけた。掃除が大変だった。そしてちょっとシミが残った。
 この物語はこのように悲劇的としか言いようが無いわけでもなく若干の喜劇的要素を含みつつもそれでもやっぱり何か煮え切らなさの残る彼の死を乗り越えた世界というか我々によって紡がれ読まれそして読み継がれる物語である。要するに、「マジクソうんこぶりぶりマン死んだ、からの――」に続く大喜利である。
 結局マジクソうんこぶりぶりマンは死に、世界はそのことによって微塵も揺るがなかった訳だった当たり前だ。しかし、彼が死んだからこの物語の著者であるおれはこの物語を現にこうやって書けているわけだし、これを読んでおられる貴方様も現にこの文章を読めているわけである。感謝しなくてはならない。

 マジクソうんこぶりぶりマンなんて最初からいないのだけれど。

最終章 さようならの水流

 ここに一輪の花が無い。

 何故無いのか?物語がこの「無さ」を起点としてビッグバンを起こすからだ。「無さ」を起点にして起こるビッグバン。山田くん、座布団をスーパーノヴァして差し上げて。ノヴァーン!

 知性とは何か。
 知性とは、今おれにこのような文章を書かせる何かである。
 だとするならば、知性は狂っている。少なくともおれの知性は狂っている。
 おれの知性?
 
 そんなものあるのか?っていうか知性って個々人に固有のものなのか?それとも全人類に共通して与えられたものなのか?スピノザの言う神みたいにただ「全知性」みたいなものが個々人に去来しているように見える形に変状しているだけなのか?わからない。知性によって知性の全容を捉えることはできるのか?この問いは結構大事そう。論文が10本は書けそうな問いだ。でもおれは書かない。なぜならめんどくさいし、なんといってもおれはマジクソマンだからだ。

 そうだ。マジクソマンとは結局のところおれなのだ。なぜおれは自分のちんこを噛みちぎったりしたのか?噛みちぎったちんこは食ったのか?それともペッと吐いて捨てたのか?吐いて捨てたのだとしたらそれはどこへ行ったのか?ビルの屋上で雨に濡れながら腐ったのか?それとも俺と一緒に地面に落ちて清掃員の手によって黒いビニール袋に入れられその後焼かれたのか?それとも次元を越え時空を越えどこか別の場所にたどり着き「噛みちぎられたちんこ」としての幸せを掴んだのか?

やばい。

 この文章を書いていてわかることは、とりあえずわかることは、「こんな文章が書ける奴はまともじゃない」ってことだ。
 まともってどういうことかって?そういう議論を抜きにしても、明らかにまともじゃない。
 そしておれはここまで書いて自分が相当に酔っていることに気付く。酔っているのはもちろんアルコールのせいでもあるし、自分の中からこんなおぞましい物語が産まれ落ちたっていうことに対してでもあるのだ、たぶん。どちらにしろおれは自分の「まともじゃなさ」を確認することによってどうにかまともでいられている。それを確認できたというだけでもおれはマジクソマンに感謝しなくてはならない。
 マジクソマンが「うんこをする人のイデア」なら、おれは何のイデアなんだろう?いったい何のイデア足りうると言うんだ?

 少なくとも、命を食い散らかしてクソを撒き散らすだけの粉砕機みたいなイデアだけは絶対にごめんだ。おれが撒き散らすとしたらそれはクソではなくて、クソみたいであっても愛じゃなくちゃダメなんだ。

 そうだろ、愛だろ。

マジクソうんこぶりぶりマンの葛藤と復讐と恋と遺言

読んでくださったあなたに幸多かれ。

マジクソうんこぶりぶりマンの葛藤と復讐と恋と遺言

マジクソうんこぶりぶりマンが懸命に生きる物語です。(完結済)

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 冒険
  • 成人向け
  • 強い暴力的表現
  • 強い性的表現
  • 強い反社会的表現
  • 強い言語・思想的表現
更新日
登録日
2016-02-07

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 第一章 爆誕
  2. 第二章 存在消滅の危機
  3. 第三章 恋に落ちる、便器を滑り落ちる
  4. 第四章 うんこの幻影としての屁
  5. 最終章 さようならの水流