*星空文庫

雪の日

玉置こさめ 作

さっきから私のはすむかいにうなだれている少女がいて異様で恐ろしいのに動けない。
年末の一日、私は友達と年越しの旅行に出かけるために単発のアルバをしていた。
スーパーマーケットの試食販売だ。
最小限は声をあげるのが恥ずかしかったが3回目には慣れていた。
その町のその店の青果売り場の仕事を紹介されたとき、私は迷った。そこは母方の祖父母が住んでいた町だった。彼らと母は非常な不仲で家出するように父と婚姻したのだということが、もう16の私には理解されていた。
国際便の飛行機事故で彼らが突然に亡くなった、その知らせを兄弟から受けたときも、母はまず「海外なんて贅沢するから、いい年して」と罵った。葬式に出るのも病的にいやがった。
だから私は涙を隠さなければならなかった。
母の強情さ、子供や父という伴侶の前でも少しの嘘もつかないその恥知らずな感じに押さない頃の私はお腹を痛めるほどに苦しめられた。
忘れかけていた、そんなことすら一息に思い出した。その町は旅に出てそれっきりになってしまった祖母と祖父の居た場所だ。
迷ったけれども決めた理由は試食販売の品が果物だったからだ。
殺菌した手袋をはめてみかんの皮をむいてお客さんに渡すだけ。
こんな楽な品は初めてだった。
通常は肉や野菜や調味料がメインで必ず調理の手間がかかる。そういうときに必要な器具は必ず自分で持参しなければならない。それが隣の県でも早朝からホットプレートを担いで現地に向かわなければならない。
そんなのがイヤになりかけてもいたのだった。
そしてそんな軽率さをまさに今悔やんでいる。


≪つづく≫

『雪の日』

『雪の日』 玉置こさめ 作

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2015-12-15
Copyrighted

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