湖畔のバーム
大人も楽しめる童話です。
森の中、湖のほとりにある小さな家。
そこからお爺さんと小さな男の子が出て来ました。
ふたりがさざ波の際まで来ると沢山の鳥たちが集まります。
お爺さんは持っていた袋に手を入れると勢いよく広い範囲にパンくずを撒きました。
男の子もお爺さんの真似をして一緒に撒きます。
静かだった森は沢山の羽音と様々な鳴き声と大きな水音で、さながら楽団の演奏会。
「リュートはパンくずをあげるのが上手だな」
お爺さんは「ほっほ」と笑いながら男の子の頭を撫でました。
「でもお爺ちゃんみたく遠くまではなげられないや。お爺ちゃんはパンくず名人だね」
そう言ってお爺さんを見上げる眼差しは尊敬そのもの。
お爺さんは照れたようにまた「ほっほ」と笑いました。
「でもお爺ちゃん」
リュートは急にちょっとだけ真剣な面持ちでお爺さんを呼ぶと言葉を続けます。
「お爺ちゃんは一人で森のお家に住んでて寂しくないの?ボクのお家でみんなで住もうよ。街には電車もバスもあってデパートもあるよ。そうだ!ボク、お爺ちゃんになら大事なゲームも貸してあげる」
孫の突然の提案にお爺さんは目を丸くして驚いた後、今度は大きな声で嬉しそうに笑いました。
「そうかそうか、リュートは優しいな。でもな、ジジはここに居るよ」
お爺さんはそう言ってまたパンくずを撒きます。
「どうして、どうして」
お爺さんの上着の袖を引っ張りながら言いました。
リュートはパンくずを撒くのをすっかり忘れてしまったようです。
やれやれといった表情でお爺さんは袋の中の最後のひと掴みを撒くとリュートを近くの大きな切り株に座らせて、自分もその横に腰掛けました。
「約束をしたんじゃ」
「約束?」
「そうじゃ。ずっと昔に友達と約束をしたんじゃ」
お爺さんはそう言うと切り株の年輪を指でなぞりながら昔話を始めました。
湖畔のバーム