偶然と必然
名前のない猫と名前を知らない男の紡ぐ物語。
彼らの運命を除きみる覚悟はありますか?人の心の奥底を除きみる覚悟はありますか?
プロローグ
何の変哲もないただの«猫»は呟いた。
「君たち人間はさ、この世の全てを理解したつもりになっているけど、実際それは間違っているんだよ。むしろ、世の中は君たちが知らないことで溢れかえっているんだよ。この僕のように・・・ね?」
猫の前を«偶然»通りかかった男は、それが自分に向けられていることにまたな、猫が喋るということに目を見開き驚いたような顔をした。しかし、男はすぐに自身を取り戻しこう言った。
「ならお前が見せてみろ。私に私の知らぬ世界を見せてみるがいい。」
今度は猫が大きく目を見開く番だった。今までの人間は彼が話しかけると、目を見開き奇声を上げながら逃げていくか、不吉な物を見るような顔をして暴行を加えるかのどちらかだった。彼が猫なのに喋るというように、男もこの世の中で«異質»な存在のようだ。
「どうした?自分から話しかけておいて怖いのか?」
男は猫に問いかけた。猫はそれで自身を取り戻したようだ。笑いながら彼は答えた。
「いいや、変わったやつもいるものだと思ってな。いいだろう、僕が君に見せてやる。」
こうして一人の男と一匹の猫の旅が始まった。彼らは後後知るだろう、この出会いが«偶然»ではなく«必然»だということをそして、自らが背負し運命を・・・その時彼らは何を思い何を成すのか。さぁ宛のない旅を始めよう。
第1話
どちらも口を開かないまま、どれだけの時間が流れたのだろうか。不意に男が口を開いた。
「そういえば、まだお前の名前を聞いていなかったな」
猫は少し考える素振りを見せた後、男にこう言った。
「人に名前を聞くなら、自分から名乗るのが礼儀なのではないのか?」
男は今度は驚かなかった。
「済まない。私はあいにく自分の名を知らないのだ。」
猫は立ちどまって男の顔を見ながら言った。
「僕達は似ているようだな。僕は名前がないんだ。」
男は微笑みながら猫を撫でてやった。猫は気持ちよさそうに目を細めている。
「私が名をつけてやろうか?」
猫は首を横に降りながら、また歩き始めた。
黒猫を従えて街を歩く男。村人は黒猫に怯えているのかあるいは男に怯えているのか、一切近寄ろうとはしない。
男は誰かに袖を引かれ振り向いた。子供のようだ・・・ボロボロの服を着てこちらをじっと見つめている。
「おじさん・・・その猫触ってもいい?」
男はそれに対する答えを返そうと口を開きかけたが、甲高い声に遮られ結局は諦めた。
「危ないわ!黒猫やそれを従えてる人に近づくなんて!!黒猫は不幸を連れてくるのよ!?それを従えてるなんて«疫病神»か«化け物»よ!そんなものに近づかないで!」
随分とひどい言われようだ。喋るのが気持ち悪いと言うのならまだわかるが、黒猫は不幸を連れてくるなどという迷信を信じているとは・・・しかもただの人を«疫病神»や«化け物»などと・・・あぁ、考えるのはやめよう。こんな馬鹿に付き合っているほど私達は暇ではないのだから。
偶然と必然