cheerful person.4

cheerful person.3の続き。

テスト①

「えー、そろそろ中間テストも近いので、みんな、しっかり復習するように。」
金曜の6限の授業の終わり、担当の先生がそんなことを言っていた。
高校生活にも慣れてくる5月、この時期にある行事と言えば、中間テストである。
この白上高校に入学して、もう一ヶ月が過ぎた。中学までぼっちだった俺の周りは、やはりほとんど変化がない。
変わったとすれば、入学したときから俺に妙にひっついてくる少女がいることと、それを見て、彼女がいない男子生徒が送ってくる敵意
くらいである。
前者は、まあ、良いといえば良いのだが、やはり問題は後者である。疲れる。毎度毎度。ホントに。
「テストだってさー。シユ君。」
そして今日もやってきた。俺の数年ぶりの友達と言える友達、我が1-Aクラスに「いい加減にしろよ立川」の流行語を流行らせている原因が。
「シユ君、勉強できるの?」
「まあ、人並みにはな。秋風は?」
今回の話題は勉強のことらしいので、こっちも聞き返してみる。
「うーん、どうだろう?一応できるとは思うんだけど。」
これは意外。秋風は自信なさ気に答えた。これは弱点発見か!!と思い、さらに踏み込んでみる。
「意外だな。秋風ならやれるって言うと思ったのに。ちなみに、中学のときテストの順位何位くらいだった?」
「1位だったけど。」
早かった。ようやく弱点を見つけたかもしれないという淡い希望は、すぐに粉々に砕け散ってしまった。
「嫌味か・・・それ。」
「それがそうでもないんだよ。1位とかばっかり取ってるとね、今度は他の学校が気になってさ。そしたら、なんか自信なくなっちゃって。」
「なるほど。上には上の悩みがあるんだな。」
どうやら、秋風には秋風なりの不安があるらしい。しかし、
「でもさ、高校でも良い成績取れれば、それで良いじゃん。秋風が気になってた他の学校の人と競うんだし。」
そうなのだ。中学校の頃の、他の学校の生徒と同じ学年になるのが、高校である。ここで1位を取ってしまえば問題はない。
「う~ん、でも、もしここのテストですごい悪い順位取ったらどうしよう?」
珍しくマイナス思考の秋風。こういう姿を見ていると、自分とあまり大差ない人間なのかなと思った。思ったのだが
「あ、そうだ!シユ君、明日ウチに来てよ。」
「・・・は?」
やっぱり俺みたいな凡人とは違う。なんていうか、思考回路がぶっ飛んでる。
「何で?」
「だって、シユ君さっき、人並みだって言ったじゃん。じゃあ、明日シユ君を見て人並みがどれ位なのか見てみたいなって。」
分かって言ってんのかな?この子。若い女子が男を呼ぶって、アレだぞ。色々とアレだぞ。あと周りの男子の瞳孔開きっぱなしなんだけど。
瞬きすらしないんだけど。メッチャ怖いんだけど。
「あ。そろそろ電車の時間だ。後でメールに地図付けて場所教えるからね。じゃあ、また明日ね。」
どうやら、こちらに拒否権はないようだ。仕方がない。観念して行くとしよう。
やましい気持ちはないからな。ホントだぞ。
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こうして、明日になった。俺は、10時に秋風の家に行くことになっている。
電車の切符を買い、電車に乗る。ここから2駅のところで降りるので、少しだけ時間がある。
どうでもいいが、俺が休日に人の家に行くのは、すごく珍しいことなので、両親には一応話してある。
母親は「士愉にも友達が・・・おめでとう!!母さん嬉しいよ!!」と感涙され、
父親からは「女子か?ガールフレンドか?そうだよな!!俺が母さんの家に行ったときと同じ雰囲気だからな!!」
と、なんか見抜かれ、一応女子の家ということで、服にも気をつかったら
「あひゃひゃひゃひゃwwww!!士愉がwwwwオシャレしてるwwwww!!!あひゃひゃひゃひゃひゃひゃwwwwwwww!!!!!!」
と、朝からバカ親父に盛大に笑われた。なんでいい年してあんな元気なんだよ。あの人。
嫌な思い出を思い出していると、いつの間にか目的の駅に着いていた。
そこから、ケータイを見ながら歩くと、彼女が住んでいるであろうマンションに到着した。
4階の左端の部屋が、彼女の部屋らしい。見てみると、表札には「秋風」と書いてある。
恐る恐る、インターホンを鳴らす。正直、お父さんとかが出てきたりしたらどうしようとか考えていると
「あ、シユ君。いらっしゃーい。」
いつも通り、ひょっこり秋風が出てきた。良かった。秋風でホントに良かったと思っていると、ふと彼女の格好に目が行った。
上に半袖の白いTシャツで、下はホットパンツという私服姿だった。
いつもは制服姿しか見ないので、いつもと違う格好をしていると何だか新鮮だなーと呑気に考えていると
「シユ君、意外とオシャレするんだね。」
と、すごく無礼なことを言われた。
「秋風、お前俺を何だと思ってるんだ?」
「ぼっち。」
ですね。
「いや、ぼっちだけども、それでも服には気を使うよ。あんまりおかしかったら笑われるだろ。」
「あ!上着白ってことは、おそろいだ!!」
「聞けよ!!」
どうやら、俺の話より、俺が白いパーカーを着てきたことで色が同じだということが気になったらしい。
そういえば、同じである。
「まあ、入って入って。あんまり大したおもてなしはできないけどね。」
そう言われて、中に入る。秋風から、飲み物を持ってくるから、どっか適当に座っててと言われたので、テーブルの近くに座ることにした。
この家に入って感じた印象は、なんかモフモフしてる、である。
カーペットもモフモフ、クッションもモフモフ、置き物もモフモフ、と言った感じだ。
女の子してるんだなーと考えていると、秋風がオレンジジュースを持ってきてくれた。
「じゃあシユ君、勉強しよっか。」
いきなり本題が始まった。まあ、こちらもその目的で来ているので、全然構わないのだが。
「よし、やるか。」
そう言って俺は、頭を勉強用に切り替えた。
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「シユ君、そこ分かんないの?」
ものの30分もしない内に、「一緒に勉強」ではなく、「秋風が俺に勉強を教える」という形に変わってしまった。
秋風は、俺がどのくらい勉強できるかで、人並みがどれ位か知りたかったからなのか、結構安心したような顔をしている。
「良かった~。シユ君よりは勉強できて。」
なんか小馬鹿にされてるような気もするが。
しかし、実際秋風の学力は凄かった。数学の課題で出たプリントを5分程度でパッと終わらせて、
俺はそのときはまだ、数問解いたところというところだったのだ。
そこで秋風先生の助力を得たところ、分からなかったところも解けるようになったのだ。
「ありがとな、秋風。」
「別にどうってことないよ。分からなかったらいつでも聞いてね。」
そう、ニコッとしながら答えてくれた。ウム、将来良い先生になれそうだ。
それはそうと、ずっと気になっていることがあった。それは
「なあ、秋風。お前の他に人いないのか?」
ということである。さっきから、俺と秋風以外に人を見ないのだ。
「ウン、私ここでは1人暮らしだから。」
らしい。いや、ちょっと待て。この子、自分1人しかいないのに俺を家に上げたのか?
「お前・・・少しは危ないと思えよ・・・。」
「?」
秋風は、なにが?とでも言うような顔をしている。もし、俺が襲ってきたらどうするんだ。まったく。
だいたい、アイツの今日の格好ラフ過ぎないか?丈の短いホットパンツからのびるスラッとした脚とか、たまにチラッと見えるお腹とか背中とか
もう目のやり場に困るわけですよ。ホントに。
「シユ君は、ご家族さんと一緒に住んでるの?」
「まあな。朝からこの格好見て親父にバカ笑いされた。」
「ぼっちのシユ君がオシャレなんかしてたら、そりゃ笑うよ。」
この子、けっこう毒舌なんだと最近わかってきた。
「秋風のご両親は今どうしてるんだ?」
「3人で住んでるよ。今年中2の弟と。」
「へぇ、秋風って弟いたんだ。」
「うん。和也って名前。」
こんなに人と会話したのはいつ以来だろう。おそらく、かなり前だ。
前に、さりげない一言だったが、彼女は言ってくれた。自分たちは友達だと。
自分は1人で過ごす時間も楽しかった。しかし、今とどちらが楽しいかと言われたら、おそらく今だろう。
ぼっちは別に嫌じゃなかったけど、友達ができるのは、やはり良いことだ。
「シユ君、勉強しないの?」
感傷に浸っていると、その友達に現実に呼び戻された。そうだ、プリント終わってなかったんだ。
再び秋風先生に教えてもらいながら、プリントを終わらせた。
時計をみると、話していた時間もあったからか、そろそろ12時を指そうとしている。
「そろそろお昼だね。お昼ごはん作ろっか?」
なん・・・だと・・・!!これはまさか、手料理フラグか!?
「秋風が作るの?」
「他に誰が作るの?私じゃなかったら。」
いやっっっったあああぁぁぁぁぁぁ!!!と、心の中でブレイクダンスをしながらも、表面上はあくまで冷静にお礼を言っておく。
この楽しい時間は、まだまだ続きそうだ。

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秋風弟がどんな人物かは、ある作品に書いてあるので、興味があれば是非(宣伝)

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更新日
登録日
2015-12-29

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