火

 大きな鮭は私を責める。多くの身の中に大きな期待が含まれている。古いアポロの火。今日、指摘されている火の起源についての話。はじまり、はじまり。
 鮭を食うと水槽にいる魚が、にらむ。いつの間にか、仲間意識でも芽生えたのだろうか。普段は食卓に並ばない熱帯魚たちなのに。何故、彼らにまで、嫌われなければならないのだ。いきどおるが、誰も慰めてくれない。当たり前だ。ここは、無人島。豪華客船が幽霊船になったような、工場跡を残して全ての人間たちは行ってしまった。この島の川で鮭が取れることを知ったのは、つい一週間前だった。今まで植物を食べていたが、ふいに“ニクを食べる”という行為を試してみたくなったのだ。美味なるかな。それから一週間連続で食事は鮭である。当然、今まで仲間だった熱帯魚たちから非難の目を向けられるようになった。それが、居心地の悪いこと。別れを切り出すのに、そんなに時間はかからなかった。カクレクマノミは、もう二度と笑うことはない。少なくとも目の前では、絶対に。人間たちの残した残骸から、奇妙な物を見つけたのは、その日の夜だった。爪でひっかいてみると、甘いにおいがする。ビニール製の袋のようだ。ふいに、夢を見た。魚たちと、海を泳ぎまわる夢だ。そして、そのまま、ふらふらと、島の東の岬にやってきた。雨が降ったのだろうか。ミミズたちが、おはよう、と挨拶してくる。そうか。もう朝なんだ。意識は桃源郷を、さまよっている。岬の壊れた灯台から、太陽の光で輝く海が見える。この光景を眺めてしまうと、鮭を食べる、食べない、は、どうでも良い気がしてくる。そうだ!!このまま、絶対に鮭を食べないと約束してしまおう。素晴らしい思いつきに喜んで家に帰ってみると、魚たちは、もう、そこにいなかった。海に帰ったのだろう。そうか。決して魚とは、わかりあえないのだな。呆然と、失意の中、やわらかな草に寝転がる。そもそも、鮭を食べたのが間違いだったのか。まどろんでいると、大きな光が近づいてきた。焼ける!焼ける!恐怖を感じて、はねおきる。
「私は、アポロという。お前に火を授けようと思う」光から、そんな声が聞こえてきた。火については、私も知っていた。たまに嵐が来て、雷が落ちると、発生するものだ。この島も、たまに火が発生している。あの熱い恐怖を思い出すたびに身がすくむ。そんなものいらない。「いりません」とオドオドしながら答える。光から、もう声は、聞こえなかった。どこかへ去っていく。
 それから、どのくらい時間が立っただろうか。また光が、やってきた。「火を与えたよ。お前は、後悔に打ちひしがれるだろう」そして、目が覚めてみると、周りに鮭がいる。「ワレワレハ火の主だ」鮭に縛られ、火が起こされているところに連れて行かれた。さて、どうするか。逃げ出そうと思えば逃げ出せる。ただ、起こされた火を見てみると、とても神秘的に見えた。焼けたネコ。それも、面白いかもしれないな。好奇心から火に身を投げると、予想通り快感が襲ってきた。そうだ。この火は、温かい胎内なんだ。やがて、私の思考は、消失してなくなった。

物語作家七夕ハル。 略歴:地獄一丁目小学校卒業。爆裂男塾中学校卒業。シーザー高校卒業。アルハンブラ大学卒業。 受賞歴:第1億2千万回虻ちゃん文学賞準入選。第1回バルタザール物語賞大賞。 初代新世界文章協会会長。 世界を哲学する。私の世界はどれほど傷つこうとも、大樹となるだろう。ユグドラシルに似ている。黄昏に全て燃え尽くされようとも、私は進み続ける。かつての物語作家のように。私の考えは、やがて闇に至る。それでも、光は天から降ってくるだろう。 twitter:tanabataharu4 ホームページ「物語作家七夕ハル 救いの物語」 URL:http://tanabataharu.net/wp/

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-02-04

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