あの日のラムネ

恋とラムネはよく似ている


口のなかでふんわり溶けて
甘く優しい味がする

舌で転がすとあっという間に消えてなくなり
甘ったるい香りだけが残るのだ

「あたし、ラムネって、苦手なのよ」

ある夏の日君が言った
気が遠くなるほど白い夏だった

「しゅんわり、じんわり溶けていくところが」

長い髪が揺れる。
汗ばんだ君の首筋にはりついている。
僕は黙って深呼吸をする。

「消えてなくなってしまうのが寂しいからかい」

「寂しくなんかないわ」

「そうかい」

「そうよ」

君はひとつぶラムネを出すと、口に放って噛み砕いた。
バリリと音がした。

恋とラムネはよく似ている

あの日のラムネ

あの日のラムネ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-03

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted