*星空文庫

騎士物語 第四話 ~ランク戦~ 第二章 一回戦

RANPO 作

第四話の第二章です。
第四話の副題の通り、ここからはバトル全開です。

何も考えずに書いていたせいか、最強クラスの敵とばっかり戦っていたロイドくんらが、やっと同世代の方々と戦います。

第二章 一回戦

『みんなおはよう。生徒会長のソグディアナイトだ。』
 翌日。例の白いカードの指示通りに闘技場へ行くと、全生徒が一つの闘技場――一応、一という番号のついた闘技場に集まっていた。
 要は、開会式だ。生徒たちは全員観客席にいて、本来なら二人の生徒が火花を散らす中央の舞台には髭のじーさん――学院長を始め、先生たちが並んでいる。でもって今開会のあいさつみたいのをしているデルフさんは、舞台の真ん中に設置してあるお立ち台の上にいた。
『こうして挨拶をしている僕だけど、実はこの後に面白いイベントが控えていてね。だからそそっと挨拶して次に移りたいと思っているのだけど……一応、堅い話をさせて欲しい。』

「……遠目だとデルフさん、いよいよ性別がわからなくなるなぁ……」
「会長は男よ、ロイド……」
「わ、わかってるよ……そんな変な目で見ないで下さい……」

『この世界には、沢山の仕事がある。そしてそのどれもが、誰かにとって必要な事をしてくれているモノだ。例えば、僕には行きつけのパン屋さんがあるのだけど、そこのおばちゃんがパン屋さんをしてくれているおかげで、僕は美味しいパンを食べる事が出来ている。』

 ? なんの話だ?

『美味しいパンが食べたいなら自分で作ればいい。だけど僕たちには他にもやりたい事があるし、何でもかんでも自分でできるようになるには一生分じゃ足りない程の時間が必要だ。だから、美味しいパンを食べたいっていう希望を叶えるのを、美味しいパンを作るって事を一番やりたい事としたおばちゃんに任せた。そして僕は、僕の一番やりたい事――騎士になるって事を目指している。』

 何故かパンの話を始めたデルフさんに、少しざわつく闘技場。しかしデルフさんはそんなどよめきを気にせずそのままに話を続ける。

『美味しいパンを作る事を自分の仕事としたおばちゃんは、作るという事が好きというだけでは不足で――おばちゃんには、美味しいパンを作るという使命が課せられた。だからおばちゃんはパン屋さんになってから今日まで――もちろん明日からも、美味しいパンの作り方を追い求めている。好きな事をやっていても、それが仕事である以上、周囲から求められる美味しさというのがあるからね。そしてその美味しさに達しているからこそ、僕らは美味しいパンをありがとうと言いながらお金を払うわけだ。』

 パン屋さんを例にした仕事の話を語るデルフさんだったけど、そこでスッと雰囲気が変わった。

『では逆に、パン屋さんのおばちゃんから見たら、騎士というのを仕事としている人たちはどういう存在なのか。おばちゃんだって、悪い奴は捕まえて安心したいし、危険な魔法生物から自分の家族を守りたいと思う。けれどおばちゃんはおばちゃんの時間をパンを作る事に使っているから、強くなるための修行なんかはできない。わかるかな? おばちゃんからすれば、そういう事を代わりにやってくれる人が、騎士であり、それこそが本質。騎士とは、強さを持たない者たちを脅威から守る者を指す言葉だ。』

 柔らかい口調だったデルフさんの声が、凛とした緊張感のあるモノになる。

『パン屋さんであるおばちゃんには美味しいパンを作る――そう、技術が求められている。では騎士に求められるモノは? 勿論、それは強さだ。ありとあらゆる害悪を打ち伏せる強さだ。騎士には、大切な人を守りたい気持ちとか、正義を貫く心とかだけでは不足で――強くある事が求められる。そうある事が騎士の使命だ。』

「気持ちや信条は二の次に、大事なのは強さ……か……なんかドライだなぁ……」
「ロイド、あんたは入学式の時の会長の話を聞いてないから、今はそう思うのよ。」
「えぇ?」
「あの人は……相当熱い人よ。」

『だからこれからランク戦という、騎士を目指す者が自分の力を知る大会が開かれる。しかし――勘違いしないで欲しい。これから行う戦いは自分の強さを知る為のモノではない。自分の弱さを知る為のモノだ。』

 自分の――弱さ。

『最終的に優勝するのは各学年一人ずつの合計三人。その三人以外は――どこかで負けを経験する。負けるという事はどういう事か? それは――もしもその相手が敵として現れたら、自分は騎士としての使命を全うできないという事だ。その事実を――実戦ではない、学院におけるイベントの中で安全に知る事ができる機会――それがランク戦だ。』

 と、そこまでピリッとした雰囲気でしゃべっていたデルフさんだったけど、コロッとさっきの柔らかさに戻る。

『つまり、優勝してしまった三人はその貴重な経験が出来ないという事。まぁ、優勝するという事は最も多くの戦闘を経験するという事だから――負けという経験には見劣りするけど、良い経験を積む事にはなるかな。』

「優勝する事が悪い事みたいに聞こえるな……」
「会長的には、たぶん準優勝くらいがベストなんじゃないかしらね。」

『さて、ここまで強さが全て――というような事を語ったけれど、そうではないから補足したい。パン屋さんにはパンを作る事が好きというだけでは不足で、騎士には正義の心だけでは不足と言ったけれど、それが不要とは言っていない。美味しいパンを作る使命も、強くある使命も、それらはパン屋さんや騎士になってからの話だ。それよりも大事な――いや、大事とかそういう話ではない根本的な話。それがないと話にならないという話――それは、パン屋さんを、騎士を、目指した理由だ。』

 ――! 騎士を目指す理由……

『もしもその理由がないのなら、負けた時に――強くなろうと思えないだろう。このままではダメだと感じないだろう。そして、もしもその理由があるのなら、それを最も強く思い出すのは負けた時だろう。そしてその理由が理由となって更なる強さを求める。そうあろうと前に進む。自然と、騎士として求められる姿となる。だからこれは、必須のモノだ。』

 お立ち台の上、綺麗な姿勢でマイクを手にしていたデルフさんが大きく手を振る。

『みんながここにいる理由はなんだい? 騎士の学校に入った目的はなんだい? その甲冑の中にはどんな決意が燃えている? 手にした槍にはどんな信念を込めている? ヘルムの下、その両目は何を見据えている? このランク戦を通し、自分の弱さを知り、そして今一度自分の理由を思い出して更に強くなるために力いっぱい――』

 大きな身振り手振りの後、綺麗な姿勢に戻ったデルフさんは――たぶんニッコリ笑いながらこう言った。

『――負けてくれ。』

 巻き起こる歓声と――三割くらいの笑いの声。妙な拍手の中、デルフさんはお立ち台から降りて先生たちの横の椅子に座った。その途中、デルフさん以外にもう一人舞台にいた生徒にマイクが手渡され、次はその人がお立ち台に上がった。

『どもどもー! あたしはこの第一闘技場の実況を務める放送部部長のアルクでーす! 他の十一個の闘技場の司会も放送部が務めまーす!』

「実況がいるのか……あれ? あの人も生徒だよな……ランク戦はどうするんだ?」
「さぁ? その時は代理がやるんじゃないの。」

『さーさー早速各学年の一回戦ーっていきたいとこだけど! その前にみんなのテンションを上げる為か! はたまた本人がやりたいだけか! セイリオス学院教師によりエキシビションマッチをやるよー!』

「エビキシ――」
「エキシビションよ……模範試合って感じかしらね。」

『今までこんなのやってなかったんだけどねー! なんせ今年からすっごい先生が入ったから特別だよー! ではどうぞー!』

 アルクという人が両腕をバタバタさせながらそう言うと、舞台の上にいた先生たちとデルフさん、そしてアルクさんがパッと消え、二人の人物だけが舞台に残った。

『はーい、観客席の一角、実況席に移動しましたー! 戦う二人以外は!』

 舞台の上に残された二人……一人は腕を組んで堂々とし、もう一人は――まるでその状況が理解できていない感じにあたふたしていた。

『では放送部秘伝の魔法を展開します! メインスクリーンオン! 集音マイクオン!』

 アルクさんがそう言うと闘技場の――なんというか、前後……なのか左右なのか、とにかく二つある大きな画面に、舞台に立つ二人がアップで映し出され、二人がしゃべっている事があっちこっちにあるスピーカーから聞こえてきた。

「はぁーっ!?!? ふっざけんな! なんで俺がお前と! 勝てるわけねーだろーが!」
「おいおい、ソグディアナイトの話聞いてたか? 力いっぱい負けろよ。」

 舞台に立つのは槍をクルクル振り回してすごく楽しそうな顔の先生。
 そしてきっと、今急にその先生と戦う事になった金髪のにーちゃん。確か名前は……

『毎年の十二騎士トーナメントを観てきたなら知らぬ者はいない! 毎年(フェブラリ)と激戦を繰り広げ、正直こっちが《フェブラリ》になった方がいーんじゃないかという声もある、元国王軍指導教官にして、現在一年A組の担当教師! 『雷槍』、ルビル・アドニスー!』
「あー、やっぱいいなー、こういう空気。お祭りって感じで。なぁ?」
「なぁ? じゃねー! 俺は今からお前にボコられんだぞ!? 何が祭りだバカ!」
『対するは――立場的には教頭だとか副校長だとかの噂があるけど、どの授業の先生も担当してないから誰もその実力を知らない謎の先生――なのかもよくわからない人、ライラック・ジェダイトー!』
「んだその紹介! 俺は立派な――」
「まぁまぁライラック。これでハレてお前もどういう奴か生徒に知ってもらえるじゃないか。」
「お前に負けた謎の男って感じでな! 学院長、なんすかこれ! 聞いてないんすけど!」

「え、あの金髪のにーちゃんてそんな謎の人だったのか? オレはてっきりかなり偉いのかと……」
「そうね……大抵学院長の横に立ってるって事しかあたしは知らないわ。」

『じゃー始め!』
「ぅおい! いきなりか!」
「行くぞ、ライラック?」

 くるくる回していた槍をピタッと構えた先生は、そうしたと思ったと同時に雷鳴を轟かせて金髪のにーちゃんに突撃、そのまま貫い――

「え――」
「ちょ――」

 思わずオレとエリルは言葉がつまった。何故なら……文字通り貫かれた――というかバラバラに撃ち抜かれた金髪のにーちゃんは上半身と下半身が離れ、ついでに手とか足も――

『おぉっと、いきなりお茶の間にはお見せできないショッキングな光景だー! しかし皆さんご安心を! よく見ていただきたい!』

 アルクさんの、別段深刻そうでもない解説を聞き、青ざめかけた観客席の生徒たちは画面に映し出された金髪のにーちゃんの無残な光景に目をやった。すると――

「バカかお前! 俺じゃなかったら死んでたぞ!」

 首だけでしゃべる金髪のにーちゃんの、その首の下から血は流れていなくて、代わりに……砂のようなモノがサラサラと流れていた。
 つまり、今の金髪のにーちゃんは……血だらけのバラバラ死体ではなく、砂で出来た人形を砕いたような感じになっているのだ。

「……パムのゴーレムが壊された時と似た感じね……」
「じゃ、じゃあ金髪のにーちゃんは第五系統の使い手か? 自分の身体を砂にできる魔法とかかな……」
「そんな魔法聞いた事ないけど、もしもあるとしたら第九系統ね……ティアナと同じ形状魔法の使い手かもしれないわ。」

「相変わらず面白い事になってるな、お前。」
「うるせっ。」

 バラバラになった身体が――さらりと元の形に戻り、金髪のにーちゃんは先生を睨みつけながらトントンと脚で地面を叩いた。すると闘技場の舞台を形作る大きめのレンガみたいな石が盛り上がり、その下から……なんだあれ? なんか太い針金みたいのが出てきた。

『これはすごいぞー! 第五系統の土魔法の上位魔法の金属操作! しかもあのしなやかさはもしや液体金属か!?』
「そこらへんの石っころから金属を抜き取って合成、形も硬度も思いのままの金属を武器にする金属使い。形状魔法の使い手でも同じような事ができるが、石から抜き出すってのは土魔法だけの力だ。さすがだな?」
「雷使いの癖に、金属使いにビビれよ、むかつくな。」
「私の雷が金属に誘導されるとでも?」
「あー、そうだろーよ。だから勝てねーって言ってんだ……」
「お得意の身体武装で私を殴ればいーだろう?」
「お前が速すぎて一切当たんねーだろーが!」

 ……なんというか、先生は負けると思っていなくて、金髪のにーちゃんは負ける気満々。もしかしたら一度戦った事があって――例えばどうしようもなく相性の悪い戦いだったりしたのだろうか? とか、思って眺めていたんだけど……正直、金髪のにーちゃんが弱気な理由がわからなかった。
 先生は、授業では見せた事の無い結構本気。軽くけん制くらいの意味合いで放つ雷がオレの目には必殺技にしか見えないし、本人も雷になったんじゃないかってくらいに速いし、槍使いでないオレにもわかる槍の冴え。速度もパワーもある達人技の猛攻……しかも格好がいつもの先生スタイル――タイトスカートにヒールだというのにあの動きなのだからビックリだ。
 対して金髪のにーちゃんもとんでもない。身体を砂にして砂埃に紛れたかと思いきや、身体の表面を金属で覆った状態での近接格闘。全身ピカピカの金属光沢で光る、外見的にはちょっと面白い感じだけど――全身鎧の上に武道の達人という両立しなさそうな二つを合体したその攻撃は攻防パーフェクトで隙がない。柔と剛を併せ持ち、その上自由自在の金属を、時に巨大な剣に変え、時に巨大なハンマーに変え、先生のそれとはまた違う猛攻を繰り出す。
 そしてなんだかんだ的確な実況をしてくれるアルクさんの解説もあって、その戦いは――レベルが高過ぎて参考にはならないけど、ランク戦の熱気を大きく後押しした。


『やーやー、お二人ともありがとうございました! さてさて、熱い戦いを見てテンションマックスのみなさん! それじゃあ早速始めましょう! ご自分のカードをご覧あれ!』

 カード……対戦相手が表示されると言うカードを見る全校生徒。そしてすぐにざわつき始めた。

『この後すぐ! 各学年の一回戦、第一試合を始めまーす! 対戦相手と闘技場番号が表示された人は戦闘準備だよー!』

「……あたしは今日の最後あたりに初戦があるみたいだわ。ロイドは?」
「……第一試合だ。番号は七番。」
 オレはゆっくり立ち上がってエリルにグーを突き出す。
「行って来る。」
「行ってらっしゃい。」
 エリルの小さな拳をこつんと受け、オレは第一試合へと向かった。



「ふむ。どうやらわたしたち全員、今日中に初戦が行われるようだが……やはり一番槍は我らが団長だったか。」
「な、なんか……あ、あたしまで緊張してきたよ……」
「……リリー、あんたそのカメラは何よ……」
「ロイくんのかっこいいところを保存するんだよ? 妻として当然だね。」
「やれやれ、告白したかと思ったらもう奥様気分なのだな、リリーくんは。」
「あれれ、負け惜しみかな? 言っとくけどボクたちにロイくん好きって告白したってしょうがないんだからね? ロイくんに言わないと。」
「わ、わかっている、そんな事。勢い余ってどこかの誰かのようにはしたない告白にならないよう、準備しているのさ。」
「だ、誰がはしたないって!?」
「こんな時までそんな話するんじゃないわよ……」
「他人事のように……ふん、それは夫婦の余裕か?」
「ランク戦終わったらボクがロイくんと相部屋になるから、エリルちゃんのアドバンテージはなくなるんだからね!」
「だ、だから交換なんかしないわよ!」
「み、みんな……ロイドくんの試合、始まるよ……」
 こういう時一番冷静……と思ってるとちゃっかりチャンスを取っていくティアナが闘技場の真ん中にある舞台を指差す。
 先生が言った通り、さっきまでいた一番闘技場とこの七番闘技場に違いはないし、一度外に出てもう一度入っただけだから別の闘技場にいるって感じはしない。だけど明らかに、観客席を埋める生徒の数は減ってる。さっきの十分の一くらいになってる気がするわ。

『はーいこんにちわー! ここ、第七闘技場の司会を務めますは放送部のジェルクでーす!』

「……? さっきのアルクってのと同じ声よね……これ。」
「うむ……」

『ランク戦の始まりを告げる第一試合! 第七闘技場では一年生の試合が始まろうとしています! しかしこれは妙な事、普通なら一年生は一年生の、二年は二年で三年は三年の試合を観戦するものなーのーにー? ここにはちらほらと二年、三年の生徒がいるぞー! いやはや、しかしそれはしょうがないというモノ!』

 アルク――じゃなくてジェルク? のテンションの高い司会が響く中、中央の舞台に向かって二人の生徒が左右の入口から歩いてきた。
 二つあるスクリーンにはそれぞれの顔がアップで映し出されていて、片方のスクリーンに、そんな風にアップで映ってる自分の顔を見て「げっ」って顔をしてるロイドが映ってた。

『六月に突如転入してきた、ボロボロの服とのほほん雰囲気のいかにも田舎者っぽいこの男! なんだこいつはと思いきや、入学早々、我が校に通うクォーツ家のお姫様を狙ったA級犯罪者を撃退! 《ディセンバ》の本気を引き出し、先の侵攻では唯一の一年生チーム、『ビックリ箱騎士団』を率いてワイバーンと激闘! 天才と名高い史上最年少上級騎士を妹に持ち、十二騎士(オウガスト)の弟子である上に、それを使える者は今の時代にはいないと言われていた、歴代最強と言われた《オウガスト》の剣術の使い手! 舞い踊る剣を操るその姿からついた二つ名が『コンダクター』! もはやこの学院で知らぬ者のいない超大型一年生! その名は――ロイド・サードニクスーっ!』

 ワッて盛り上がる観客席。対してロイドは両手で顔を覆ってすごく恥ずかしそうにしてる。
「……この上S級と戦った事が加わったらとんでもない事になりそうだな、『ブレイズクイーン』くん。」
「そうね、『水氷の女神』。」

『上級生も注目のこの試合! さーさー始めましょうか! 一年生ブロック一回戦第一試合! 開――』
「ちょっとまてぇっ! 俺の紹介はねーのかっ!」

 もう一つのスクリーンに映るロイドの対戦相手――金髪がツンツンしたガラの悪そうな男子が喚く。
 まぁ、確かに……名前すら発表しないで始めようとしてたわね、ジェルク。

『えぇー? そりゃーキミが二つ名持ちの有名人なら紹介したけど、そーじゃないし。』
「そんなんでいーのかよ!」
『普通に考えたら負ける方のキミの名前を今紹介したって盛り上がらないもん。実況者は戦いを正確にお伝えする事と、しっかり盛り上げる事が仕事なんだよ?』
「誰が負ける方だ、コラァ!」
『この場の誰もが『コンダクター』の曲芸剣術が勝利するとこを見に来てるんだよ? そ、キミは負ける前提の空気なんだよー、わかる?』
「ふざけんな! だからって紹介もしねーってどーゆー事だ! 俺にはちゃんと――」
『今は紹介しないって話だよ、金髪の一年生くん。』
「あぁっ!?」
『いい? みんなの予想通りキミが負けたら、キミは『コンダクター』に負けただけのただの一年生。名前なんて紹介したところで誰も覚えない。でも――もしもキミが『コンダクター』に勝ったなら? その場合名前を紹介するべきタイミングは――勝った時というのが当然! 『コンダクター』を倒した俺の名前はうにゃららだーって高らかに叫ぶ! それこそが一番盛り上がる時!』
「お……おぉ……なるほど……」
『さぁ、名も無き金髪くん! 結果は二つに一つ! ただの引き立て役で終わるか、一躍有名人にのし上がるか! 全てはキミの戦いで決まる!』
「うおおおっ! やってやるぜ、オラァ!」

「……単純な男だな。」
「ロ、ロイドくん……すごい気まずそうな顔、してるね……」
「ロイくんてば恥ずかしがり屋さんだからねー。」
……そもそも、こういう場所で戦うっていうのも苦手そうよね、ロイド……大丈夫かしら。



「っしゃ、盛り上がってきたぜ! へへ、大体ホントに噂ほど強いのかって話だよな、『コンダクター』。」
 たくさんの人が見る中で戦う……フィリウスとの旅の中でも経験しなかった状況だな。
「《ディセンバ》とのバトルは見たけどよ、別に本気出させたのお前だけじゃないだろ? つまり、お前がダントツで強いってわけじゃねーわけだ。」
 確か十二騎士を決める――十二騎士トーナメントってのもこんな感じに観客がたくさんいるって聞いたな……フィリウスもこういう雰囲気の場所で戦って……でもって優勝して当時の《オウガスト》を倒して十二騎士になったわけか。
「A級を撃退したっつーのも、そもそも相手は学院の時間止めるので精いっぱいだったフラフラ状態だったんだろ? そんなん、その場にいりゃ俺だって撃退できたっつーの!」
 十二騎士……騎士として強くなろうと思ったらとりあえず出て来る一番上の目標……それがオレの場合、フィリウスと戦って勝つってことになる。
「侵攻だって、出してもらえたらお前より活躍したぜ? 剣くるくる回してとばしてるだけのピエロとは違うからな、俺は。」
 そうか……もしかしたらこのランク戦ってのが、最後に待つフィリウスとの一戦に続く最初の一歩なのかもしれないな。
「曲芸剣術とか言ってっけど、回して風起こして準備万端になるまで時間がかか――っておい、聞いてんのかお前!」
 エリルとの戦いも実現すれば――おお、なんかわくわくしてきたな。
「おい、『コンダクター』!」
「…………え、あ、はい、なんでしょう。」
「てめ――聞いてたか、俺の話!」
「……?」
「んのヤロウ!!」

『あーっと『コンダクター』、金髪くんなど眼中になかったかー!? それとものほほんと呆けていただけかー!? 早く始めないと『コンダクター』が昼寝を始めそうなので試合を始めますよー!』

昼寝って……いつの間にオレ、田舎で農業している感じの人のイメージになったんだ……?
「早く始めろ! こいつぶちのめす!」
 ……あれ、名前がわからないぞ、この金髪の人。考え事している間に紹介があったのかな。
 武器は――鉤爪って言うんだったか、あれ。

『では一年生ブロック一回戦第一試合! ロイド・サードニクス対金髪くん! 試合開始!』



 ジェルクの合図と同時に、金髪の人が雷を帯びながら飛び出した。先生と同じ第二系統の雷使いらしいそいつのこの速攻は、ロイドが曲芸剣術の……構えって言うのかしら? 状態になる前に一撃入れようって事なんだと思う。
 実際、ぼーっと突っ立ってる状態から剣を周りに展開させた状態になるまでちょっと時間が必要で、そこはロイドの弱点と言っていい。
 でも確か……プリオルとの戦いでコツを掴んだとか、渦巻きがどうとか言ってたから、その余計な時間が、今は短縮されてるかもしれな――

「だばあああっ!」

 何が起こったのか……ロイドに向かって突っ込んでったはずの金髪の人がロイドの後ろの闘技場の壁に激突した。まるで途中に立ってたロイドをすり抜けちゃったみたいに。
 だけど実際はそうじゃなくて、よく見るとロイドの位置がさっきの場所から五歩くらい前に進んでる。これはたぶん――
「《ディセンバ》の背後を取った時の動きだな。おそらく突っ込んできた金髪の彼の攻撃を避けると同時に背後にまわり……パンチかキックか、何かしらの攻撃を加えたのだろう。結果、金髪の彼は自身の速度とロイドくんの攻撃で壁にめり込んだ。」
「しょ……掌底……っていうのかな、手の平で押す感じの攻撃だったよ……」
「! ティアナには見えたのね? ロイドの動き。」
 超人的な視力――遠くのモノが見えたり、速い動きも捉えられるティアナの魔眼ペリドットは今の一瞬をしっかり見ていた。
「うん……後ろにまわったロイドくんは……手の平に空気の塊みたいのを作って、それを……金髪の人の背中に打ち込んでたよ……」
「おそらく、圧縮した空気だろう。それが破裂する勢いで金髪の彼を弾き飛ばしたのだ。しかし……最も驚くべきは後ろに回り込んで攻撃を加えたという事そのものだな……」
「そうね。あんなに速い動きで迫る相手の背中にまわって攻撃なんて……そんなタイミング、一瞬しかないわ。」
「ティアナの家での一件から夏休みの最後まで、みっちり修行したのだろうな。」
 ……? リリーが会話に入ってこないわね……
「えへへ……ロイくんてばカッコイイんだから……」
 隣を見たら、カメラ越しにロイドを見つめてニヤニヤしてるリリーがいた。

「くっそ! やるじゃねーか!」

 瓦礫を押しのけて金髪の人が立ち上が――ろうとするんだけど、なんかふらついてうまく立ち上がれないでいた。

「なんだこれ! 第八系統に幻術があるなんて聞いてねーぞ!」
「……幻術ではないですよ……」

 今の内に曲芸剣術の準備をするのかと思ったら、プリオルからもらった分も入れて合計三本の剣を腰にぶら下げてるロイドはそのどれをも抜かないで突っ立ったままだった。
 ただ……金髪の人に何か説明する感じのしゃべり方ではあるんだけど、視線は少し上を向いてる。

「あなたを後ろから押す時に、圧縮した空気をたくさん回転させながらあなたの背中に打ち込みました。一瞬だったから気づかなかったかもですけど、あなたはグルグル回転しながらその壁に突撃したんです。」
「んだとっ!? じゃあこのふらつきは――」
「ただの回転酔いです。」

「……! あれ、回転……してたんだ……わかんなかったよ……」
「ロイドくんの作る回転する風は、その回転があまりにきれい過ぎて回転しているように見えないからな……しかしロイドくんは何をしているのだ? まだ剣を抜かないとは……」

『これはすごい! 『コンダクター』が自分でバラしたので解説するけど、今の攻撃の最大の肝は何といってもタイミング! 金髪くんの突撃だってノロマなわけじゃなかったから、そこに攻撃を合わせたのはかなりすごいぞー! さー、グルグル回ってフラフラゲロゲロの金髪くんはどうする!?』
「うっせー! つか『コンダクター』、てめぇ! なんで攻撃してこねぇ!」
『それは確かに! 絶好のチャンスに『コンダクター』は空を見上げて立ち尽くすのみ! 剣すら抜いていないぞー!』

「……あの実況者、相当やるね。」
 カメラを覗いてたリリーがボソッと呟いた。
「なにがよ。」
「ロイくんが今何をしてるのかわかってるクセにあえてああ言ってるんだよ。さっきのロイくんの動きも普通に見えてたみたいだし、さすが実況者っていうか……それができるだけの実力者っていうか。」
「ロイドが何をしてるか……?」
「ふふ、魔法には敏感なエリルちゃんも気づかないくらい小さな規模の魔法で――今ロイくんはすごい一撃をお見舞いする準備をしてるんだよ? よーするに、あれがロイくんの言ってた――渦の力ってやつなんだねー。」

「なめやがって! おら、かかってこいよ『コンダクター』! 俺の雷をお見舞いしてやっからよ!」
「……こんなもんかな……」
「あぁっ!?」
「えい。」

 上を見てたロイドの視線が金髪の人に移った瞬間、ジェルクの実況しか聞こえてなかった闘技場に唸り声みたいな低い音が響き渡った。
 いえ、ちゃんと言うと――嵐の日の風の音がした。

「ぬあああああっ!?!?」

 瓦礫の中、ふらふらしながら片膝立ちだった金髪の人が突然地面にへばりついた。まるですごく重たいモノが背中にのしかかってきたみたいに。

『おーっと、これはどうしたことか! 金髪くんが、まるで重力系の魔法をくらったように地面にへばりつくー! しかしそれは第八系統の魔法ではないぞー!』

 周囲の地面にまで亀裂が入り、金髪の人の身体も地面にめり込み始める。
「な――んだ――こ、これは――!!」
「オレのオリジナル魔法です。きれいな回転と細かく制御できるらせん――それができるならできるだろうって言われて、練習したんです。」

 両手を腰に当ててむふーと、満足げな顔をしたロイドは目を閉じ、最後にぼそりと呟いた。

「『グラーヴェ』。」

 巨人がその場所に拳を打ち込んだみたいに、金髪の人を中心に半径十メートルくらいの地面が――陥没した。



「ロイくんおめでとー!」
 闘技場を出るや否や、飛びついてきたリリーちゃんを頑張って受け止めたオレは、まるで長い事離れ離れだったカップルが再会したみたいな感じにあたふたし、慌ててリリーちゃんから離れた。
「あ、ありがとう、リリーちゃん……」
「……とりあえず一回戦を突破だな、ロイドくん。」
 ひんやりした笑顔のローゼルさんはため息をつくといつもの顔に戻り、オレの腰――剣を指差した。
「結局使わないで勝ったな。そういう修行でもしているのか?」
「いやー……ただ、覚えた魔法を試したかったというか……らせんってのを覚えてからできる事が一気に増えてね。色々やってみたくなるんだよ。」
「ふむ。まぁ、魔法を駆使する相手には剣術や体術の効果が薄かったりするからな。良い事だろう。」
「そもそも、あんたの師匠のフィリウスさんってどっちかって言うと魔法の達人だものね。」
 珍しい事に、少し笑顔――つまりは嬉しそうなエリルがそう言った。
「体術と風の魔法で相手の攻撃を全部かわしたり防いだりして、溜めに溜めた風をまとった剣で一撃必殺をお見舞いってのがフィリウスの戦い方だからな。ところでエリル、なんかいい事あったのか?」
「べ、別にないわよ……」
「き、聞いてもいいかな……さ、最後の魔法って、どういう仕組み……なの……?」
 ペリドットを持つティアナが、たぶんそれでも見えなかったからか……興味津々という顔をオレに向ける。
「ああ、ただの風だよ。あの人の上に竜巻で道を作って、空の上の方から強風を叩きつけたんだ。周りに風が散らないように一点だけに集中させる事で、空気である風は重みを手にする――みたいな事をフィリウスに教わったんだ。」
「う、渦の力ってすごいんだね……そんな事もできちゃうんだ……」
「うん。これからは、曲芸剣術だけじゃない感じで戦えそうだよ。」
「……でもそのせいで、ずいぶんかっこいい感じにされてわね、ロイド。」
 若干ムスり顔に戻ったエリルにそう言われ、オレはだいぶ恥ずかしかった……あの金髪の人に勝ったあとのジェルクの言葉を思い出した。

『勝利したのはやはり『コンダクター』! 金髪くんはやっぱり負けた! しかし予想と異なる事が一つあったぞー! 『コンダクター』は誰に対しても音楽を奏でるというわけではないという事! 金髪くんは指揮を振るうほどでもなかった! 果たして、『コンダクター』の演奏を最初に聞くのは誰になるのかーっ!』

「……あれ、オレは何も言ってないのに色んな人を挑発してるよな……」
「でもあんた、意外と気に入ってるんでしょ? さっきの技名、音楽用語だったじゃない。」
「んまぁ……一応合わせてみました。」
 闘技場の前でそんな会話をしていたら、入口の横に立っている――係りの人というか先生というか、そんな感じの人がアナウンスをした。
「第一試合が全て終了しましたので、第二試合を開始します! 選手の方は指定の闘技場へ移動してください!」
「あ、次ボクの番だねー。」
「リリーちゃんは第二試合だったのか。えっと……他のみんなは?」
「わたしは第四試合、エリルくんが第五試合で、ティアナが第七試合だな。」
「そっか。よし、こっからは応援を頑張るぞ。まずはリリーちゃん!」
「勝ったらチューしてくれる?」
「えぇっ!?」
「どさくさに何言ってんのよ!」
「さっさと行くのだ、リリーくん!」
「が、頑張ってね……」


 そこから先、オレはずっと観客席にいた。

 リリーちゃんの試合は――開始速攻で終了した。使えないからどれくらいすごいのかわからないけど、たぶん桁違いに位置魔法の腕がいいんだろう。初めの合図と同時に姿を消したリリーちゃんは、たぶん相手がやられたことに気づかないくらいに鋭い一撃を背後――というか首にお見舞いした。相手はそれで気絶し、リリーちゃんは開始五秒も経たない内に勝利した。

 ローゼルさんは……夏休みに入る前よりも鋭い槍さばきと、魔法のキレを見せた。あとで聞いたのだが、『イェドの双子』の強さ……というよりは、どうもパムの魔法がキッカケでお父さんに修行を頼んだらしい。
水と氷の変換速度にそこそこ自信を持っていたのだけど、パムの尋常じゃない速さの魔法を見てまだまだだと実感したのだとか。そうして取り組んだ二週間の修行の結果、今のローゼルさんはとにかく攻撃の速さが上がっていた。その動きは舞うようで、少しプリオルを思い出す。
 もしかすると、新技の一つや二つもあるかもしれない。

 エリルは、これまたリリーちゃんのように試合を一撃で終わらせた。しかも、リリーちゃんのような急所に一撃というモノではなくて、物凄い威力を一発という感じで。
 《エイプリル》ことアイリスさんに鍛えてもらったと言っていたけど……エリルもアイリスさんも、ちょっと違うけど基本的に爆発を使うことは同じだし、色々と合うところがあるのかもしれない。
開始早々、相手との距離を文字通りの爆速でつめたエリルの、衝撃波で地面にひびが入るほどのパンチをお腹に受けた相手は爆炎に包まれながら超速で闘技場の壁にめり込み、それで試合が終わったのだった。

 と、ここまではオレも特に心配せずに試合を見ていた。だけど――別に弱いと思っているわけじゃないけど、距離で言うと中距離からの開始になるこの試合形式だと何かと不利な事になる超遠距離専門のティアナの番になると、オレは少し心配になった。
 しかし、オレのそんな心配は全く必要なくて――むしろ、一番驚く試合を見せてくれたのがティアナだった。


「これは……ティアナには相性が悪いかもしれないな……」
 我ら『ビックリ箱騎士団』の本日最後の試合。観客席から闘技場の舞台を見下ろしたローゼルさんが難しい顔をしてそう言った。
 闘技場の舞台にあがった二人の選手。大きなスナイパーライフルを肩にかけたティアナとその対戦相手。その相手というのが――

『さーさー! ここ第四闘技場の実況担当、デルクがお伝えする第七試合! これは中々の組み合わせだぞー! こちら、とても一年生とは思えない肉体を引っさげるは、本来ランク戦後に付くはずの二つ名を既に持っている生徒の内の一人! 通称『ドレッドノート』、アレキサンダー・ビックスバイト!』

 名前も二つ名も強そうなその対戦相手は、フィリウスをちょっと若返らせた感じで――要するに、ムキムキさんだった。とても同い年とは思えない強面のその人が手にする武器は巨大な斧。完全な近距離タイプだった。

『対するは! 二つ名はないものの、その名がかなり知れ渡っている『ビックリ箱騎士団』の一員! 他のメンバーの快勝具合から察するにこちらも相当な実力者! おどおど顔で巨大な銃をぶっぱなすスナイパー、ティアナ・マリーゴールド!』

 超遠距離からの狙撃を得意とするティアナに対し、接近戦で猛威を振るうであろうあの筋肉――ビッグスバイトさん。距離を縮められたらティアナには成す術が――
「……あれ? なんかティアナ、あんまり見ない服着てるな……」
「そうなんだ……わたしも、あんな格好をしているのは初めて見る。」
 このランク戦、別に制服でやるなんてルールはないから、人によっては動きやすい服――例えば体操着とかで挑む人もいる。
 そしてティアナが今着ている服は、体操着よりもさらに動きやすそうな服だった。半袖半ズボンをさらに短くしたような感じで……上に袖はなく、下も太もものかなり上の方から肌が見えている。
 まるで、できるだけ両手両脚を外に出したいが為に着ているような――そんな印象を受ける格好だった。
「動きやすそうではあるが……あれではちょっとした事がすぐにケガとなってしまう。大丈夫だろうか……」

「ふん、銃使いか。この俺と当たった事は不運だったな。」

 ティアナが銃を肩からおろし、戦闘準備に入るのを見ながらビッグスバイトさんがそう言った。

「遠距離武器の弱点は遠くに飛ぶ為にエネルギーを使う分、威力が落ちる事。そして威力のない攻撃など、いくら当たろうと恐るるに足らず。騎士が真に求るべきは、絶対硬度の身体と強力無比のパワー。それを、教えてやろう。」

 斧を構え、突進の態勢に身体を沈めるビックスバイトさんは銃を構えたティアナに余裕の笑みを向ける。

「俺の得意な系統は第一系統の強化。強化された俺の肉体に銃など意味はなく、そもそも強化された動体視力によって銃弾なんぞ止まって見える。お前に出来る事は、ない。」
『おーっと、自ら特技をバラす『ドレッドノート』! という事でバラしてしまうと、彼の得意技は全身強化! 簡単そうに聞こえるかもだが、彼の場合は桁が違う! 筋力はもちろん、視力とかの五感も鋭敏になり、瞬発力とは反射とか、人体が持つありとあらゆるモノが盛大に強化されのだ! 銃弾はおろか、剣で思いっきり切りつけようと、槍で刺そうと、頭に岩の塊を落っことそうとも、その肉体に傷はつかず、その全てを破壊する! この恐れ知らずの男に、スナイパーはどう出るのか!』

「純粋なパワー……前にフィリウスが言ってたな。熟練の技とか、巧みな技術も、時に圧倒的なパワーにあっさりと負けるって。あのムキムキさんは、そういうのを目指してるんだろう。」
「うむ……ティアナにとっては天敵のような相手だな。しかしこれを乗り越えてこそ、というのもあるだろう。あの格好から察するに、ティアナもS級との邂逅からこっち、色々と鍛えたに違いない。ふふ、ならばどっしりと見守ろうではないか。仲間の進化を。」

『ではでは、一年生ブロック一回戦第七試合! アレキサンダー・ビッグスバイト対ティアナ・マリーゴールド! 試合――開始っ!』

「先手必勝! これで終わりだ!」

 開始と共に、その巨体からは想像し難い速度で突撃したビッグスバイトさんは、その勢いのまま斧を振り下ろした。轟音と共にティアナの立っていた場所に立ちのぼる粉塵と瓦礫。エリルのそれと同じ、一撃必殺の威力の攻撃だったが――

「な――ぐあっ!?」

 ビッグスバイトさんの突進からの一撃を華麗にかわして背後まわったティアナが繰り出した鋭い回し蹴りは、ビッグスバイトさんの巨体を蹴り飛ばした。

「今の避け方、オレがみんなに教えているフィリウスの体術だ……でもオレ、教えるって約束はしたけど、あれから朝練は一度もしてないからティアナには……」
「それはそうだが……それよりもティアナの脚を見ろ、ロイドくん。」

『マリーゴールド選手の華麗な回し蹴り! しかしビッグスバイト選手のマッチョボディを蹴り飛ばすとは、あの細い脚にどれほどの――あーっと!? 細くない! ティアナ選手の脚が変化している!』

 飛んでいったビッグスバイトさんの方を眺めるティアナの脚は、まるで――肉食獣のような強靭な脚になっていた。
「あれって――形状の魔法だよな……でもあれ、形を変えたっていうよりは、もう別の生き物の脚だぞ……」
「『変身』だわ……ティアナ、自分の脚を変身させたのよ……!」
「えぇ? で、でも『変身』って、形状魔法の奥義みたいなもんだって、前にローゼルさんが……」
「そのはずだ……し、しかし魔眼の暴走で一時的に人間の身体とは異なる状態を経験しているからな……『変身』を使えてもおかしくはない気がするが――いや、それでも……それだけですぐにできるようになるモノでもないはずだ。」

「なるほど、少しはやるようだな。しかし――効かんな!」

 回し蹴りのダメージはこれっぽっちもなさそうに、スッと立ち上がったビッグスバイトさんは再び身をかがめる。それに対し、ティアナは――その脚を肉食獣の様な脚から、まるでカモシカか何かのようなスラッとした脚に変えた。そして、スナイパーライフルを右手に持っているのに加えて、それよりも小さい銃を左手に持った。

「ふん。どちらの銃でも、俺の身体は貫けん!」

 踏み込み、ティアナの正面に迫ったビッグスバイトさんは斧を振るう。しかしそれを難なくかわし、振った後の隙を狙ってティアナが小さい銃を放つ。だけどその銃弾は金属の何かに当たったみたいな音を立てて跳ね返った。

「効かんと言っている!」

 防御を一切とることなく、一撃必殺の斧を振り回すビッグスバイトさんに対し、そんな近距離からの猛攻を余裕でかわしながら……効果が無いとわかったはずの銃を撃ち続けるティアナ。

「あの脚の瞬発力とティアナの眼があれば、あの男の攻撃はいつまでやっても当たらないだろう。しかし、何故ティアナは銃を?」
「……なんか……オレには、ティアナが何かを調べているようにに見えるな……」

 しばらくそんな攻防が続いたかと思うと、突然ティアナが距離を取った。そしてさっきから何度も撃って何度も跳ね返された小さな銃をビッグスバイトさんに向ける。

「学習しない奴だな! そんな豆鉄砲、いくら撃とうと俺には効かん! その上距離を取るなど――その銃弾を掴むだけの余裕を俺に与えるだけだ! 止まって見えると、さっき言っただろう!」

 ビッグスバイトさんの少し苛立った声には無反応で、ティアナは小さな銃を……二回だけ発射した。
 普通、銃弾というのは視認不可能な速度で飛んでいくわけで、オレたちの感覚的には引き金を引くと同時に着弾するようなイメージがある。だけど、ティアナが放った二発の銃弾はそうならなかった。

「なにぃっ! どこへ――」

 着弾するはずのタイミングでそうならない事――いや、というよりはビッグスバイトさんには見えているのだろう……二発の銃弾の軌道が曲がったところが。それに驚いて銃弾を追いかけようと首を動かした瞬間――その二発は着弾した。

「――っぐあああああああっ!!」

 これまで全ての銃弾に対して鉄壁を誇っていたビッグスバイトさんは、その二発を受けて声をあげた――両目を覆いながら。

『あーっとこれはー! マリーゴールド選手の銃弾が初ヒット! しかもその場所は――目! 二発の銃弾は寸分の誤差もなく、ビッグスバイト選手の両目にヒットしたーっ! 実戦だったならこの時点で決着どころか絶命! ビッグスバイト選手、このランク戦のシステムに救われたー!』
「……身体がどんなに硬くても、そ、そこは硬くできません……硬くしたら動かなくなりますから。」

 ボソッとティアナが呟くとビッグスバイトさんが――痛みに耐えつつ、目をつぶったままニヤリと笑う。

「ふ、ふはは! これで――ぐ、勝ったつもりか? 目を失おうとも、俺にはお前の位置がわかる! 他の五感は生きているからなぁ!」

 強化した聴覚とか嗅覚があれば、確かに見えていなくてもティアナの場所を把握できる。できるが……

「そして! 見えていようといまいと関係のない攻撃方法が、俺にはあるのだ!」

 斧を大きくかかげ、そのまま振り下ろすビックスバイトさん。闘技場の舞台に強烈な衝撃波が走り、地面を砕く。しかも一回だけでは終わらず、その攻撃を何度も放った。

「どうだ! どうだぁ! いかに素早かろうと全方位に放たれる破壊の波! かわせるモノではないぞ!」

 まだまだ勝つつもり満々のビッグスバイトさんだったが……きっと、その攻撃をしたせいでイマイチ把握できていないのだろう。
 観客にいるオレたちからすると、相当間抜けな事をしている自分に気づいていない。

「はっはっは! さて、どこにいるスナイパー! その息遣いで、心臓の音で居場所を伝えるといい! この一撃で瀕死となったその身体にとどめを――」

 そこでようやく気付いたらしい。ビッグスバイトさんは意味が分からないという顔で、見えていないくせにキョロキョロと首を動かす。

『あー……えっと、これは実況していいのかどうか微妙なのですが……いえ、ここは盛り上がる実況を優先しましょう! ビッグスバイト選手の攻撃は全くの無意味! 何故なら今、マリーゴールド選手は――遥か上空にいるのだから!』
「なにぃっ!?」

 さっきボソッと呟いた後、ティアナはその脚で真上に跳躍し、そしてその両腕を鳥の翼に『変身』させた。そしてもはや肉眼では点にしか見えない高さに、今ティアナはいるのだった。

『第九系統の形状、その上級魔法である『変身』を部分的にだが実現しているマリーゴールド選手! しかしこの、腕を翼に変えて飛翔という行為は、先ほどの獣の脚とは比べ物にならない難易度! なぜなら人間に翼はないから!』

「えっと……どういう意味だ?」
「……形状魔法で『変身』が難しいって言われる理由は――人間の身体とは違う形を操らなくちゃいけないからなの。」
 肉眼では全然見えないけど、どういう仕組みなのか闘技場のスクリーンには遥か上空のティアナが――両腕を翼に変えて空中でとどまっているティアナが映っている。その姿を見ながらエリルが説明してくれた。
「あたしたちが自分の腕とか脚を自由に動かせるのは、そういう風に身体ができてて、しかも生まれた時からずっと動かしてきたからで……要するに、動かし慣れてるから。だから形状魔法でちょっと形を変えたとしても、根本の構造が変わらないならなんとか動かせるわ。でも、『変身』はそうじゃない。」
「……そうか……同じ脚でも、人間の脚と獣の脚じゃ骨の形や筋肉の付き方――なんていうか、コンセプトが違うもんな。その上翼なんて……実況でも言ってたけど、人間にはないモノだから、どうやって動かせばいいのか全然わからない……」
「その通りだ。」
 うんうん頷くオレに相づちを打つローゼルさんは、ルームメイトの活躍に嬉しそうな顔をしていた。
「自身の身体を構造から変えられるほどの高度な魔法技術だけではなく、生物的な知識も必要となる……だから『変身』は難しい。その範囲を全身にできる者がいれば、その者は第九系統を極めたとか、第一人者とか呼ばれても差支えないだろう。それを、一部とはいえあそこまで……」
「ふふふ。ティアナちゃんてば、すっごい成長したね。」

「ぐ、見えん! くそ、降りてこい卑怯者め!」

 斧をぶんぶん振り回す――なんかもう、二つ名がある強い人には見えなくなったビッグスバイトさん。
 そしてティアナは、別にその言葉でそうしたわけじゃないだろうけど、ふっと両腕を元に戻し、スナイパーライフルを構えた状態で落下を始めた。

「……目もそうだけど、か、身体を硬くしても……か、関節とかはやっぱり、そんなに硬くできない……そんな事したら、銅像になっちゃうから……」

 落ちながらスコープを覗き、狙いを定めるティアナ。
 多少銃口が狙いからそれてもティアナには関係ない。だからこそできる撃ち方。
「……そっか。空に上がる事ができるなら、近距離から戦闘が始まっても自分の距離に持っていける……すごいな、ティアナ。」
「そうだな。たぶん今はできないのだろうが……あの翼を、例えば腕はそのままに背中から生やす事なんかができるようになったら、ティアナは相当厄介なスナイパーになるぞ。」

「さっき……拳銃を使って、あなたの弱点を調べました……今からそこを、撃ち抜きます……えっと、だから……もしももう一度言えたなら言ってみて下さい……」

 スクリーンに映る、真下を向いた状態でスナイパーライフルを構えるティアナは、だいぶ珍しい――ムッとした顔でこう言った。

「いくら当たろうと恐るるに足らず――って。」

 マシンガンのような速射で放たれる数発の弾丸。空から降り注いだそれらはビッグスバイトさん手前でその軌道を変え、恐らくそこを撃ち抜くのに最適な角度で右から左から、全身のあらゆる場所を――強化された身体の弱点、極わずかな関節部分の隙間を撃ち抜いて行く。
 それはまるで無数の狙撃手に囲まれて一斉射撃を受けたかのようで、ビッグスバイトさんは数発の弾丸によって数十か所に風穴を開けられて膝をついた。

「が……あ……」

 獣の脚で音もなく着地したティアナは、すたすたと歩いてビッグスバイトさんの前に立った。

「え、えっと……あなたの負けです……から、降参して下さい……」
「…………馬鹿め……」

 どうやら気絶か降参が負けの条件らしいこのランク戦なので、まだ意識のあるビッグスバイトさんにそう言ったティアナだったが、ビッグスバイトさんは「してやったり!」って顔でニヤリと笑った。

「強化できるのは力だけではない! 治癒能力を強化する事でこの程度の傷は瞬時に――」

 つぶっていた目をカッと開き、斧を手に取って目の前に近づいていたティアナに襲い掛かったビッグスバイトさんだったが――

「――がはぁっ!」

 両手両脚を熊の様な強靭な四肢に変えたティアナのアッパーをアゴに受け、ビッグスバイトさんは仰向けにズズンと倒れた。

『決着ーっ! 圧倒的なパワーが売りの『ドレッドノート』は、的確に弱点を撃ち抜いてきたスナイパーに――文字通り成す術なく敗北ー! 以前の侵攻にて『ビックリ箱騎士団』の後方支援を担当していた彼女もやはり、ただ者ではなかった! 一年生ブロック一回戦第七試合! 勝者、ティアナ・マリーゴールド!』

 観客席からの歓声と拍手を受け、大きな銃を担いだ女の子は恥ずかしそうに手を振った。



 ランク戦初日。その日の試合は全部終わって、時間が時間だったから全校生徒が学食に押し掛けた中、そんな混み合ったとこに行きたくないあたしたちは――なんでかやっぱり、あたしとロイドの部屋に集まった。
 話題になったのはやっぱりティアナで、教えてないロイドの体術とか、『変身』の魔法とか、いつの間に拳銃も使うようになったのかとか、色んな事を質問されてた。
「ふむ。ではやはり、諸々のキッカケは『イェドの双子』だったわけか。」
「う、うん……ロイドくんの戦いを……この眼で見た事が……始まりかな……」
 ペリドットを通してロイドとプリオルの戦闘を見てたティアナには……本人が言うに、プリオルの方はレベルが高過ぎてよくわからなかったらしいんだけど、ロイドの動きはしっかりと理解出来たとか。
 その上、魔眼の暴走がキッカケで形状の勉強をみっちりして治癒すらできるくらいに人体に詳しくなってたティアナには、ペリドットで理解したロイドの動きをどうすれば再現できるかがわかったらしい。
 つまり、ペリドットで捉えられてその動きを理解できるなら、ティアナは見ただけで体術を習得できてしまう状態にあるって事。
「や、やってみたら……ロイドくんがやってたようにう、動けるようになって……で、でもやっぱりあ、あたしの身体じゃ少し力が足りなかったりして……だから……脚とかを強い形にできればいいなと思って……ロ、ロイドくんの動きを見て理解したのと同じり、理屈で……家の周りに住んでる……野生の生き物の動きを、観察して……そうすれば上手くいくかなって……」
「……高い筋力や瞬発力を持つ野生の生物の脚の形を参考にする為に、その動きをペリドットで見て、さらに生物学の本からその脚の構造を勉強して、いざより力の出る脚に形を変えてみたら――結果的に『変身』になったと……」
「う、うん……えっと、たぶん、前に暴走しちゃった時に……変な形っていうか……人間とはちょっと違う形っていうののけ、経験があったっていうのもあると……思うけど……」
「うーんと? つまりティアナの『変身』魔法は――魔眼の暴走と、それを何とかしようとした経験と、オレの動きを真似したらなんかできちゃったっていうキッカケで完成したって事か。」
「う、うん……い、いつもペリドットを発動させておくっていう……ロイドくんのアドバイスのおかげでも、あるよ……い、色々、ロイドくんのおかげ……だね……」
 俯いて顔を赤くするティアナ。
「そう言われると照れるけど……んまぁ、良かった。」
 ……本人にそういう自覚があるかどうかはわかんないけど、人前で人じゃない何かに形を変えるなんて、あんまりやりたくない事をこのティアナが堂々と出来たのもたぶん、ロイドのおかげだと思う。
 暴走した時の姿を見ても普通に接したロイドがいたから……
「そういえばあの試合、ティアナちょっと怒ってた?」
「うん……なんか銃っていうのをバカにされたような気がして……」
「なるほど。お爺ちゃんからもらった銃だもんな。そっちの小さいのも?」
「うん……あ、あたしでも片手で撃てるくらいに軽い、お爺ちゃんの手作り。」
「おぉ、伝説のガンスミスの作品なわけか。かっこいいなぁ。」
「カッコイイと言えば、あれだけ派手に勝ったからな、ティアナにも二つ名が付くんじゃないか?」
「なんとかスナイパーとかかな。リリーちゃんにも付きそうだね。」
「でもリリーは、なんとか商人とかになりそうね。」
「えー、強そうじゃなーい。」
「……二つ名ねぇ……あの『ドレッドノート』っての、もしもあたしの相手だったらあの硬い身体にダメージ与えられたかしら……」
「うーん……大丈夫じゃないか? エリルが本気パンチすると尋常じゃない威力になるし、なんか夏休みでさらにパワーアップした感じだし。」
「そ、そう? まぁ、《エイプリル》にアドバイスもらったしね……」
「ああいう相手に、オレもその内当たるわけか。変な言い方だけど、フィリウスとかプリオルみたいに笑っちゃうくらいの実力差はないはずだし、勝ちたいな。」
「…………あの女も、ああいうのの一人なわけよね……」
「ああいうああいうって、きみら二人もそうだろうに……っと、そろそろいい時間ではないか?」
 部屋にかけてある時計は、学食のピークの時間をだいぶ過ぎたところを指していたから、あたしたちは少し遅い夜ご飯へと出かけた。


「あー、ロイド! 奇遇だねー。」
 最悪な事に、学食の入口でばったり――アンジュに会った。しかも出てきたんじゃなくてこれから入ろうとしてる。
「ア、アンジュ……えっと、アンジュも今からご、ごはんなのですか?」
 顔を見た瞬間に顔を赤くしたロイドが目をそらしながら変な言葉遣いでそう尋ねると、アンジュはその視線の先にそそっと移動して、ニッコリ笑った。
「うん。」
「そ、そっか……」
「うん。」
 ついっと視線を動かすロイドだけど、アンジュはそれについていく。
「誘ってくれないのー?」
「え、えっと……ア、アンジュも――い、いやその、ダメだ……」
「えー、なんでー? ちょっとショックだよ?」
「だ、だってアンジュの顔見ると――お、思い出し――ちゃってご飯どころじゃなくなっちゃうというかなんというか……」
 こんな女でも誘おうとするところがロイドだけど、こうやって正直に言うのもロイドよね……
「――!」
 そしたら……ちょっと意外な事に、一瞬だけアンジュが焦った顔になった。でもすぐに表情を変えてやらしく笑う。
「ふーん? へー? ロイドって結構ムッツリさんなんだねー。ふふふ、かーわいっ。」
 長いツインテールを揺らしながらくるりと背を向けたアンジュはニヤニヤした横顔をあたしたちに向ける。
「そーゆー事なら、ロイドがその記憶に慣れちゃわないように、ずっと悶々させる為に、あたしは離れた席からロイドを見つめるよ。」
 一足先にアンジュが学食に入って行くと、ロイドはだはーっと息を吐いた。
「ロイくん、嫌いな奴にはちゃんと嫌いって言った方がいいんだよ?」
「べ、別に嫌いってわけじゃ……第一印象というか、出会い方というか、そういう感じのが……強烈過ぎて……」
「エロロイド。」
「スケベロイドくん。」
「ロ、ロイドくんのえっち……」
「えぇっ!?」
 みんなに散々言われながら学食に入り、料理を受け取って席についたロイドはしゅんとしながらリンゴジュースを飲む。
「ま、まぁ前にも言ったがロイドくんも男の子だからな、そういう風になるのは仕方がない。うむ、わたしは理解しているぞ。」
「うぅ……」
 全員が席に着くと、顔を赤くしたロイドが――なんかブスッとした顔であたしたちに聞いてきた。
「な、なんかオレだけ恥ずかしいから聞くけど、み、みんなはどうなんだ? た、例えば――前にフィリウスの半分裸みたいな状態見たじゃんか。ああいうのを思い出したりしちゃったりしてるんじゃないの!?」
「ふむ……残念ながら、筋肉にドキドキする女性とそうでない女性がいて、わたしは後者だ。」
「えぇ、あ、いや、男の裸って意味なんだけど……」
「フィリウスさんのは――ちょっとやり過ぎててなんとも思わないわね……」
「えぇ……じゃ、じゃあオレがこの場で裸になったら――」
「燃やすわよ。」
「ごめんなさい……」
「ふふ。ま、いつもバカ正直な言動でわたしたちを――その、なんだ、ドギマギさせるロイドくんへの仕返しだ。」
「えぇ? オレなんかした?」
「……あんたいつも真顔で……か、かわいいとか美人とか言うじゃない……」
「あ……ああ。それか……」
「そうだぞ。この際だからバラしてしまうが……夏休みに入る前にフィリウスさんが来た時、ロイドくんと話があると言って、二人だけで話していた事があっただろう? 実はその時の会話、フィリウスさんのいたずらでわたしたちに筒抜けだったのだ。」
「フィリウスと話? えっと、何話したんだっけか……」
 あごに手を当てて思い出す事数秒、ロイドは赤くなりながら青ざめるっていう器用な顔になった。
「まま、まさか……? え、えぇ!?」
「あの時は心臓が破裂するかと思うくらいに恥ずかしかったんだからな……」
 ちょっと赤くなって口をとがらせるローゼル。
 あの後、あたしもしばらくロイドの顔を見れなくなったわね……
「わたしは――美人で親切で優しいめんどくさがり屋……なのだろう?」
「あたしは頑張り屋さんだったわね……」
「じゅ、純粋でキラキラで……癒されるって……」
「ボク、ミステリーで元気な女の子。」
「ひぃっ、やめて下さい!」
 ランク戦で恥ずかしく紹介された時と同じ、両手で顔を覆ったロイドはなんか面白かった。

「おー、いつもと逆だな。」

 そんな感じでロイドをいじめてると、あたしたちがいるテーブルの横に料理を持った――え、誰よこいつ。
「ん? おいおい、クォーツ、そんな「誰よこいつ」的な顔を向けるな。私は一応、お前の担任なんだぞ?」
 担任……? あたしたちの担任はせんせ――
「! まさか先生なの?」
「失礼な教え子だな……」
 驚くのもしょうがないって言うか……いつもの先生のカッコじゃないのよ。
 やる気なさそうないつもの顔にピッタリの――適当な部屋着とおろした髪。同じなのは眼鏡だけだわ……
「せ、先生……どうして、そんな格好……なんですか?」
「だぼだぼの服着てるマリーゴールドにそんなとか言われたくないんだが……なに、私は風呂に入ってから飯を食う派なんだ。念願叶って先生やってる私でも、部屋着まで先生スタイルじゃないさ。」
 そう言ってあたしたちの隣のテーブルに座った先生はカレーを食べ始めた。
「……! ホントだ。ずいぶん印象が変わりますね、先生。」
 顔を覆ってたロイドが赤い顔のまま横を見て驚く。
「なんていうか、姉御って感じでカッコイイですね。」
「そうか? 惚れるなよ。」
 言葉をつまらせるロイドをニシシと笑う先生は、こうして見ると……女のあたしが言うのもあれだけど、モテそうだった。そんな先生を見たからか、物怖じしないリリーがスパッと聞いた。
「せんせーは恋人とかいないの?」
「お、ついにお約束の質問が来たな? 残念だがいないぞ。私の求める条件に合う男がなかなかいなくてな。」
「じょ、条件……あ、あたし、それ、気になります……」
「んー? まず第一に、私と同等かそれ以上の強さでないとな。」
「随分厳しい条件ですね……それだと当てはまる男性は相当限られますよ。」
 優等生モードのローゼルが苦笑いを浮かべる。
 国王軍の指導教官と言えば上級騎士相手にも指導する立場。そんな先生より強いとか言ったら十二騎士くらいしか残らないわね。
「第二に、私は家事系全部ダメだからな。その辺が出来るか、もしくは私と同じにそういうのを気にしない男でないと。」
「見るからにダメそうだもんねー。」
「ケンカ売ってるのか、トラピッチェ。」
「……あれ?」
 呆れ顔でリリーを睨む先生の横、だんだん元に戻って来たロイドが眉をひそめる。
「あとはまぁ……私にエロいことを期待されても困るからな、その辺が適当なのがいい。」
「えぇ? それだと先生……フィリウスなんかいいんじゃないですか? 強さは充分でしょうし、あいつも料理とか掃除洗濯できない男ですし――エ、エロい事はたまに言いますけど言うだけですし。」
「……まぁ、あの筋肉だるまは確かにいい線行くんだが……私はセルヴィアとガチバトルしたくないぞ。」
「あー、そうか……あれ? 名前で呼ぶって事は、先生ってセルヴィアさんと親しいんですか?」
「ああ。通ってた騎士の学校は違うが、同い年だ。ま、同期ってやつかな。」
「……先生にも学生の時があったのよね……」
「そんな風に言われるほどまだ歳取ってないぞ、クォーツ。」
 カレーをもぐもぐしながらあたしを睨む先生は、それでも学生の頃を懐かしく思い出したのか、ふふっと笑った。
「……今も対して変わんないが、私は――強くなる事に恋した口だったからなぁ。お前らくらいの時は、誰が好きだどうだとか、さっきみたいな求める男の条件なんてのは考えた事もなかった。」
「セルヴィアさんも――なんですかね。」
「だろうな。まぁ、あいつの場合は今の今まで誰にも惚れなかったってだけだろうよ。」
 やんわり微笑んだ先生は、スプーンでビシッとあたしたちを指して言った。
「自分を反面教師にするわけじゃないが、学生っつー時期が色々な事をあんま気にしないで恋だのなんだのの青春をする一番のタイミングだからな。目いっぱいやるといいぞ。」
「青春……なんかフィリウスもよく言うんですよね。青春しろって。」
「年頃の弟子にかける気の利いた言葉が思い浮かばないだけだろう、そりゃ。ま、間違っちゃ――いや、しかしどうなんだ?」
「? 何がですか?」
「それだけが青春の中身じゃないだろうが、恋愛的なモノに関して言えば……想いが伝わる伝わらないで悶々としたり、好きって気持ちが強すぎて暴走したり、自分が誰に惚れてるかもよくわからないでただただ嫉妬したり……勉強よりもよっぽど頭を悩ませるモノだからな……先生の立場で言うなら、ほどほどにして勉強しろって言うのが正しいのかもなぁ……ふむ。」
 そういえば先生になってまだ一年目の先生は、そんな事をぶつぶつ言い始めた。



 学食での夕飯を終え、オレたちはおやすみを言ってそれぞれの部屋に戻った。風呂に入り、パジャマに着替え、自分のベッドに転がったオレは……先生の最後の言葉を思い出していた。

『自分が誰に惚れてるかもよくわからない。』

 前にリリーちゃんに、オレの好きな人を聞かれた時、オレは恋愛マスターからのアドバイス……というか教えのもと、そういう事は好きな相手に初めに言う事にしていると言って、好きな相手がいるかいないかも答えなかった。
 その時のオレは、正直に言えば――特に好きな人はいなかった。いや、自分はそうだと思っていた。
 だけどリリーちゃんに告白された時、オレは答えられなかった。リリーちゃんは可愛いし、気心も知れてるし……別に嫌いな人じゃない……というか、結構好きな部類に入るというか……
 そ、それでもオレは答えられなかった。突然の事にびっくりしてってのもあったけど、それ以外に――何か心に引っかかったのだ。
 それが何なのかわからないまま今日まできたわけだけど……先生の言葉でハッとした。いや、普通に考えればそういうことだろうって気づきそうなもんだけど、さっき初めて気づいた。

 オレは――誰かに惚れているんじゃないか?

「……」
 むくりと起き上がり、向かいのベッドで寝る準備をしているエリルを見た。
「……なによ……」
 ムスッとした顔を向けてくるエリル。そんな顔にも慣れたというか、本当にムスッとしているかどうかの見分けもつくようになった。
「いや……明日も頑張ろうな、エリル。」
「当たり前よ……電気消すわよ。」
「ああ。おやすみ、エリル。」
「おやすみ、ロイド。」
 誰かに――か。
 それは……どうやったらわかるんだろうか。

『騎士物語 第四話 ~ランク戦~ 第二章 一回戦』

色々な生徒を登場させるということは、それだけ名前を考えなければならないという事です。
お気づきの方もいるかもしれませんが、この作品のキャラクターの名前は大部分がある法則でつけられています。

材料は豊富なのですが、調理が難しいのです。

『騎士物語 第四話 ~ランク戦~ 第二章 一回戦』 RANPO 作

ついに開幕のランク戦。 『イェドの双子』の一件から新学期まで、それぞれに修行をしてきたロイドくんたちはそれぞれに進化していた。 そして一番の進化を遂げたのはなんとティアナで――

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2016-02-06
Copyrighted

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。