独立祓魔官の愛ある日常 ~天将と神童のデュエット~
ハローハロー、漆黒猫でございます。
鈴鹿と源司氏が、縁側で話してるだけです。
日常の合間の小話的な。
神童は京子と喧嘩してから、更に腹ぁ括っちまいましたよ、と。
苔寺とかね、神社仏閣とかね、浜辺でのキャッキャウフフとかね、
色々考えてはいたのですが、鈴鹿はともかく、源司さんだからなぁ・・・。
大人のゆったり感マックスで、縁側でしっとりお話、とかなりそう。
こんなド短編ですが、お楽しみ頂ければ幸いです☆
独立祓魔官の愛ある日常 ~天将と神童のデュエット~
古都・鎌倉の早朝。
倉橋家別宅。
「・・・・・。」
倉橋当主の手の中で、抜き身の日本刀が妖しい輝きを放っている。
一定のリズムで刻まれる素振りの音は、聞くだけで妙に心が凪いでくるから不思議だ。武闘派陰陽師家に伝わる宝剣、秘めた銘を持つ妖怪斬りの呪具なのに。
朝靄が煙る日本庭園。
縁側には、金髪碧眼の少女がひとり。
穏やかに背筋を伸ばし、小袖の裾も綺麗に正座している。
「お茶が入りました、倉橋長官。」
「あぁ。ありがとう、鈴鹿。」
脇の盆には急須が1つと、湯呑みが2つ。まろやかな緑の水面からは、湯気が立っている。中身は高級な玉露・・・ではなく、安価なほうじ茶。ソレが源司の好みだった。
鈴鹿の傍ら、縁側に腰かけた陰陽庁長官は、穏やかに嘆息した。
「私の出張に付き合って、2週間の鎌倉暮らし。
異動を命じた当の私が言うのも何だが、私と2人きりなど、気疲れするのではないか? やはり鏡も連れて来るべきだったか。」
「フフフ♪ 甘いですね~、長官は♪
あたしも大概、人の事言えませんけど。自分がどれ程愛されてるか、自覚ないったら♪」
「そうか?」
「大前提として『長官直属』なんて、あたしにとって『ご褒美』以外の何物でも無いんですから。長官独占。ついでに宮地さんも独占。両手に花。思う存分お守りし倒していいとか、なんて素敵なパラダイス☆ 天国は此処にあった・・・!!」
「そ、そうか・・・。」
「今のあたしは、長官と宮地さんと、ちゃんと向き合いたいんです。2人がちゃんと向き合ってくれる人間になりたい。
どうせあたし、自分が2人を殺す気になんて成れないの、判ってるし。」
「その道は・・・孤独な道ではないのか。
『友』はお前の選択を、必ずしも歓迎すまい。」
「平気です。鏡が居るから☆」
「・・・・・。」
ナチュラルに惚気やがった。
複雑な表情でほうじ茶を啜る源司の横顔を、鈴鹿はすっきりした笑顔で見つめている。碧眼には澄んだ光が宿っていた。
先日、都内の焼肉屋で京子に会った、らしい。その際にちょっとした諍いになったとかで、陰陽庁に帰ってからも、鈴鹿はしばらく落ち込んでいるように見えた。源司としてはソレが案じられてならず、今回『溜まっている倉橋当主としての諸事雑務を、2週間かけて一気に片付ける。』という名目で鎌倉に・・・鈴鹿の好きな海の見える場所に出張を設定し、彼女の気分転換を図った、つもりなのだが。
『アイツなら大丈夫ッスよ、長官。もう答え出しちまってるんで。』。
そう言った伶路の判断は正しかった訳だ。
『父親』として安心するやら、伶路相手に嫉妬するやら、である。
男どもの水面下の遣り取りは素知らぬ顔で、鈴鹿は源司と同じ急須から注いだほうじ茶を、美味しそうに飲んでいた。
「こういう、些細な時間の平凡な世間話でイイんです。あたし、もっと長官や宮地さんと話したい。
長官と宮地さんを、色眼鏡なくしっかり見て、僅かなりとも理解出来たら。『陰陽塾時代の友達』を敵に回して、長官たちのお手伝いをする事も厭わない覚悟です。
だから2週間と言わず、この先もずっとお傍に置いて下さいね、倉橋長官♪
東京帰った途端にまた異動、とかイヤですから。」
「鈴鹿・・・。」
「はい♪」
「・・・あとで一緒に、紫陽花でも見に行かないか。少し車を走らせれば、お前の好きな海も見える。
苔の石段で有名な妙法寺は勧めない。苔の保護の為だとかで、登段禁止になっていてな。カラフルな花畑や広々した海原の方が、お前も楽しめるだろう。」
「いいですね、行きましょう♪
天気予報で、午後から小雨が降るって言ってましたから。あたし、晴れてるより雨の中で見る紫陽花の方が好きです。」
「冬の雨より、梅雨の雨の方が体を冷やす。
温かくして行こう、鈴鹿。」
「はい、倉橋長官♪」
鈴鹿が嬉しそうに笑って、空いた湯呑みに2杯目を注ぐ。異動してから集中的に習ったのだ、淹れ方を、絃莉・・・カフェも開いているお茶のプロ・伶路の式鬼に。
自分の淹れた茶を飲み、忙しい仕事の合間にほんの少し眉間の皺を緩めてくれる、源司と磐夫に。満足そうに静かに微笑む『実子』を初めて見た時、『実父』が唖然としていたものだった。
ちなみに『夜叉丸』は未だ、鈴鹿に茶を淹れてもらった事はない。
一度だけいつもの調子でカルく命令して、彼女に真顔で『いいけど・・・先に雑巾濡らしてきていい?』と返されて以来。
提案した事すらない。
「あぁ、このまま、霧が雨になるようだ。」
「あら本当。こういう瞬間も、綺麗なものですね。」
「そうだな。」
「倉橋長官、お体、お冷えになったでしょう?
お風呂を沸かしてあります。どうぞ温まってきて下さい。朝ご飯はその後にしましょう。今日の主菜は長官の好きな『鮭の西京焼き』ですよ。」
「気が利くようになったものだな、鈴鹿。
鏡は良い嫁を見付けたものだ。」
「アイツの事はイイんですっ。
『倉橋長官と宮地さんの為に』覚えたスキルなんですからっ。」
甲斐甲斐しく嬉々として『上司』の世話を焼く鈴鹿と、穏やかに笑みながら『部下』に背を押されて風呂場に向かう源司。
『親子』の会話を喜ぶように、庭の紫陽花が広い葉を揺らした。
―FIN―
独立祓魔官の愛ある日常 ~天将と神童のデュエット~