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騎士物語 第四話 ~ランク戦~ 第一章 プリンセス襲来

RANPO 作

第四話の第一章です。
第四話にしてようやく学院側のイベントです。

そしてようやく、ロイドくんら以外の生徒の登場ですね。

第一章 プリンセス襲来

 夏休みも今日で終わり、明日からセイリオス学院の二学期が始まる。
 そしてこの夏休みには、思い返せば……とかしなくても思い出せる大きな出来事が二つあった。

 一つは、S級犯罪者『イェドの双子』の男の方、プリオルとの戦い。
 相手は実力の半分も出していない状態だったから、勝ったと自慢できるような結果ではなかったけど、この戦いで得たモノは多かった。

 まずは曲芸剣術の――と言うよりは第八系統の風の魔法の上達。
回転の応用である渦――かっこよく言うとらせんを覚えた事で、大きな風を今までとは比べ物にならないくらい早く生み出せるようになった。ついでに回せる剣も増え、オレの曲芸剣術はかつての《オウガスト》にまた一歩近づいた。

 次にプリオルから勝者への景品としてもらった増える剣。
この剣には名前がない上、そういう剣が存在したという記録もない。おそらく、どこかの誰かがひっそりと作っていたのだが、完成と同時にプリオルに奪われた……という事ではなかろうかというのが調べた結果の結論だった。そしてプリオルの言う通りであれば作った人物も、もうこの世にはいない。
 一応S級犯罪者のモノなわけだから回収されるのかと思っていたのだが、その存在が今初めてわかったようなモノが何かの手掛かりになるわけもないし、名前も持ち主もいないなら、それはついさっきまで持ち主だったプリオルからもらった大将のモノだ――というのがフィリウスの言葉で、結局オレはこの剣はオレのモノとなった。
 この剣は――手を叩いたり、指を鳴らしたりするとその数が増えるのだが、プリオルが言っていたように増やせる本数は使用者の魔法の技量で決まる。
 魔法というのはそもそも、周囲にあるマナを皮膚を通して身体の中に吸収し、それを魔力へと変換、そこに魔法陣やら呪文を加える事で不思議な現象を引き起こす行為を指す。
 この剣は使用者が体内に溜めている魔力を吸い取り、剣に組み込まれた術を発動させる事でその本数を増やしているらしい。一応、系統的には第一系統の強化になる。
 一度に吸収できるマナの量やそれを魔力に変える際の変換率、身体の中に溜めて置ける魔力の量というのは魔法の上達と共に増えていくモノなわけで、つまり多くの剣を作り出すのに必要なのはずばり魔法の技量になるわけだ。
 今のオレの場合、剣を作る事にのみ集中すれば百本くらいは出せる。だけど実際は曲芸剣術との併用になるわけで、そうなると二十がいいところだ。
 それでも、いつも持ち歩いていた剣が二本だったオレにすれば、この剣を追加するだけで常に二十以上の剣を持ち歩く事になるわけだから、これはかなり嬉しい。
 その内この剣にも名前も付けなきゃいけないが……さてどうするか。

 そして実はもう一つ、プリオルがいなくなってから初めて気づいたプリオルからの贈り物があったわけだけど……それはまぁ、次の機会にでも。
 今はそれよりも重大な事があるのだ。

 夏休みに起きた大きな出来事の二つ目……それはリリーちゃんにこ……告白されたという事だ。
 ほっぺにキスされたり、妙にくっついてきたりするから……そうなんじゃないかと考えてみたことがないわけでもないのだが、しかし自意識過剰なんじゃないか、オレ? と思って首をふっていたところにく、唇へのキスと一緒に告白がやってきた。
 告白されたらお返事をするのが礼儀というかマナーというか……だけどオレは何も答えられなかった。
 するとリリーちゃんは――

「え、えっと……オ、オレ……その、こういうの初めてで――ああいや、関係ないか……で、でもオレなんて言ったら……嬉しいのは確かなんだけど……」
「うん。ロイくんはそうだろうと思ったよ?」
「え――えぇ?」
「ボクはロイくんの事が好きな女の子だからロイくんの事を結構知ってるの。きっぱりかっちり決める事もあるけど、基本的にはこんな感じだよね。」
「は……はぁ……」
「そんなロイくんが告白されて直ぐにイエスとノーを答えられるなんてあんまり期待してなかったよ。勿論、ちょっとは――きっぱりかっちり答えてくれるのを期待はしたけどね?」
「ご、ごめん……」
「うふふ、まー、そんなロイくんもロイくんなわけだしね。だけど――ボクの気持ちはちゃんと伝わったよね? だ、抱き付いてチューしちゃうくらいに――ボクはロイくん、大好きなんだよ?」
 と、これまで見たリリーちゃんの中で一番かわいい顔をするリリーちゃんに、オレは既に赤い顔がさらに温度を上げるほどドキドキした。
「一応確認するけどロイくん……その、ボクの事嫌いじゃない――よね? ま、満更でもないんだよね?」
「う……うん……本人に聞かれるとは思わなかったけど……」
「だよね。じゃあ返事は二つに一つ……オレもリリーちゃん大好きだよーか、リリーちゃんよりも好きな人がいるんだーのどっちかだね?」
「そ、そうなるかな……」
「じゃあ覚悟してね、ロイくん。」
「な、なにを……」
「い、今まではちょっと遠慮してたけど――もう好きって言っちゃったからね。ロイくんも言ってたことだし、『ウィルオウィスプ』の技術を存分に使ってロイくんにアタックしていくからね?」
「え――えぇえぇ!?」

 明日からの学院生活がどうなるか不安な今日この頃だし、それでもリリーちゃんにはなるべく早く返事をしないといけない。
 オレ、好きな人っているんだっけか……

「お兄ちゃん聞いてる?」

 ――というような諸々を考えながら荷造りをしていたオレはパムに飛びつかれた。
「どわ! びっくりした……」
「だから、パムの話聞いてた?」
「ごめん……お兄ちゃん、結構上の空だったよ……」
「ひどいなー、もぅ。できるだけ会いに行くからねって話だよ。」
「うん。無理はしないでいいからね。また先生に怒られちゃうから。」
「そっか! それだよお兄ちゃん!」
「?」
「パムも先生になればいいんだよ! 上級騎士が入学っていうのは無理って言われちゃったけど、先生としてならいいよね!」
「学院にとってはいい話のような気がするけど……パムの歳でそれがいいかどうかだね。」

「っとに、大将の前だと人格変わるな。」

 そんなあきれた声を出すのは奥の部屋にいたフィリウス。
 アフューカスに狙われているって事で、ティアナの家での一件から今日までフィリウスはずっと傍にいた。
 学院に入ってしまえば手出しは出来なくなるし、そういう事情を知った学院長が何やら特殊な魔法をオレにかけてくれるとかなのでそれ以降は外出も可能になるらしい。だからとりあえず二学期が始まるまでの護衛だったわけだが……オレとしては、今のオレにとっての家族が勢揃いなわけでとても嬉しかった。
「しっかし、大将の護衛ってのは楽で良かったんだけどなぁ。戻ったらアフューカス絡みで忙しくなりそうだ。」
「仕事して下さい、十二騎士。」
「妹ちゃんもな、上級騎士。」
 ツンツンするパムとケラケラ笑うフィリウスというのは、もう見慣れた光景となった。
「大将はランク戦だろ? そっちも気合い入れないとな。」
「ああ。目指すはAランクだな。」
「だっはっは! そんな目標はダメだぞ、大将! 男なら優勝を目指せ! とりあえず一年生最強の称号をゲットしろよ!」
「優勝……そうだな。それくらいでないとダメかもな。」
 正直、オレは自分のクラス以外の一年生というのはほとんど知らない。きっともう噂になっている強い人ってのがいるんだろうけど、そういう話にも疎いから余計にわからない。
 ただ、優勝するというのであれば――『ビックリ箱騎士団』の面々を倒さないといけない。
 んまぁ、それはそれで楽しみなのだが。



「いいこと、エリー? ちょっと先を越されたからと言っていつもまでもむくれてちゃダメなのよ? まずはルームメイトっていう地の利を活かすの。」
「何の話――っていうか先を越されたって……な、なんでお姉ちゃんが知ってるのよ。」
「お姉ちゃんがその気になれば今日の彼の朝ごはんだってわかるわ。それにエリー、お姉ちゃんが何を知ってると思ったのかしら? 今のエリーには誰かに先を越されたと思ってる事があるって事よねぇ? あらあら? そろそろ素直になるかしら?」
「――!! お、お姉ちゃんが何言ってんのかわかんないわ!」
「一応言っとくけど、彼ははっきり言わないと気づかない――いいえ、気づいてはいても確信はしないタイプね。きっと、「自意識過剰なんじゃないか、オレ?」とか思ってるわよ?」
「もう! 荷造りしてる妹の部屋に来たと思ったらいきない変な話しないでよ! ひまなの!?」
「これから戦場に赴く妹を見送らない姉はいないわ。」
「……ランク戦なら心配ないわよ。きっとAランクに――」
「違うわ、女の戦場よ。覚えておきなさい、エリー。そこに遠慮とか友情とかはないのよ? あるのは勝ってラブラブか、負けてこっそり爪をガジガジするしか――」
「カメリア様、そろそろお時間です。」
「アイリスさん! かわいい妹が明日から仁義なき戦場に赴こうって時なのよ!?」
「しかしカメリア様、一国の王子をお待たせするのもいかがなものかと思いますが……」
「他国の王子よりも自分の妹よ!」
「な、なに言ってるのお姉ちゃん! 仕事してよ!」
「じゃあエリー、逐一報告をしなさい! 手をつないだとか肩を寄せ合ったとか、何かある度に連絡しなさい! カメリア・クォーツからの最重要命令よ!」
「実の妹に何を命令しているのですか……行きますよ。」
 ティアナの家から戻ってからしばらくはお姉ちゃんには会えなくて、昨日ようやく帰って来たと思ったらずーっと今みたいなテンションで大変だった。
 相変わらず二人の兄さんからは色々言われたりするんだけど、お姉ちゃんがチョップをいれてくれた。
 クォーツ家におけるあたしの立ち位置は段々と薄れてきて、「一応王族」みたいな感じになってきた。ま、ロイドたちと一緒に騎士になって守りたい人を守ろうとするあたしには好都合だからいいんだけど。
 お母様やお父様が何かを言うわけじゃないけど……兄さんたちがお姉ちゃんみたいにそこそこの力を持ったら、その内ここを追い出されるかもしれないわね。
ちょっと家探しでもしとこうかしら。
「あ、そうだエリー。」
 いなくなったかと思ったお姉ちゃんがドアからひょっこり顔だけ出す。
「な、なに?」
「もしかしたら間に合わなくて変なのがエリーの所に行くかもしれないけど、無視していいからね。」
「? なんの話?」
「間に合えば何でもない話よ。」


 明日から二学期で、セイリオス学院は寮生活だから、夏休み最後の日の今日はあっちこっちに散らばってた生徒たちが一斉に戻ってくる。
 学院の近くまで送ってもらって、そんな他の生徒に紛れて学院に向かって歩いてたら……校門の前になんか人だかりが出来てた。

「だっはっは! 順番だ順番だ!」

 聞き覚えのある笑い声がすると思って近づいてったら途中で誰かに肩を叩かれた。
「! ロイド。」
「久しぶり、エリル。」
 学院に来た時の格好からはだいぶ良くなってるはずなんだけど、相変わらずすっとぼけた顔をしてるし、田舎者っぽさはやっぱりぬけ――
「相変わらず綺麗な紅い髪だな。遠目でもすぐにわかる。」
「……は?」
「……あれ?」
 よく……わからない現象が起きた。
 ロイドはロイドだから、思った事をそのまま口にするというかなんというか、恥ずかしい事をさらっと言う。だから時々ドキドキさせられる――んだけど、なんでかしら。セリフ的には同じような内容なのに、今の言葉には違和感しか覚えなかった。
「ティアナの家からざっと二週間ぶりかしら。なんか悪いモノでも食べたの、あんた。」
「えぇ? いや……ちょっと違ったというか……ごめん、なんでもない。」
「? まぁいいわ。あれ、フィリウスさんよね……」
「ああ。騒ぎになるから来るなって言ったんだけどな。見送るぞって。」
「まったく、迷惑なゴリラです。」
 そう言いながらロイドの後ろから出てきたパムは軍服と上級騎士の証の白いマントをしていて……だから結構人目を集めてた。
「エリルさん。」
「なに?」
「休みが終わり、自分がここに来られる事も少なくなるかと思いますが――」
「なによ、ロイドをよろしくってこと?」
「いえ、変な気を起こさないで下さいね。」
「へ、変な気ってなによ!」
「リリーさんみたいに。」
 その言葉で頭の中にあの時の光景が広がる。思い出す度にモヤモヤした気分になるあの光景――だったんだけど、当の本人が目の前で困った風に笑うのを見たらなんかなんとも思わなくなった。
「べ、別にそういう行為をどうこうするのはいいんですが――あ、あんな風にいきなりやったらダメなんだからね、お兄ちゃん!」
「えぇ!?」
 ロイドが……? いきなり迫ってきてキ――
「バ、バカじゃないの! このエロロイド!」
「えぇ!?!?」

「なんだ、ルームメイトが真っ先に合流する決まりでもあるのか?」
「わ、な、なにあの人だかり……」

 反射的に出したパンチをさらっと避けられたあたしの耳に聞こえたこれまた聞き覚えのある声は青と黄色のペア。
「久しぶりだな、エリルくん、ロイドくん。」
「あ、ローゼルさんにティアナ。えぇっと……」
 そこでなんでかカバンから手帳みたいのを取り出したロイドはそれをチラッと見てからこう言った。
「久しぶりに会うと改めて思うけど、やっぱりローゼルさんは美人さんだね。」
「んな!?」
「ティアナも、時間が空くとこんなかわいい人がスナイパーライフルってのにはもう一回驚くね。」
「ふぇ!?」
 出会って早々に顔を赤くする二人。
 ……やっぱりなんか違和感。
「ねぇちょっとロイド――」
「大将!」
 結構離れた所にいるフィリウスさんの声が響き渡って、その場の全員が足を止めた。注目のマトであるフィリウスさんはドカドカと歩いてこっちに来る。
「デカい声だすな! ビックリするだろうが!」
「だっはっは! 全員そろったみたいだから俺様はそろそろ帰ろうかと思ってな! サインもあらかた書いたし!」
 フィリウスさん、サインを頼まれてたのね……
「? リリーちゃんにはまだ会ってないぞ。」
「んん? さっき中に入ってったが。」
「そうなのか? んまぁ、ここで合流とかって約束はしてないしな。」
「なんだ大将。ファーストキスの相手に冷たいな。」
「そ、そういうこと言うな!」
「だっはっは! 引き続き青春しろよ、大将!」
「……フィリウスも、セルヴィアさんと仲良くな……」
「んな!?」
 すごく仲のいい――なんて言うのかしら。兄弟でもないし親子でもない……例えにくい二人はそんな事を言い合う。
「お嬢ちゃんたちもまたな! 諦めるのは早いってもんだ!」
「なんの話ですかゴリラ。では兄さん、また近く。」
 こうして、騎士の学校の前でサインを書いてた十二騎士、《オウガスト》と天才と呼ばれる最年少上級騎士は帰って行った。


 ロイドが《オウガスト》の弟子っていう話は夏休みに入る前から広まってるらしいんだけど、ああやって二人が話してるのを見た生徒たちの騒がしさは結構なモノで、だからあたしたちはとっとと寮に入ってそれぞれの部屋に帰った。
「悪いなエリル。いきなりあんなんになって……」
「入学した頃はあたしもあんな感じだったから慣れてるわよ。」
「そっか。さて、んじゃ荷物を出すか。」
「て言ったって、あんたの場合そんなにないでしょ。」
「んまぁ……あ、でも剣が一本増えたぞ。」
 プリオルからもらったとか言う増える剣をいつもの二本と並べて壁に立てかけるロイド。
「……あれから……その、襲われたりしてない……?」
「大丈夫――あれ? 今思ったけど、狙われてるオレと相部屋ってエリルまずいんじゃ……学院長に言って部屋の交換とかした方が――」
「いいわよ、別に。」
「そうか? でも……」
「この学院にいる限りは安心なんだから、部屋を変える必要ないわよ。それに、やっと――カーテンの生活に慣れてきたのにもったいないじゃない。」
「なんだそのもったいない……」
「な、なによ……もしかしてあんた……リ、リリーと相部屋がいいわけ……?」
「えぇ!? い、いやそんな事になったらドキドキし過ぎてどうにかなる! エ、エリルが危ないんじゃないかって話だよ!」
「だ、だから学院の中なら関係ないわよ……あたしも別に気にしないし……」
「そ、そうか。オレもできればこのままが良いしな。」
「――! な、なんでよ……」
「……? そうだな……なんとなく……あ、美味しい紅茶が飲める! オレ、エリルが淹れる紅茶好きだぞ。なんかホッとするんだよ。」
「な、なによそれ……」
 急に褒められてドキドキするあたし。
 ……そう、こういうところがあるのよ、ロイドは。こんな感じで美人とかかわいいとかっていうのも言うけど……
 やっぱりさっきのは変だわ。
「荷物片付いたら紅茶飲まないか? ――って言ってもエリルに淹れてもらうわけだけど……一応お茶菓子があるんだ。クッキー。」
「クッキー? なんでそんなのがあるのよ。」
「来る途中で買って来たんだ。ふと目に入って……そしたらエリルの紅茶を思い出して買ってしまった。」
「あっそ……ちょっと待ってなさい……」



 やっぱり少し意識してしまう。
 キッチンで紅茶を淹れるエリルの横顔を眺めていると、その視線がどうしても……く、唇に行く。
 リリーちゃんに告白された次の日にティアナの家を後にしてそのまま解散。その後二週間、オレはエリルたちに会っていない。リリーちゃんも、パムの家までついてきそうな勢いだったんだけど、二学期から始めるという購買の準備があるとかで……投げキスされてわかれた。
 つまり、あのキ、キスの後初めてみんなに会ったわけなんだが……リリーちゃんの唇の感触を思い出し、そして――他の人もあんな感じなんだろうかとか意味のわからん事で頭をぐるぐるさせながら、オレの視線は知らず知らずにみんなの唇に移っていた。
これじゃあローゼルさんの言うところのスケベロイドくんだな……
「はい、紅茶。」
「あ、ありがとう。はい、クッキー。」
 丸いテーブルで向かい合い、いつものように紅茶を飲むオレとエリル。
「エリルは……あの後、夏休みは何してたんだ?」
「《エイプリル》――アイリスに色々教わってたわ。体術とか魔法とか。」
「おんなじか。オレもフィリウスとパムに色々と。」
「十二騎士と上級騎士がコーチなわけね。まぁ、あたしのも十二騎士だけど……」
「はは、お互い恵まれてるな。」
「そうね。それにお互い……騎士になった時に敵になるような奴の一番強いのを見たわ。」
「S級犯罪者……プリオルは確かに強かった。魔法使えないくせに魔法みたいな事するんだもんなぁ……」
「ポステリオールも、あたしはほとんど見てただけだけど……あれで本気じゃないって言うんだから意味わかんないわ。」
「誰かを守るため、あんなの戦う事もあるわけだ。頑張んないとな。」
「道は長いわね。」
「大丈夫さ。さっきも言ったけどオレたちは恵まれてる。良い師匠がいて、ついでにオレたちがいるここは騎士の学校の名門。環境はバッチリなんだから、あとはオレたち自身の努力次第だろ?」
「……師匠のすごさも知らなくて、しかも目的が無い状態で学院に来たクセに言うわね。」
「うぅ……い、今は違うだろ!」
「……あ、あたしの騎士……?」
「……うん……も、もちろんローゼルさんとかも守りたいんだぞ! リリーちゃんにも言ったけど、一度こうして友達になった人を……失いたくないからな。」
「…………そ。」
「…………なんか怒ってる?」
「怒ってないわよ!」
「そ、そうか? んまぁ、とりあえずはランク戦だな。目指すはAランク――じゃなくて優勝だ。」
「優勝……そうね、それくらいじゃないとね。」
「……フィリウスに言われたんだけどな。でも……きっとあれだろ? オレは知らないけど、すっごく強い一年生とかっていたりするんだろ? 特にこの学院だとさ。」
「ローゼルとかがずばりそういう一年生だと思うわよ? 名門の子っていう感じの。」
「名門の家か……よし、田舎者の底力を見せてやろう。」
「あたしも、守られる側の王族のそれを見せてやるわ。」
 ニンマリ笑いながら、互いのティーカップをコツンとぶつけたオレとエリルは――

「相変わらず二人っきりになると油断ならないよね。」

 突然現れたリリーちゃんにビックリしてカップを落としそうになった。
「リ、リリーちゃん!」
「ロイくん久しぶりっ!」
 ムギュッと抱き付かれたオレはそのまま後ろに倒れる。目の前に広がるリリーちゃんのニッコリ顔で一気に顔が熱くなった。
「わ、ロイくんてば真っ赤。やっぱり前より意識しちゃう?」
 胸から足先までピッタリとくっついたリリーちゃんの身体の温度とか柔らかさとか色々なモノに耐え切れず、我ならがすごい動きをしてリリーちゃんの下から脱出した。
「あの! その! へ、返事してないオレが言うのもあれだけどこーゆーのはあんまりやんない方が良いのではないでしょうか!」
「そう、ロイくんがきっぱりとしたお返事しないからこーゆーのをするんだよ。ロイくんの頭の中をボクで一杯にしていいお返事をもらう為にね。まー、悪いお返事だったら取り返すために、いいお返事だったら今よりもっと、おんなじことするんだけどね。」
「えぇっ!?」
「なんなら――もうちょっと過激にしちゃおうか……?」
 じりじりと四つん這いで近づくリリーちゃんは正直ものすごく色っぽ――
「人の部屋で何しようとしてんのよ!」
 ――かったんだが、エリルに後頭部を叩かれて床に頭突きをした。
「痛い! なにすんのエリルちゃん!」
「あんたがなにすんのよ!」
「そ、そうだよリリーちゃん。あんまり――か、過激になるとオレの心臓がもたない……」
「ふぅん? 例えばどんな事されちゃうと心臓止まっちゃう?」
「えぇ!? た、例えば!?」
「ほら、それだけはしないように気を付けないとだから教えて?」
「えぇ!?!?」
 色っぽく笑うリリーちゃんと顔の赤いエリルを前にどうしようもなくなった時、ドアをノックする音が聞こえた。
「誰か来た! オレが出るぞ!」
 神様ありがとう!

「随分な会話が聞こえたがどういう事かな?」
 勢いよく開いたドアの向こう側にいたのはローゼルさんとティアナだった。



「……なんでこう、この部屋に全員集まるのよ。」
「今更だな。そしてリリーくん、あまりハレンチな事はやめたまえ。」
「ビキニを見せつけたローゼルちゃんに言われたくないんだけど。」
「ローゼルさんのビキニ姿……」
「……ロイドくん、お、思い出しちゃダメ……だよ……」
 部屋にある丸いテーブルを五人で囲み、そういえばロイド以外には淹れた事がなかった紅茶を全員分出す。
「ふむ。これが二人が二人っきりの時に二人で飲む紅茶か。」
「うん。」
 ローゼルの「二人」を強調した言葉にロイドがそのまま頷いたから、あたしはローゼルに睨まれた。
「ま、まぁ紅茶ならわたしも淹れられる……どうだロイドくん、たまにはわたしの部屋に来て違う茶葉を味わうのは。」
「ロゼちゃん、ティーパックはあんまり淹れるって言わないよ……」
 相変わらず料理関係は――パスタ以外ダメらしいローゼルだけど、ロイドが……
「ふふ、何でもできそうなローゼルさんのそういう所はチャーミングだよね。」
「にゃっ!?」
 ローゼルが猫になるほど驚く。そして、このセリフにまた違和感を覚えるあたし。
「ロイくん、ボクの前で他の子を口説かないで欲しいんだけどな。」
 見るからに面白くない顔をするリリーに、少しおどおどしながらロイドはこんな事を言った。
「な、なんなら――告白されてなんだけど、リリーちゃんも口説こうか?」
「ふぇえっ!? も、もういきなりなぁに? もぅもぅ!」
 嬉しそうにくねくねするリリー。
「……ねぇ、ロイド。いい加減気持ち悪いんだけど……」
「えぇ? あ、クッキー不味かったか?」
「違うわよ! さっきからあんたが言ってるあんたらしくないセリフの事よ!」
「えぇ!? き、気持ち悪かったか!?」
「あたしは普段の方がす――と、とにかくなんなのよそれは! 変な小説でも読んだの!?」
「い、いやぁ……これは……」
 ロイドが困った顔になるけど、ローゼルたちも――顔を赤くしながらロイドに尋ねる。
「た、確かに、いつものロイドくんっぽいと思えそうだが何だか違うな……べ、別に言われて不愉快ではないのだが……」
「あ、あんまりそういうのばっかりだと……ドキドキし過ぎちゃうよ……」
「ボクだけならともかく、他の子にも言うのは嫌だな。どうしちゃったの?」
 全員の視線を受けたロイドは、ちょっと顔を赤くする。
「えぇっと……その、リ、リリーちゃんにす、好きーって言われて考えた……んだよ。」
「リリーちゃんってばやっぱりかわいいなーって?」
「いや、リリーちゃんはかわいいんだけどそうじゃなくて……その、オレはそんなリリーちゃんに好きって言われるような男かなと……」
「……ロイくん、それ……ちょっとボクに失礼。」
 ロイドにデレデレのリリーがムッとする。
 まぁ、今のって言いかえると……大したことない自分を好きになるリリーが変わり者というか変と言うか……そんな意味合いにも聞こえるものね……
「うん、オレもそう思うよ……だけどごめんね。そのリリーちゃんがきっかけではあるんだ。なんて言うか……オ、オレの事を好きになってくれた人――に釣り合うというか、恥ないというか……その……いい男的なモノになれたらいいなと……」
「……らしくない事を考えたわね。」
「……オレもそう思うけど……リリーちゃんにす、好きって言われて……み、みんなの事も意識してしまうようになったというか……」
「は、はぁっ!?」
 ロイドのとんでもない発言に全員が顔を赤くする。
「ななな、なにを考えているんだスケベロイドくん!」
「い、意識って……ど、どういう……」
 自分でも恥ずかしい事を言ってる自覚は充分らしく、ロイドは明後日の方を向いて照れながらボソッと呟いた。
「いやぁ……みんな女の子なんだよなぁと……」
 意識とか言うから何事かと思ったらそんなすっとぼけた事を言ったロイドに、赤くなったあたしたちはため息をつく。
「……ロイドくん、それは今更だぞ……というか、それなら今までなんだと思っていたのだ……」
「なんだと思ってたというか、考えてなかったというか……クラスメイトとか友達とか戦友とかそういうのはあったんだけど……オレは男でみんなは女って事を……いや、前から知ってはいたけど……リリーちゃんの事でものすごく実感したというか……」
 結構すごい事を言ってるロイドは――普段あたしたちがなるような真っ赤な顔に段々となっていく。そしてそんなロイドの前だからか、逆にあたしたちはちょっと冷静だった。
「……そういう話をわたしたちにしてしまうところは相変わらずというか、い、意識してもそのままというのがロイドくんっぽいが……そ、そうか、そんな風な意識改革があったのか……」
「で、でもロイドくん……そ、それはその……いい事……なのかまだわかんないけど……どうしてそれがあんな風な事を言うロイドくんになっちゃったの……?」
「それは……」
 こんなに恥ずかしそうなロイドは初めて見るからいつもと違う方向にドキドキするんだけど、一人だけいつもより不機嫌な顔になってるリリーが今のロイドをまとめる。

「要するに、ボクの告白で異性を意識するようになったロイくんは、だからちょっといいカッコしたい感じの男の子になったって事?」

「そ、そんな感じです……」
 うわ、今のロイドちょっといじめた――な、なに考えてんのあたし!
「ま、まぁいいんじゃないか? むしろそうじゃない方が問題のような気がするというか、フィリウス殿が心配していた「女性に興味のない男の子」がきっとそれだからな……」
「う、うん……そ、そういうのはきっと……ふ、普通だよロイドくん。あ、あたしたちに話しちゃうのはかなり……恥ずかしいと思うけど、ロイドくんだし……」
 いつもなら「オレって一体……」ってしょんぼりしそうなロイドだけど、顔が真っ赤でそれどころじゃない感じ。
「……ま、まぁ、あんただからそれであたし――たちへの態度が……大きく変わるとかじゃないと思うから……それはそれで……う、うん。良い事なんじゃない? だ、だけどその――カッコつけたいのとあの変な口説きはなんの関係があるのよ……」
 他がどう思ってるか――まぁ、間違いなくリリーは良く思ってないでしょうけど――少なくともあたしはロイドにそう見られても困らない――とかそういう話じゃなくて、問題はその結果カッコつけようと思ってやってる事がちょっと気持ち悪いのよ。
「いやぁ……い、いい男を目指そうと思ったのはいいんだけど、どうしたらいいのかよくわかんないから……誰かを手本にしようと思ったんだ……」
「あんたが手本にするって言ったら――フィリウスさん?」
「いや、あれはただの女好きだから手本にはならない……でも、そんなオレの手元に、実はこんなものがあったんだよ……」
 そう言ってロイドがテーブルに出したのは手帳――って、なんかデジャヴね、この光景。
「どれ。」
 手帳を手に取り、それをパラパラとめくるローゼルの顔は、みるみる赤くなっていった。
「ななな、なんだこれは! どこで買ったのだこんなもの!」
「ちょっと、あたしにも見せないさいよ。」
 ローゼルから奪いとったあたしの両サイドにリリーとティアナもやってきて中を覗く。そこに書いてあったのは――
「『まずは何かを褒めるべし。以前会った事のある女性であるなら、その時から変わった点を指摘するのがベター』……なによこれ……」
「『髪は女性にとって男のそれとは比較にならない価値がある。話題にするのは慎重に』……な、なんか……変な事ばっかり書いてあるよ……」
「……ロイくん、この『女を落とす百の方法』みたいなタイトルがつきそうな内容の手帳はなんなの……?」
 もしもロイドがこれを買ったとかだったらちょっと嫌だなぁって思ってるあたしの耳に入って来たリリーの質問の答えは予想外のとんでもないモノだった。

「えっと……プリオルからのプレゼント。」

「は……え!? ちょ、今プリオルって言ったの? あの――あんたが戦ったS級の!?」
「ああ。『イェドの双子』のプリオルだよ。パムの家に戻って初めて気が付いたんだけど、ポケットに入ってたんだ。あの戦闘中のいつに書いたのやら、メッセージ付きで。最後のページ。」
 手帳をめくって最後のページを四人で覗き込む。

『同士ロイドくんへ
 ここしばらく少年を観察していて思ったが、どうも少年は女性の扱いに不慣れと見える。
 仮にも恋愛マスターの恩恵を受けた者が色恋に心を悩ませない無欲な紳士ではいけない。
 ということで、ボクに勝利した少年への二つ目の景品だ。
 これは、ボクが数多の経験から学んだ女性との接し方を記録したモノだ。
 無論、ボクにとってはこれが正解なわけだが、少年にとっても正解とは限らない。
 限らないが、しかし一つの指針にはなるだろう。
 これを参考、もしくはキッカケとして、是非出会い多き青春を送ってくれ。
 そして、今のボクでは到達できない一つの終着――唯一の女性に出会って欲しいと思う。
 次に会う事があれば、その時に彼女を紹介してくれるとボクは嬉しい。
 ではでは。』

「……ねぇ、プリオルってS級犯罪者なのよね? 極悪人なのよね?」
 ふと街で出会って友達になった相手に送るような手紙を見て呟いたあたしにローゼルが答える。
「あの後かなり調べたが……ああ、極悪人さ。プリオルは剣のコレクターで、蒐集の際は前の持ち主を必ず殺す。噂では、その数は千に届くのではないかと言われている。だが同時に――その筋では有名な超女ったらし金髪イケメン――だそうだ。」
「ティアナちゃんはプリオル見たんだよね? どうだった?」
「うん……ホストさんみたいな格好した人だったよ……」
 手帳からロイドに視線を移すと、ロイドは赤かった顔を少し戻しながらはははと笑う。
「女ったらしじゃないんだよ、プリオルは。手紙にもあるけど、素敵な女性との素敵な出会いを沢山したくて、んでそれを恋愛マスターに願っただけだよ。んまぁ、金髪イケメンは確かにそうだけどね。」
「ロイドくん、S級犯罪者をまるで友人のように語らないでくれ……」
「う、うん……そうなんだけど……えっと、話を戻すと、つまり手本にできるいい男となると思い浮かぶのはプリオルだけで、そのプリオルの手帳が手元にあったから試しにと――」
「手本にする相手を間違ってるわよバカ!」



「あー……久しぶりだな。」
 プリオルを参考にする事をみんなに禁止された翌日、二学期の初日に教室に入って来た先生は何にも変わらない雰囲気でそんな挨拶をした。
「嬉しい事に今日の授業は私が今から話す事のみ。一時間目しかない感じと思ってくれ。ま、明日からの事を考えれば当然なんだがな。」
 黒板にカツカツとその授業のタイトルを書いた先生はくるっとこっちを向いて――ずいぶんと楽しそうな顔をした。

「ランク戦の開幕だ。」

 ランク戦。このセイリオス学院における生徒の格付けみたいなモノ。名門とはいえ、どうしたって個人差が出る生徒たちにそれぞれに合った授業をするために実力を測る……というのが大元の理由らしい。
 いや、大元もなにもそれが理由なんだけど、誰が強いのかを決めるという点は騎士を目指す人間にとってかなり大きな意味を持つ。

「私がここの先生になったのは今年からだが、ランク戦は何度か見た事がある。名門セイリオスで行われる生徒のトーナメントなんて、現役の騎士には興味津々なイベントだからな。」

 この学院においてかなり――いや、一番のイベントと言ってもいいらしいこのランク戦。夏休み明け早々、明日からそれが行われる。
 二学期初日の今日は、その概要説明の日という事だ。

「やることは単純。学年ごとに分かれて全生徒でトーナメントをし、何回戦まで勝ち上がったってのを基準に線引きをして、上からA、B、Cのランクを付ける。ちなみに線が引かれるところは毎回違うから、どこまで勝ち進めばBとかAってのは終わってみないとわからない。」
「先生。」
「なんだ、サードニクス。」
「どうして毎回違うんですか?」
「その年々で生徒の実力とその差が違うからさ。極端な話、私たちから見たら全員最悪だなってなったら生徒全員Cランクかもしれないし、全生徒が上級騎士クラスの実力者っつーなら全員Aランクだ。」
「なるほど。」

 学年で一番を決めはするけど、その一番がAランクかどうかはまた別の話って事か。

「でも先生、ランクと順位が別の話って言うなら、生徒全員の実力を見る為にトーナメントっていうのは不公平じゃないんですか? 最初に負けた人はもしかしたらすごく強いかもしれませんよ?」
「はっはっは! 悪いなサードニクス。ここの先生になるような人間なら、強いか弱いかは相手なんか関係なしに一戦見ればわかる。一戦じゃわかんないのは、どれだけ強いのかだ。どれだけ弱いのかなんて、入学の時点で最低限は見てるから関係ないしな。」
「厳しいですけど……確かにそうですね……」

 いや、むしろさすが名門というところなのか。

「ランク戦後、生徒たちはそれぞれのランクに合わせた授業を受ける事になるわけだが、ランクが関係ない授業――知識とか歴史の授業もあるからクラスはこのままだ。主に実戦形式の授業で分かれることになるだろう。まー、よーするに、ランク戦つってもランクがつくのもそれが影響し出すのも終わってから。となればお前らが考えるべきはただ一つ、目の前の対戦相手に勝つ事だ。」

 んまぁ、何回戦まで行けば何ランクみたいのがわかっているとどうしてもそれが気になっちゃうしなぁ……もしかしたら、戦いに集中できるようにって意味もあるのかもしれない。

「さて、ランク戦の会場だが、もちろん闘技場でやる。一回戦から決勝戦までの全てをな。一度に行える試合は十二だから、各学年、同時にできるのは四試合――つまり八人分だな。」

 十二? あれ、そんなにデカかったかな、闘技場……

「そんなにデカかったかなっつー顔をしてる奴が何人かいるから教えるが、あの闘技場はな――全く同じ場所に同じ大きさの闘技場が十二個存在してるっつー不思議空間になってるんだ。やったのはもちろん、学院長。」

 ?? 言っている意味がわからない……

「入口は一つなんだが、そこを選手がくぐると自分が行くべき闘技場に出るし、観客がくぐればそいつが見たい闘技場に出る。友達と一緒に入ったのに気が付いたら自分だけになってる――なんて事もあり得るから注意しろよ。」
「あの先生、やっぱり全然わからないんですけど……」
「ちゃんと説明すると、第十系統の応用だ。オリジナルを位置情報ごと複製し、それの位相をずらして同じ位置に配置する事で、同一個所における複数物の存在が可能になる。」
「……?」
「気にするなよ、サードニクス。迷ったりはしないんだからな。」

 わけのわからない現象さえ引き起こす……つまりは学院長がとんでもない魔法使いって事だ。
 うん、とりあえずそれくらいの理解でいいか。

「さっきちょろっと言ったが、各学年平均十クラスはあるこの学院で一度に試合できる奴が八人だ。軽く計算しても結構時間かかるだろ?」

「え、十? そんなにクラスあったのか?」
 と、オレが思わず尋ねたのは隣に座るエリル。てっきり「やれやれ」って顔で呆れられるかと思ったけど、エリルが向けた顔は「仕方ないか」という顔だった。
「そうよ。ま、他のクラスとの合同授業とかはないし、全部のクラスが一つの建物にあるわけでもないし……入学式を見てないあんたが驚くのは無理ないわ。」

「それに、中にはすごく長引く試合もあるだろう。戦術的にとか、互いの実力の拮抗具合とか色々な理由でな。だからいつからいつまでがランク戦っていう感じの区切りはしない。全ての試合が終わるまでランク戦は続く。」

 授業の予定とかよりも優先って事か。それだけこのランク戦の持つ意味とか、生徒が得られる経験とかが大きいのだろう。

「だから、あいつは明日も試合なのに自分の次は三日後――みたいなことも起こり得る。残念ながらこればっかりは人それぞれだ。まぁ……お前ら的には休息の時間が多い方が嬉しいんだろうが、こっちを待ってくれない悪党と戦う騎士としちゃあ毎日連続でってのを、私はオススメしたいがな。」

 全ての試合が終わるまで続く……最初の方に負けちゃうと一日中観客席って事が数日続く可能性もあるんだな……

「んで、一番気になる対戦相手だが――それはこのアイテムを通してその日に知らされる。ほれ、後ろにまわしてけよー。」

 そう言って先生が全員に配ったのは何も書いてない真っ白なカード。学院に入学した時にもらった、お金の代わりになる不思議カードとそっくりなわけだが、ちょっと違う点としてふちが黒色に塗られている。

「朝の八時きっかり、そこに文字が浮かび上がってその日の対戦相手と闘技場番号と時間が表示されるから、それに従って行動しろ。その日対戦が無い奴には無いって事が知らされる。んま、闘技場の前にもその時間に行われる対戦の一覧が出るから、もしもカード無くしたとかでも一応なんとかなるが……闘技場のは開始三十分前にならないと表示されないから気を付けろよ。」

 朝起きて、その日の相手を見て……他の試合を見ながらとか、鍛錬しながらでそれまでを過ごし、時間になったら闘技場でバトル。そんな日々が始まるわけか……

「とまぁ、ここまでが私が説明しなきゃならん事で、こっからは私が話したい事になる。」

 先生が話したい事? もしかして戦いの心構えとかを――?

「ランク戦を楽しむ為に、注目の生徒を紹介してやろう!」

 ……あれ? なんかいつもあんまりやる気があるようには見えない先生がすごい張り切って黒板に色々書き始めたぞ……

「現役の騎士の中には、強いとか特殊な力を持ってるとかの理由で二つ名がある――というか周りから付けられる騎士が結構いる。私の『雷槍』なんかがそれだな。まぁ、私のは武器のままだがそれでもカッコイイだろう? まったく、いい歳した連中がこんなんで呼び合うわけだから騎士ってのはケレン味を大事にする連中だよな。ま、私は好きだからいいんだが。」

 先生が黒板に書いているのは名前と……どうやら二つ名らしい。
 というか先生のテンションが高い。

「んで、この騎士の文化みたいなモノはこの学院にもあってな、Aランクになった生徒なんかにはもれなく二つ名がつく事になる。そして今ここに私が書いてるのは――ランク戦が始まってもないのにもう二つ名を周りから命名された一年生だ。」

 バンと叩かれた黒板に書かれた名前はざっと二十人ほど。十クラスあるとすると一クラスに二人って事に……なんか結構多いな……

「気づいた奴もいるだろうが、このクラスには三人いる。まずは――その女神の如き美貌を持ち、華麗な水と氷の技で相手を近づけさせない槍の使い手――『水氷の女神』、ローゼル・リシアンサス!」

 さっと集まるローゼルさんへの視線。それに対してローゼルさんは――優雅に一礼。

「水と氷の変換速度は並の騎士を遥かに超える。地味な特技だとか思ってる奴がいたら、その厄介さにたまげるといい。得物の間合いが変わるって面倒だぞ。」

 元国王軍指導教官が言うのだから相当な事なのだろう。んまぁ、それは毎朝の鍛錬でオレも知ってるけど。

「次は――初めは暴れるだけの炎だったのが一変、ワイバーンをも殴り飛ばす不屈の意思を宿す紅蓮の焔となったお姫様――『ブレイズクイーン』、エリル・クォーツ!」
「はぁっ!?」
 実は名前が黒板に出た時点でわなわなしていたエリルが、先生の――まるで実況者みたいな紹介にとうとう声をあげた。
「入学してからずっと模擬戦をしまくってた場違いな姫様ってのが随分とひっくり返ったな。良かった良かった。」
「教師がそういうこと言うんじゃないわよ! て、ていうか誰よこんな二つ名つけたの!」
「わかってないなクォーツ。二つ名ってのは誰からともなく自然と生まれるモノだ。一番のキッカケとしてはやっぱワイバーンの一件だろうな。」
「――!!」
 恥ずかしそうにするエリル。
「……これからは『ブレイズクイーン』って呼ぼうか、エリル。」
「……燃やすわよ……」

「そして最後――『水氷の女神』と『ブレイズクイーン』を鍛えた男……《オウガスト》の唯一の弟子にして、歴代最強と言われる《オウガスト》の剣術を使う曲芸剣士! A級犯罪者を撃退し、《ディセンバ》に本気を出させ、そしてこの前――ああ、これはいいか。リシアンサスやクォーツも所属する『ビックリ箱騎士団』の団長――『コンダクター』、ロイド・サードニクス!」

 ……この前そう呼ばれているって聞いといて良かった。ものすごく恥ずかしいぞ、これ。

「残りの団員であるマリーゴールドとトラピッチェも、二つ名はないもののこのランク戦では脅威として数えられている。どうだサードニクス、今の気持ちは?」
「どうもこうも……頑張ります。」
「当たり前だ、そんなの。あ、ちなみにこれは裏情報だが……」
「?」
「サードニクスとクォーツは『フェニックス・カップル』と呼ばれている。」
「えぇっ!?」
「はぁっ!?」
 二人で同時に声をあげ、先生はニシシと笑う。
「たぶん火と風で燃えさかる鳥――フェニックスになったんだろうな。」
「そ、そこじゃないわよ! その下!」
「ああ? カップルか? そりゃお前たち、いつも一緒にいるだろ? この学院唯一の男女相部屋だし……そういう風に見られるのも当然――というか実際お前ら見てるとそう見える。もっとダイレクトに『炎風夫婦』って呼ばれ方もあるぞ?」
「ふ――」
「な、なんだその危なそうな名前……」
 思わず互いを見合うオレとエリルだったが、エリルのブレイズパンチでそのなんとも言えない空気は破壊された。

「ま、この三人に関しちゃここにいる全員が色々知ってるからこんなもんでいいだろう。話しておきたいのはそれ以外――他のクラスの強者だ。」

 その後、妙にテンションの高い先生が二つ名持ちの一年生を紹介していった。オレたち三人とは違って具体的にどんな特技があるということは教えてくれず、ただどれくらい強くて厄介なのかをやんわりと話してくれた。

「――とまぁ、ざっとこんなところか。こいつらと戦う事になったら、それはラッキーだと思ってぶつかっていけよ。今日はここまで!」
「あ、先生、質問が。」
「なんだ『コンダクター』。」
「その呼び方……えっと、その、ランク戦って学院でのメインイベントみたいなモノですよね?」
「そうだな。」
「学年末はわかりますけど……こんな夏休み明けの初っ端にやるのはなんでですか? こう……休みボケが抜けない時期に……」
「はっはっは。ここは名門校だからな。夏休みにはみんなみっちり修行してるだろ? っつー前提があるのさ。」


 先生のランク戦の説明が終わり、お昼ご飯にするにはまだちょっと早い時間に生徒たちは解散となった。
「ロイドくん、カップルや夫婦について少し話そうか?」
「えぇ!?」
 授業が終わるや否や、オレとエリルはローゼルさんとティアナとリリーちゃんに囲まれた。
「わたしたちが見ていないところで二人は――な、なにをしているのだ、なにを!」
「何もしてないわよ!」
「で、でもま、周りからはそんな風に見えてる……って事だよね……」
「クラスもおんなじだし、ご飯食べる時もこのメンバーなのに二人だけそう思われるって事は……やっぱり二人だけの時に……ねぇ、ロイくん?」
「……二人だけの時ってつまり部屋にいる時だからそれを見てってのは変だよ……ほ、ほら、やっぱりオレとエリルが相部屋ってのが前提になってるからそう見えるんじゃないかな?」

「いや、その面子でいる時も夫婦漫才みたいだろ、お前ら。」

 さっき教室から楽しそうに出て行ったはずの先生がいつの間にか隣の席に座っていた。
 どうでもいいけど、どうしてこう強い人ってのは気配を消して突然現れるのやら……
「夫婦漫才ですか……」
「ああ。ほら、さっきもクォーツがネコみたいな声だしながらサードニクスに殴りかかったろ? ああいうのが私らから見ると仲のいい感じに見えんのさ。」
「そっか。ケンカするほど仲がいいだね? ロイくん、ちょっとボクとケンカしようよ。」
「えぇ!?」
「まー呼ばれ方はただの外見だからな。サードニクスが指揮者じゃないのとおんなじだ。問題は本当にそうかそうでないかだろ。」
「……そうですね……」
「……そうね……」
「ほう、否定はしねーんだな。」
 ニタニタ笑う先生。
「う、うるさいわね! ていうか何の用よ!」
「何回か言ったが、私はお前の先生だぞ……ま、いいが。ちょっと話がしたくてな――『ビックリ箱騎士団』と。」
「先生、そのチーム名ってあの侵攻の時だけのモノじゃないんですか? あの後もオレたちそれで呼ばれますけど。」
「ランク戦が終わるとチーム組んで受ける授業も出て来るからな。組む相手がいつも同じような生徒もいるから、自然とチーム名も出来上がる。きっとお前たちはこの先も『ビックリ箱騎士団』だろうよ。」
「……もうちょっと真面目に考えればよかったかな……」
「あ、あたしはこの名前、かわいくて好きだよ……?」
「そ、それならいいけど……それで――話切っちゃいましたけど、先生の用って……?」
 さっきまでの先生が趣味について語るような楽しそうな顔だったとすると、今の先生は――まるで強い相手と戦えて楽しい……みたいな顔で笑っている。

「『イェドの双子』と戦ったんだろ? お前たち。」

「! よく知ってますね……」
「上級以上の騎士の耳には入ってるぞ? ウィステリアとセイリオス学院の一年がS級とやりあったってな。」
「S級犯罪者は見つけただけでも騒ぎになる相手ですからね。上級騎士の一人が交戦――その上十二騎士まで出てきたわけですから……他の騎士に話が行かない方が変と言うものしょう。」
 優等生モードのローゼルさんの言う事に確かにと納得していると、先生は少しうらやましそうに笑った。
「言っとくけど、お前らはものすごくいい経験をしたんだぞ?」
 先生は机の上に黄色の石をこつんと置きながら話を続ける。
「私ら騎士にはこのイメロがある。各系統専用のマナを生み出し、私たちに力を与えてくれる物で……最大の特徴は、基本的に騎士しか持っていないって事。」
「……! そうか……プリオル――いや、『イェドの双子』はイメロを持っていない……?」
「たまに裏ルートで売買されたりもするんだが、それは無理やり使えるようにした感じのもんだからな……使うのは悪党でも小物だけ。A級とかS級は、んな中途半端なモノ使わない。」
「き、騎士の方が……すごく有利って事……ですか……」
「それも「基本的に」だな。勘違いする騎士が多いんだが、イメロはあくまで魔法の威力を高めるだけのモノだ。それでできる事が多くなったりもするだろうが、魔法の技術までレベルアップするわけじゃない。どんだけパワフルになっても、技術がパーなんじゃあ……十二騎士クラスの魔法の使い手でもあるS級なんかにゃ歯が立たない。」
「十二騎士クラスの魔法……その上魔法無しでも魔法使ってるんじゃないかと思えるくらいの体術か。先生、どうして――その、ただ悪い事をしてきただけの人たちがあんな怪物みたいに強いんでしょうか。」
「ああ、そりゃ私ら騎士にとっては永遠の謎だ。だが――わからないでもないんだ。要するに、夢に向かって頑張ったり、正義を貫く為に努力する騎士と、欲望に従って力を求める悪党は――なんとなく似てるんだ。」
「嫌な皮肉話ね、それ。」
 だけど今の話、プリオルの狂気を見たオレには理解できる気がする。
 きっと欲しい剣の持ち主がものすごく強かったら、そいつを倒せるように――想像できないような狂気と執着で頑張ったのだろうから。
「――で、あんな怪物と戦った事がどうしていい経験なんかになるの? ボクたち、もしかしたらあそこで――」
「生きて帰ったからいい経験と言ってるのさ。しかもこの成長期にな。」
 イメロをコロコロ転がしながら、先生は――たぶん指導教官の顔でオレたちを見る。
「強さを求める人間には、必ず目標がある。あいつみたいになりたい、あの人みたいになりたいっつーな。だがそれだけじゃ正直不十分なんだ。強くなろうとする人間には――いつかあいつを倒せるようにっつー、敵としての目標も必要なんだよ。むしろ、こっちの目標の方がそいつを強くする。誰かみたいになるってのよりも、誰かに勝つって方がハッキリしてるからな。」
「敵としての目標……『イェドの双子』がですか?」
「別に双子に限定しなくてもいい。騎士になった時に相手にするだろう悪党連中の中でも最強クラス――S級を、いつか倒すべき相手として具体的にイメージできるようになったお前らの成長は、きっと目を見張るものがあるだろうよ。」
「いや、でも先生、目標にするにはちょっと強すぎるような気も……」
「確かにハードルとしちゃ高過ぎるが、目標として掲げるならいい高ささ。」
 ゆっくりと立ち上がる先生は最後に、少し照れくさそうにこう言った。
「どっかで生徒全員に言いたい事なんだが――いつの日か、アドニス先生は十二騎士を育てたって自慢させろよ。」



 いつもとなんか違う先生だったけど、ちょっとやる気をもらったような気もするからまぁ良かったのかしら。
 それに、おかげでカ――カップルとかの話がそれてくれたわ……
「お昼ごはんを食べに行くにはまだ早いわね。」
「うん……微妙に時間が空いちゃったな……夏休み明けたらすぐにランク戦ってのは聞いてたから剣の手入れとかはしてある――んまぁ元々必要ないんだけど……あ、そういやランク戦でケガとかしたらどうなるんだ?」
「父さんから聞いたが、どうもその闘技場にこれまた奇跡のような魔法がかかっているとかで、外でやったら身体がバラバラになってしまうような攻撃も全身打撲程度になるのだと。その上大抵のケガは試合終了後に治るとかで――気にするべきは体力だけのようだよ。」
「が、学院長さんって……本当にすごい魔法使い……なんだね……」
「そうだ! ロイくん――とついでにみんなも、ボクの城を見に来る?」

 ロイドとついでに呼ばれたあたしたちはリリーの城――夏休み中に出来上がったらしい購買を見に学食にやってきた。
 学食の……そこに今まで何があったか思い出せないからたぶんただの壁だった場所にお店が出来上がってた。形的には屋台みたいなので、店の中に立つリリーが、お客さんの欲しいモノを聞いて後ろの棚からとるって感じだった。
「トラピッチェ商店――同じ名前で開店なんだね。」
「そりゃそうだよ、ボクのお店なんだから。まぁでも、その内サードニクス商店になるけどね。」
「えぇ?」
「だってボク、その内リリー・サードニクスになるわけだし。あ、もしかしてロイド・トラピッチェがいい?」
「えぇ!?」
 もはやなんの遠慮も無しに、リリーがロイドに抱き付く。
「んふふ、近いうちにボクとロイくんが夫婦って呼ばれちゃうから。」
 腕とか胸とか脚とか色々引っ付かれたロイドは真っ赤になってワタワタする……
「リ、リリーくん……その、きみがロイドくんに――お、思いを寄せている事はわかったが……あ、あんまりそういう事はし、しない方がいいんじゃないかと思ったりするのだが……」
「えー。」
 って言いながらさらに力強く抱き付くリリー……
 なんか――頭と胸のあたりがモヤモヤしてきたわ……
「ロ、ロイドくんもほら、困っている――というか今にも鼻血をふき出して倒れそうだぞ。」
 ローゼルの言う通り、ロイドの顔はなんか医者をよばれそうなくらい変な顔になってる。
「あれれ、それは大変だね。」
 そんなロイドを見て……意外にもすんなり離れるリリー。
「今倒れちゃったらランク戦でロイくんが活躍できなくなっちゃうもんね。それは妻としても嫌だから我慢するよ。」
「……理由が気に入らないが一先ずいいだろう……」
 ローゼルがブスッとした顔で不満げに呟いた。そしてぐわんぐわんしてるロイドは、そんなんなクセにリリーに尋ねる。
「で、でもこれ……リリーちゃんはいつ店をやるの……? お昼とか放課後もやるの……?」
「それはこれから考えるよ。みんながここをどれくらい利用するのかを把握してから、具体的に何時開店何時閉店を決めるから。」


 リリーの店の紹介とか、売る予定の商品とか、そんな話をしてたらちらほらと学食にお昼を食べにくる生徒がやって来たから、あたしたちもそうする事にした。
 セットの組み合わせとか考えると結構種類のある学食のメニューを全部食べてみるつもりらしいロイドの今日のお昼は、夏なのに――いえ、夏だからかもしれないけどなんでかメニューにあった辛そうな鍋的なモノ。
 ローゼルはこういう外見で優等生だからそれっぽい上品なモノを食べる感じがするけど、実はそうじゃないから食べるモノもそうじゃなくて、カレーとかパスタとか、ワンプレートのばっかり食べてる。
 ティアナは自分でも料理するからなのかわかんないけど、定食みたいな栄養バランスの良さそうなメニューを食べる。たまに何かをメモしながら食べてたりするから、もしかしたら学食のメニューを全部自分で作れるようになってるかもしれないわね。
 そしてリリーは……メインに食べるモノはだいたいロイドと同じにしてくるんだけど、必ずデザートを食べてる。アイスとかケーキとかって、旅に持ってけるようなモノじゃないから今まで食べる機会が少なかったのかしら……
 そしてあたしは……まぁ、目に留まったモノを食べてる。
 そんな感じにいつもの五人の食事をしてる中、リリーがさっきの話を蒸し返した。
「ロイくんてば、照れてくれるのは嬉しいけどちょっと顔が真っ赤っかになりすぎだと思うんだけど?」
「な、なんの話?」
「ボクがくっついた時の話。」
「えぇ!?」
「もうちょっと慣れてくれないと一緒に寝れないよ?」
「寝る!? 一緒に!?」
 今食べてる辛そうな鍋と同じ色の顔になるロイド。
「夫婦は一緒のお布団で寝るもんだよ、ロイくん。それに――もぅ、何言わせるのー?」
「オレ何も言ってないよね!?」
「でも本当に不思議なんだよね。酒場に行けば両手に花で大笑いするフィルさんと一緒に旅してたのに抱き付かれて真っ赤っかって。まぁ女の子慣れしてるロイくんっていうのも嫌だけど……」
「女の子に抱き付かれたら誰でもああなると思うけどなぁ……え、まさかオレだけなの……?」
「む? しかし――わたしのスカートをめくった時はそこまで真っ赤っかというわけではなかったような……」
「こ、事あるごとに持ってくるね……その話。もしかしてやっぱりローゼルさんすごく怒ってる?」
「…………わたしとリリーくんで随分反応が違う事の理由によっては、ロイドくんに責任をとってもらうかもしれない。」
「せ、責任!? そ、それを言ったらエリルにもあるからなぁ……スカートのともう一個……」
「なにそれ? ロイくん何したの?」
「も、もういいわよ、それ! ローゼルも、いつまで引っ張るつもりよ!」
「しかしエリルくん。未婚の女性の下着を見たのだから、時代が時代なら大事だぞ?」
「いつの時代よ!」
「それでロイドくん、あの時はそんなに真っ赤っかにならなかった理由はなんなのだ?」
「それは……なんというか、お、怒られるっていう「やっちまった」感が強かったからかな……実際二人にひっぱたかれたわけだし……それに――」
 おかしな話題ですっとぼけ顔になれずにいるロイドが、少し恥ずかしそうに目をそらす。
「ふ、二人に嫌われたらやだなぁっていうのが……たぶんあったから……」
「な、なによそれ……」
「そ、そうだぞロイドくん……だいたい、そ、そんな事で人を嫌いになるような器の小さい女に見えていたのか……? そちらの方が問題……だぞ……」
 三人でもじもじしてたら、リリー――とティアナの冷たい視線が飛んできた。
「ロ、ロゼちゃん……い、一度……あ、あたしが休んでる間にみんなで何してたのか、き、聞いてみたいかな……」
「ボクも。」
「そ、その内な! し、しかしそうなると、ロイドくんは誰が何をしても真っ赤っかという事で、あの時はたまたま――という事だな!?」
「う、うん……たぶん……」
「じゃあロイくんは――例えばボクがロイドくんの前で、自分でスカートをぺろってしたらどうなるの?」
「へ、変な例えはやめてリリーちゃん!」
「あの調子のロイドくんだから、おそらく鼻血をふき出して気絶――とかだろう。」
「ちょ、ローゼルさん!?」
「えー? でもさー、ローゼルちゃん。ロイくんてば、これでもエリルちゃんと相部屋なんだよ? カーテンの向こうでエリルちゃんが着替えてたり、扉の向こうでエリルちゃんがシャワー浴びてたりする中、こうしていつも元気なんだから――」
「へ、変な例えやめなさいよリリー!」
 事実だからどうにもなんないんだけど、改めて言われると恥ずかしい。
 で、でもおあいこよ! あたしからしたらカーテンの向こうでロイドが着替えて、扉の向こうでロイドがシャワー浴びて――
「――!!」
「エ、エリル? 何で急に赤く――」
「知らないわよバカ!」
「えぇ!?」
「ふむ。となるとおそらく――そんな、ちょっと覗きたくなる程度のドキドキシチュエーションなら我慢できるが、ダイレクトに来られるとボロボロなのだろう。」
「ローゼルさん、やっぱり怒ってるでしょ……」
「だ、大丈夫だよ、ロイドくん……ロゼちゃん、ロイドくんをいじめて面白がってるだけだから……」
「ティ、ティアナ? ボソッとわたしがいじめっ子みたいに言わないでくれ……」
「よーするに、ロイくんは自分から覗きに行ったり――してないよね、ロイくん?」
「し、してないよ! してないぞ、エリル!」
「……わかってるわよ。そういう事したらロイドが燃えるような魔法を使ってたから……」
「えぇ!? 初耳だ!」
「……最初の頃だけよ……今は使ってないわ……」
「ほぅ……いつでも覗きに来なさいと?」
「そういう意味じゃないわよ!」
「……まぁ、ロイくんだもんね。うん、やっぱりロイくんは自分から誰かを襲いに行く肉食じゃなくて、誰かから襲われてワタワタする草食なんだね。ビキニローゼルちゃんの胸をガン見してたから興味ないわけじゃないはずだけど。」
「お、おいリリーくん、気まずい事を言うな……」
「一番気まずいのはオレだよ……なんでオレこんな事になってるんだ……?」
「うーん……ほら、ロイくんてばボクが大好きって言ったからボクたちを意識するようになったんでしょー? 妻としては、夫が浮気性なのかどうかハッキリさせておかないとね。」
「そ、そう……」
「とりあえずロイくんからはしなさそうだけど、攻めに弱いんじゃあどっかの女にヒョイって持ってかれちゃいそうだね……やっぱりああいうのに慣れておいてもらわないと。」
「信頼されてるんだかされてないんだか……」
 リリーがロイドを好きで、それをロイドが知ってるっていう事が段々と当たり前の光景みたいになってきたわね……

「ねー、ちょっといーい?」

 学食がいつものお昼時くらいの騒がしさになってきた中、通路側に座ってるロイドの横に誰かが立った。声の主の方に顔を向けたロイドは――
「ぎゃわっ!?」
 ――っていう変な声をあげて顔を赤くする。というのも……そいつがすごくアレな格好だったからだ。
 オレンジ色の髪を床に届きそうなツインテールにしたあたしくらいの背丈の女子生徒で……着てる服はもちろん制服なんだけどなんかあっちこっち改造されてる。
 長袖のはずの上着の袖が七分くらいになってるし、スカートが見えそうなくらいに短いし、何よりもお腹周り――おへそが丸出しになってる。
 最近会った人間で例えるならポステリオールの格好に近いわね。
「あらら? やっぱり『コンダクター』って見かけ通りにうぶなんだ? かーわいっ!」
 振り向いた先にあったおへそで顔を赤くするロイドに、そいつはニッコリ笑いかけた。
「どなたですか?」
 一応優等生モードなんだけど、表情は不機嫌そうなローゼルが聞くと、そいつは――文字で例えるなら「キャハッ」って感じに笑ってローゼルを見た。
「随分ヨユーなんだねー。同じ学年の二つ名持ちの顔と名前を覚えとくのって、当たり前だと思ってたんだけど?」
「……では――あなたも?」
「そーだよ? これでも『スクラッププリンセス』って呼ばれてるんだから。」
「お、その名前、さっき先生が黒板に書いてたな。てことは――えぇっと、あなたがカンパニュラさん?」
 可愛く笑ってはいるけど、ローゼルをかなり挑発的に眺めてたそいつは……ロイドにはニッコリ顔を向ける。
「同い年でしょー? アンジュって呼んでよ! あたしもロイドって呼ぶから。」
「そ、そっか……よろしく、アンジュ。」
「よろしくー。」
 ローゼルの――というかあたしたちの不機嫌な空気をよそに握手を交わすロイド。

 アンジュ・カンパニュラ。先生の話じゃあたしと同じ第四系統の火を得意な系統とする奴で、付いた二つ名は『スクラッププリンセス』。
 どの辺がプリンセスなのかよくわかんないけど。

「それで――そのアンジュさんは、わたしたちに何か用が?」
「うん。そこのお姫様にね。」
 そいつ――アンジュがそう言って指差したのはあたしだった。
「……どっかで会った知り合いだったかしら?」
「違うよ? ただお姫様にお願いしたい事があるの。」
 そう言うと、アンジュはリンゴジュースを飲んでるロイドの両肩にポンと手を置いてこう言った。

「ロイドをあたしにちょーだい?」

「は――」
「はぁ? 何言ってんの、きみ。」
 あたしが「はぁ?」って言う前にリリーが――かなり怖い顔でそう言った。この状態のリリーは本当にゾッとするような迫力があるんだけど、アンジュはケラケラ笑うだけ。
「ロイくんの――彼女になりたいとかそういう話?」
「うーん、どーだろー? もしかしたらそーゆーロマンチックなのもありかもだけど、とりあえずは――あたしの騎士としてロイドが欲しいの。」
 正直何言ってるかわかんないアンジュは、そんなあたしたちの反応を見て――ロイドの頭に自分のあごをのっけてユラユラ話し始めた。
「お前が騎士になるのになに言ってんだーって思ってる? 残念だけど、ここに通って騎士になるのって、あたしにとっては通過点なの。あたしの夢の実現の為のね?」
「あ、あのアンジュ……?」
 体勢的にはアンジュに頭を抱かれてるような状態のロイドはまたもやワタワタする――っていうか何してんのよこの女は!
「それであたしの夢が叶った時、あたしの傍にはあたしを守る騎士が必要なのよ。」
「……あ、あなたの夢が何かはわかりませんが、それなら現役で活躍されている騎士を雇うなりしてみては?」
 セリフの上じゃ落ち着いてるけど……今のローゼル、相当不機嫌ね……
「ダメだよ、そんなのー。騎士ってゆーのは常に傍にいて守ってくれる人でしょー? 四六時中歳のイッたおじさんとかおばさんにつけまわされるなんて最悪! やっぱり歳が近い方がいーし、一番いーのは同い年だよね? 子供なのは嫌だし? だからあたし探してたの。将来絶対にすごい騎士になる、あたしの騎士にふさわしい人を。」
 ロイドの頭の上に乗っけた両手を、ロイドの顔をなぞりながらするりするりと下におろしていくアンジュ――!!
「それでやっと見つけた……ロイドなら、将来十二騎士になるーって言っても信じられるでしょー? 今でもすっごく強いもん。だから――あたし、ロイドが欲しいのよ。」
「え、えっとアンジュ……」
 アンジュにほっぺをすりすりなでられながら、顔は赤いんだけど……さっきリリーに抱き付かれた時ほどじゃないロイドが目線を上に向ける。
「そ、そう言ってくれるのは嬉しいけど……な、なんでお願いする相手がエリルなんだ……?」
「お姫様をA級犯罪者の襲撃から守ってあげて、お姫様の騎士になるって夢の為に毎朝特訓してあげて、それでいつもお姫様の傍にいてお部屋もおんなじ……お姫様の為に色々してるロイドはどー見たって、クォーツ家のエリル姫に仕える騎士じゃない。」
「え、えぇ? そ、そうかな……へへ……」
「な、バ、バカ! なんでそこで照れるのよ!」
「ほらやっぱり。だからお姫様、このランク戦でさ、ロイドを賭けて勝負しよーよ。」
「は、はぁ!?」
「直接戦えればいーけど、トーナメントがどーなるかわかんないからねー。最終的な順位で勝ち負けを決めよっか。」
「な、なに勝手に――」
「それであたしが勝ったら、お姫様はあたしとお部屋を交換するの。心配ないよー? あたしの今のルームメイトの子、すっごくいい子だから。それであたしはロイドと一緒に夢を目指すんだー。」
「そんなのできるわけな――」
「じゃ、そーゆーことだから。約束だよ?」
「約束するなんて言ってないわよ!」
「そ、そうだよ、アンジュ。大体部屋の交換って……」
「あれ、知らないんだ? お互いがオッケーすればオッケーなんだよ? お部屋の交換。」
「オッケーしないわよ!」
 いい加減イライラしてきた――っていうかロイドから離れなさいよ、こいつ!
「んー、お姫様もわかってないなー。」
「何がよ!」
 ロイドの頭の上でケタケタ笑ってたアンジュの雰囲気が、少し――ピリッとした。
「あたしって、欲しいモノは必ず手に入れる主義なの。お姫様が約束しようがしまいがロイドは手に入れるの。どんな事をしてでもね? でもやっぱり平和が一番でしょー? だからあたしは提案してるの……お姫様が納得できる方法でロイドをあたしに渡すやり方ってゆーのを。」
「……それ、あたしがあんたに負ける前提で話してるわよね?」
「もちろん。だってあたし強いもん。」
 にやけ顔の中に混じるアンジュの挑発の目を睨みつけてあたしが立ち上がろうとすると、ローゼルが服を引っ張った。
「――ややこしくなっていますから、整理しましょうか。エリルさんも落ち着いて下さい。」
 エリルさん……?
「アンジュさんは、自分が勝ったら部屋を交換するという約束の付随した勝負をエリルさんに挑んでいます。ですがエリルさんにはその勝負を受ける理由がありません。それに対してアンジュさんが言った事を要約すると――勝負を受ける事が最も平和的であり、もしも拒否するようなら手段を選ばず部屋の交換――いえ、正確に言えばロイドくんを自分の近くに置く……そういう、平和的でない手段を使われたくなかったら勝負をしなさい……と、こんなところですかね。」
「小難しく言っちゃって。さっすが優等生。」
「……勝負する事が最も平和的と言いましたが、勝負である以上……アンジュさんが負ける場合もあるわけです。その場合はどうするのですか? 結局平和的でない方法をとるのであれば勝負の意味はありませんが。」
「言ったでしょー? あたしは強いって。でもま、もし万が一あたしが負けるような事があったら……一応、今は騎士の端くれなワケだしね。引き下がる事にするよ。」
「それだと、騎士でなくなったら引き下がるのをやめるという事になりますね。」
「それも言ったでしょー? 必ず手に入れるって。」
「……とりあえず、学院にいる間はこうして勝負などを仕掛けたりはしなくなるというわけですから、勝負の意味はありそうですね。では最後に最も重要な確認です。」
「なーに?」
「アンジュさん……エリルさんが勝負を断った時にあなたがとる平和的でない方法とは例えばどういう事ですか? 正直、それを防ぎたいと思うかどうかでエリルさんの考えが変わりますよ。」
「そーだねー……やろうと思ってたのは……ねぇ、ロイド。」
「は、はいなんでしょう!」
 あたしたちのピリピリした空気の中、渦中の人間なのに置いてけぼりにされてたロイドはビクッとしながらアンジュに顔を向けた。
 するとアンジュは――
「あたしってさ、結構可愛いよね?」
「えぇ!?」
 直球な質問をニッコリ笑いながらロイドにした。
「まー、ちょっと胸とかはまだまだだけどさ、いいと思うでしょー?」
「へ、は、はぁ……」
「可愛い?」
「か、かわいい――と思います、はい……」
「制服もいい感じでしょー。特に見て欲しいのはスカートなんだよね。短いだけじゃないんだよ? ほら、ここ見て。」
「へぇ――」
 短い以外に何があるのやら、ロイドを含めて全員の視線がアンジュのスカートに移った瞬間――

「えいっ。」
アンジュが自分のスカートをペロンとめくりあげた。

「――ぶはっ!!」
 そして一瞬の間を置いて、ロイドが鼻血をふき出して隣に座ってるあたしの方に倒れてき――

「ななななにやってんのあんた!」
 目をぐるぐるさせて鼻血を垂らしてるロイドを受け止めながら、ロイドの目の前――ホントに目の前で自分の下着をお披露目した変態女を睨みつける。
「きゃー恥ずかしー!」
「どの口が言ってんのよ、この変態!」
「でも効果はバツグンでしょー? ま、よーするにこんな感じでさ――」
 いやんいやんしながらパチンと指を鳴らすアンジュ。すると鼻血ふき出して気絶したロイドの身体があたしの方からアンジュの方に――まるで跳ねるみたいに移動した。
「女の子にうぶうぶなロイドをあたしの可愛さでメロメロにしちゃう――これが平和的じゃない方法――かな?」
 ロイドを抱きかかえ、そのほっぺに軽くキスをし――!?
「じゃ、いい勝負しよーねー。」
 長いツインテールを揺らしながら、アンジュはそこから去って行った。



「あの女殺してやる。」
「ま、まてリリーくん。きみが言うとしゃれにならない……」
「ボクだってまだ見せた事ないのに!」
「そ、それって張り合うところ……なの……?」
「ん、起きたわね……」
 気が付くとオレはオレのベッドに横たわっていた。妙に息がしづらいと思いながら起き上ったオレは自分の鼻にティッシュが突っ込んであるのに気づき――
「――!!」
 あの光景を思い出した。
 白いスカートの方に目をやったと思ったらそれがパッとめくれ、その下に隠れていた下着が――小さなリボンなんかがついてて黄色の可愛らしいパンツが――
「あーっ! ロイくんてば思い出してるでしょー!」
 顔に出てた……というか思いっきり顔を赤くしたオレを見てリリーちゃんがムッとする。
「い、いや、これは……」
「……鼻血出して倒れるとか、漫画みたいねあんた。」
 一番近い所――オレの横に椅子を持ってきて座ってるエリルがムスッとした顔で呆れる。
「しょ、しょうがないだろ……あんないきなり……あぁ、こりゃあしばらく頭から離れないぞ……」
「変態。スケベ。エロロイド。」
「お、男なら誰だってこうなる! エリルとローゼルさんの時もしばらく顔見る度に――」
「思い出していたのか!? スケベロイドくんめ! わ、忘れろと言ったのに!」
「ごめんなさい……ついでに謝っとくけど、エリルの――その、感触も結構手に残ってたりします。ごめんなさい。」
「――! バカ……」
「む?」
 ローゼルさんが怪訝な顔になったのでどうかしたのかと思ったらその前に、エリルが割と真面目な顔でこう言った。
「あたし、あいつの勝負受けるわ。」
「え、ア、アンジュの?」
「そうよ。パ、パンツ見せ――てきたりとか、も、もしかしたらもっとアレな事もしかねない感じだし、そ、そうなったらあんた出血多量でランク戦どころじゃなくなっちゃうじゃない……」
「……否定できないのが情けないけど……で、でもつまりそれって……オ、オレの為に受けるって事か……?」
「バ、か、勘違いしないでよね! あ、あくまであたしの為よ!」
「そ、そうなのか……?」
「あたし……ちょ、ちょっと期待してるのよ……ランク戦であんたと勝負できるかもって……」
「オレと勝負? 毎朝――いやまぁ、夏休の間はしてないけど、練習試合みたいのしてたろ。」
「公式のって事よ。ちゃんとした舞台って言うのかしらね。あんたと初めて会った時の模擬戦以来、そういうのやってないでしょ。」
「んまぁ……」
「あたしはあんたから色々教わってるわけだし、あんたの方が強い――と思う。で、でも――あたしの中じゃあんたは……ラ、ライバル……的なそんな何かで、だからやっぱり……挑戦したいっていうか――うまく言葉になんないけどそんなんなのよ! だからあんたにはランク戦でしっかりやってもらわないと困るのよ、バカ!」
「……オレの方が強い……どうかな、実際。でもエリルの気持ちはわかるぞ。オレにとってもエリルは――そう、言葉にできない感じのライバル的な何かな気がするから。」
「……そ。ま、まぁ? それにあんたがあいつにメロメロになって部屋から出てったりなんかしたらあたしを起こす人間がいなくなっちゃうしね!」
「オレは目覚ましじゃないぞ……ていうかエリル。前はすっごい眠そうだったけどちゃんと起きてたじゃんか! なんか……あの侵攻の後あたりから起きて来なくなったけど……」
「…………あんたのせい……なんだけど。」
「えぇ?」
「あたし……ここに入ったばっかの時は……焦ってたわ。一番上の姉さんが死んで、お姉ちゃんがその後任になって……別に《エイプリル》を信頼してないわけじゃないけど、大切な人を守らなくちゃって……早く強くならなくちゃって……だから片っ端から模擬戦挑んで……今ならわかるけど、あたしあの頃ぐっすり眠れてなかったのよ。いつもピリピリして……」
「そんな感じだったな。」
「でもあんたに会って、あんたがルームメイトになって……あんたがいつもすっとぼけてるから気が抜けて……」
「ちょ、何気にひどい事を……」
「あたしが強くなるのを手伝うって言ってくれて、一緒に立派な騎士になろうって……それで実際に、あたしはあんたのおかげで結構強くなった。それでふと思い返したのよ。焦って勝負ばっかり挑んで……あたしは何やってたんだろうって。」
「……うん。」
「あんたとならあたしは強くなれる。あたしと同じに、大切な人を守る騎士を目指すあんたとなら。だから焦らずに……一歩一歩頑張ろうって思えたの。そしたら――ぐっすり眠れるようになったのよ。元々あたし、朝は弱い方だったから、そしたら起きれなくなったの。だからあんたのせい。せ、責任とって目覚ましやりなさい。」
「……わかったよ。でもさ、この際だから聞いて見るけど……目覚まし係なら別の誰かでもいいわけだし、その……オレと相部屋って嫌――じゃないか……?」
「は?」
「だ、だってほら、男と相部屋ってそれだけで……カ、カーテンとかもせっかく慣れたのにって言ってたし、やっぱ面倒なのかなって……」
「なによいまさら……あたしもこの際だから……ちゃんと言うけど、い、今の状態、結構……気に入ってるわよ?」
「ほ、本当か?」
「あ、あんたも言ったじゃない! 自分と同じように頑張る奴と一緒の部屋の方がいいって! あたしにとってはあんたがそうなワケだし、それ以外にも――ふ、普通に……あ、あんたとしゃべったりするの……た、楽しい――な、なにこっぱずかしい事言わせんのよ! と、友達なんでしょ、あたしとあんたは! それで充分よ!」
「……そっか、よかった。いや、オレはそう思ってるけどエリルはどうなんだろうって……ふと気になったんだ。そっかそっか……」
「……なによそのにやけ面。」
「嬉しい事を言われたから嬉しいんだ。よし、エリル。ここは一つカッコよく――ランク戦、決勝戦で会おう!」
「……望む所よ!」
 ガシッと握手を交わすオレとエリル。手から伝わるエリルの温度に高揚感を覚え、オレはランク戦に向けて今一度の決意を――

「こういう所が夫婦なのではないか?」

 胸が高まる熱い気持ちを冷えさせるローゼルさんの氷のような声がオレとエリルの間に入って来た。
「あ、あたしたちがいること……忘れてた……よね……」
「告白した女の子の前で他の子とイチャイチャするなんて、どうかと思うよロイくん。」
 ティアナとリリーちゃんも冷たくオレたちを睨んでいる。
「加えてエリルくん。」
「な、なによ……」
「なんというか、ここ最近のきみはロイドくんの恥ずかしいセリフに対してあまり慌てなくなったな。胸を触られた時など、責任を取れとか言いながら走り回っていたというのに、今その話をしたら、「バカ」の一言で片づけてしまったし。」
「胸を!? エリルちゃんなんてうらやま――ロイくんなにやってんの!?」
「あ、あれは事故! 事故だよリリーちゃん!」
「ロイドくんと相部屋のせいでそういう言動に慣れた――とも思えるが、どうもそうではない気がする。」
「な、なにが言いたいのよ! そうよ、慣れたのよ!」
「……どう言えばいいのかわからないが……照れるとか恥ずかしがるとかそういうのがありつつも、しかしそんな段階を遥かに超えているような……」
 ローゼルさんが難しい顔をする横で、ほっぺを膨らませてぶーぶー言っていたリリーちゃんがハッとする。
「そっか! むしろボクが挑むべきだよね! エリルちゃん、ボクと勝負だよ? 勝ったらこのお部屋とロイくんをもらう。」
「あ、あんたまで何言ってんのよ!」
「む? いや、それはダメだぞリリーくん。そんな事になったら女子寮の風紀が乱れてしまう。クラス代表としてそれは見過ごせない。ここは一つ、渦中のロイドくんをわたしがしっかりと保護する。エリルくん、部屋を交換しよう。」
「しないわよ!」
「え、えっとえっと、あ、あたしは――えっと……そうだ、ロ、ロイドくん、ごはん作ってあげようか……」
「いきなりだね……いや、嬉しいんだけど。」

 ランク戦の前日。アンジュの出現でドタバタしたその日は、何故かティアナとローゼルさんの部屋でごはんを食べて終わった。

『騎士物語 第四話 ~ランク戦~ 第一章 プリンセス襲来』

リリーちゃんの告白によって色々と変化してきました。
おそらくこの第四話は、それによって起きる色々な事が描かれるでしょう。

同時に、変なキャラを出せる「ランク戦」という状況――私のいきあたりばったりが本領を発揮するでしょう。

『騎士物語 第四話 ~ランク戦~ 第一章 プリンセス襲来』 RANPO 作

『イェドの双子』との戦い――よりもリリーからの告白で頭がいっぱいのロイドくん。 そんなロイドくんの心には少し変化が起きており―― そしてついに始まるセイリオス学院の一大イベント――ランク戦 妙にテンションの高い先生が紹介した、ランク戦における注目の生徒の内の一人が『ビックリ箱騎士団』の前に現れて――

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更新日
登録日 2016-01-23
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