女の子になりたいかもしれない系男子

 スカートを穿く。ときどき。
 お化粧は、したことがない。してみたい気もする。けれど、してしまったら後戻りできない気がして、こわい。けど、やってみたい。でも、いけない。
 スカートは、塾が一緒の友だちがくれた。白いフリルが段々になっている、膝下くらいのやつだ。友だちは、大学生のお姉ちゃんのクローゼットから内緒で持ち出してきて、ぼくにくれたのだった。
「穿いたら見せ合いっこしよう」
と、友だちは言った。友だちは、おなじ高校一年生であるが、この件でいえば、ぼくの先輩にあたる。ぼくが、その友だちだけに、ぼくの内情を打ち明けたのも、女の子の姿で街を闊歩していた友だちに、遭遇したからだった。友だちは、よお、と、塾で会ったときのような自然さで、声をかけてきた。
 最初は、まつ毛をカールさせるのに苦労した。冬のスカートはタイツを穿いても寒い。化粧はただ塗ればいいってもんじゃない。友だちは語った。ファストフード店のガラス窓に映ったぼくと友だちは、なんだか、つき合いたてのカップルみたいだと思った。でも、ぼくは、女の子が好きである。女の子とおつき合いしたいし、結婚したい。
 そんなんだから、女の子になりたいのか、単なる好奇心なのか、自分でもちんぷんかんぷんで、好奇心ならば一度、経験しちゃえば飽きると思うのだけど、万が一、そのまま目覚めてしまったらと想像すると、踏み切れないのだった。部屋でこっそりスカートを穿いて、姿見の前でくるっと回ってみるのが、精一杯であった。
「とりあえず、やってみれば」
 友だちは、軽々しい。友だちは、同性しか好きになれないことを、自覚している。でも女装は、そのための女装ではなくて、友だちが言うには、
「好きになってもらうなら、ありのままの自分がいいよ。本気で女の子になるつもりないし、おれ」
とのことだ。今はまだ年齢的に、おなじ嗜好の人たちが集うような場所には出入りできないし、ひとまずこういう恰好をしておけば、そっち系の男が引っ掛かるかもしれないから、続けているらしい。実際、友だちの女装の出来はあまり良くなくて、遠目なら誤魔化せるけれど、接近すると男だと一目でわかるのだ。すれ違った知らない奴に悲鳴を上げられたり、笑われたりするのも、もう慣れたという。
 ぼくには、どうかな。
 ぼくは、ヒトの顔色を窺って、アレおかしいなって思うことでも、それを正しいと主張するヒトが多数いるならば、おかしいなって思っていても多数派に乗っかっちゃって、自ら型にはまりたがる人間だから、彼のようには振る舞えないかもしれない。
 かわいいものが好きだよ。
 きれいな色の爪になってみたい。髪を長く伸ばして、髪飾りをつけてみたい。おおきなリボンのついた洋服を着てみたい。パステルピンクの靴を履いてみたいし、まつ毛を、お人形さんみたいな盛り盛りのばつばつにしてみたい。似合うか似合わないかは別として。
 お前は似合いそうだなって、友だちは言ってくれる。
 女の子になりたいかもしれない。でも、なりたくないかもしれない。
 あいまいでごめんね。でも、ぼくにもよく、わからない。

女の子になりたいかもしれない系男子

女の子になりたいかもしれない系男子

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-12-06

CC BY-NC-ND
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