忘れ物を取りに帰ったら、幼なじみがイケメンに!?

始まりは忘れ物


  それはいつも通りの寒い日の朝だった。


 寒いけど雲1つない、痛いほどにキーンと透き通った青空の朝で、そんな時には私はいつも決まって、空のどこかに雲を探してしまう。

 雲ひとつない真っ青な空は完璧すぎる存在に思える。飛行機雲でもあれば落ち着くのにと、私はキョロキョロと雲を探した。


 私はなぜだか完璧なものが苦手だ。


 少女マンガに出てくる出来すぎた恋愛話や、スタイリッシュすぎて落ち着かない家具や、カッコ良すぎてちっともくつろげないおしゃれなカフェ。それらがなぜかとても苦手だ。
 だから学年で一番の、誰もが一度は恋したはずというイケメンの羽柴くんにも、なぜだかちっともときめかない。

 少女マンガにも、素敵な家具にも、おしゃれなカフェにも、羽柴透にさえもときめかないなんて、どうもかなりおかしいらしく、高校のクラスの女子とも話が全然弾まない。
 話すのが苦手な私だから、もちろん男子となんて、言葉を交わす機会さえほとんどない。


 そんな、ぱっとしない高校生活だけど、絵を書くことが好きな私は、好きなものがあるというそれだけの事実で、それなりに自分のことを幸せだと思っている。
 落書きだらけの教科書と、ちょこちょこ他のクラスから遊びに来てくれる、幼なじみの女友達、ツバサがいれば、それなりに毎日充実している。
 人から見たらどうか分からないけど、人付き合いが苦手な女子高生の中では、そこそこの充実度なのではないかと自負してる。

 できたらツバサには私同様、ジミ顔でいてほしかったのだけど、残念ながらツバサはみんなが振り返るくらいのかわいい容姿の持ち主で、それが本当に玉に傷だと言えた。
 玉に傷だと思っているのは私だけだと思うけど。
 でも、その人なつっこく世話焼きな性格に、引っ込み思案な私は何度も救われた。ツバサから見て私が一番の親友かどうかわからないけど、私にとっては一番の親友だ。神様本当にありがとう。


 そしてそれは、そんな私の高2の冬の朝で、いつもの通学路のことだった。
 冬だからこその綺麗な青空に、雲を1つも見つけることができなかった私は、なんとなく、ちょっと負けたような気になって学校への道を歩いていた。
 家から3つ目の、いつもタイミング悪く赤になるんだけど、自分との約束で絶対に走らないと決めている交差点を渡り終わった時のことだった。

 こんな負けたような気になる時は決まって嫌なことがあるんだよなと思っていたら、ふと口から、

  「あ。リーダーの教科書」

という言葉が出てきた。

 その不意に口にした言葉から、そろそろ私の当たる順番だからと昨日の夜に部屋で予習をしたこと、それからその教科書を机の上に置きっぱなしだということにはたと気づいてしまった。

  「!」

驚きすぎて無言になった私は、気付くと同時に勢いよく振り返って、一目散に家に向かってダッシュした。

 教科書を忘れた時期が夏だったら、もう少し余裕を持って家に戻っただろうし、そもそも家を出る時にもう一度カバンを見返したに違いない。そしてリーダーの教科書を忘れなかったに違いない。

 でも、朝が極端に弱い私にとって、冬の朝はなかなかの難関で、いつも駅に着いて電車に丁度のタイミングから逆算してぎりぎりの時間にしか起きれないのだ。どうしても起きれないのだ。
 そして不思議なことに電車のダイヤが早くなっても遅くなってもそれは変わらなかった。

 「このままだと学校に間に合わない」

いつもはのんびりしていると言われる私が、この冬一番焦っていた。

 焦っていたいたからかもしれないし、焦っていたのにとも思うのだけど、いつもと逆に歩く朝の通学路はなんだか全く別の世界に見えた。
 夕方には毎日ここを通るというのに、それは本当に別の世界だった。
 確かに北側に田中さんの家があって、南側に銀行のマンションがある。それは頭では理解していた通りなのだが、それでも全くもって別の世界なのだったのだ。

 急いでいるのに、焦っているのに、「なんだか別の世界だなあ」とのんきなことを考えながら走っていたら、どんどん、どんどん違和感が増してきた。

 でも、今はそんなことに構っている暇はなかった。うちのマンションに着いて、入り口のオートロックが入り口に対して左右逆に付いていることに気づいた時にはかなり不思議だったが、急いでいる私はその状況をあっさり受け入れた。

 こういうところがいつもツバサからぼんやりしていると言われるところなんだろう。きっと。


 マンションの3階に着いて、自分の家の部屋の入口がエレベーターに対していつもと同じ右側だということに、ほっと安心しながら自分の部屋に入った。
 左右の配置が逆になってる机の上にある、リーダーの教科書をカバンに入れた。
 教科書の表紙のマイクとケイコの配置が逆のような気がしたが、それは電車に間に合ってから考えようと、とにかく私は不思議な教科書をカバンに入れて慌てて急いで家を出た。

 奥から「どうしたの?」と声をかけるお母さんにも、「忘れ物っ」というのが精一杯だった。
 もう、何が原因で精一杯なのかわからないまま、私はなんとかいつもの電車に間に合った。


 いつもと逆の方向に向って走り出す電車に乗りながら、なんとなくもう元には戻れないのだと私は感じていた。
 全部が全く左右逆とかなら想像もしやすいのに、どうやら全部が左右逆なのではなく、どうやらどこかがちょっとづつだけ違うようだった。

 冷静に考えたら引き返して元の世界に戻ろうとするのが普通かもしれない。
 そうやったところで元に戻れるかどうかわからないけど、それでもやってみるものなのかもしれない。
 でも、私は絵を描くことしか取り柄のない、ぱっとしない女子高生だからか、帰ったら学校に間に合わない、ということばかりが気になって、一向に引き返すことができなかった。


 駅から見て、いつもとは逆方向に高校があったというのに、私は全く迷わずに高校に着いた。
 私の高校の校門はあまり飾りっ気がなかったので、左右逆だったかどうかは分からない。
 いや、どちか側から閉める構造になっているか、きちんと見て確認したら左右逆だったかどうか分かるはずだが、私にとって、それは全くもってどうでもいいことであった。


 校舎に入って、下駄箱の前で靴を脱いでいた時に後ろからツバサに声をかけられた。
 いつものように明るく、でもちょっと甘えたようにゆっくり
「おはよおー」という声がして私は振り返った。



 実はその時自分がどんな顔をしていたのか全く覚えていないし、未だに全く想像がつかない。


 とにかく頭の中が真っ白になっていた。


 いや、正確には真っ白というよりは何色も、何の模様もついていないほど、空気みたいに空っぽになっていたのではないかと思う。



 なぜ、私がそんなに驚いていたのか。



 それは、いつものように声をかけてきたツバサが女の子ではなく、男の子だったからだ。

忘れ物を取りに帰ったら、幼なじみがイケメンに!?

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忘れ物を取りに帰ったら、幼なじみがイケメンに!?

主人公のユキは17歳の絵を書くのが好きで、人づきあいが苦手な女子高生。 ある日、忘れ物をして通学路をいつもと逆の方向に歩いていたら、左右がところどころ逆になった世界に迷い込む。 その世界ではなんと、幼なじみの仲のいい同級生がイケメンになっていた!

  • 小説
  • 掌編
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  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-04

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